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ド派手で残酷! 殺人鬼VS盲目の娼婦 ホラーの帝王ダリオ・アルジェントの原点回帰作『ダークグラス』

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ド派手で残酷! 殺人鬼VS盲目の娼婦 ホラーの帝王ダリオ・アルジェントの原点回帰作『ダークグラス』
『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S. 

ダリオ・アルジェントとジャーロ

スタイリッシュな衣装、小道具。過剰な残酷描写、刺激的なカメラワーク、テクニカルだけどキャッチーな劇伴。ミステリーであるにもかかわらず、物語の整合性を無視した突飛な展開と意外過ぎる犯人……。

ジャッロ、もしくはジャーロと言われる映画の特徴だ。1950年代から1970年代にかけて流行したジャーロ(/ジャッロ:イタリア産スリラー)の最高傑作と言われるのが、ダリオ・アルジェント監督の『サスペリアPART2』(1975年)である。前述した特徴を全て兼ね揃え、加えて彼のミューズとなる故ダリア・ニコロディとの初コンビ作品であった。

本作によって故郷イタリアはもちろんのこと、世界中でホラー映画監督として名を馳せたアルジェント。独自の感性を持つ彼はホラー映画の中でも、ひときわ異彩を放つ映画をコンスタントに発表し続けていた。しかし、今世紀に入ってからの作品の評判は思わしくなく、いわばスランプ状態に陥っていた。それゆえ『ドラキュラ3D( ダリオ・アルジェントのドラキュラ)』(2012年)、舞台「マクベス」(2013年)を最後に監督として休業状態となっていたのだ。

そんな中、ご無沙汰していたアルジェントの新作『ダークグラス』がアナウンスされたのは2021年。御年80歳を過ぎている彼。一体どんな映画になるのかとプロットを確認してみると……。

「事故で盲目となった娼婦が、偏執的な殺人鬼に襲われる」

――驚くほどシンプルなスリラーだった。実際に作品を観ても、上記の説明以外は“監督の独りよがりなこだわり”、つまり“必要のない情報”でしかない。やたらと残酷でド派手な事故シーン、妙に出血量の多い殺人シーン、色気の多いセリフに行動原理が掴めないキャラクターたち。これはどういうことか? そう、『ダークグラス』はジャーロなのだ!

『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.

70年代から続く“老舗の味”を、どう楽しむか?

ハリウッド映画と違い、欧州の映画はオブセッション(固執)に満ちている。制作者の「自分はこれがしたい!」とか「これで伝われ!」とか、そういった一方的かつ強い思い入れがやたらと詰め込まれているのだ。

とりわけアルジェント作品はそれが顕著。『わたしは目撃者』(1970年)の電車に挟まれてグルグル回る轢死体。『サスペリアPART2』の殺人シーン直前に登場する妙な自動人形。『シャドー』(1982年)の屋根を一周するカメラワーク。『フェノミナ』(1984年)の蛆虫プール……例をあげればきりがない。

https://twitter.com/psychotronica_/status/1520090301708349444

その点において『ダークグラス』はアルジェント至上、最高にオブセッションの塊となった作品といえるかもしれない。

冒頭、人を狂気へと追いやるかのような日蝕の映像。意味もなく襲いかかってくるミズヘビ。全く役立たずで横暴な警官。サングラスにやたらとこだわる主人公ディアナと、彼女の“赤”を強調した衣装。『サスペリア』(1977年)を彷彿させる盲導犬の扱い。

『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.

加えてこの盲導犬には、かつて犬猿の仲といわれたルチオ・フルチの『ビヨンド』(1981年)へのオマージュも垣間見られる。そしてディアナをサポートする介護士を演じた実娘アーシア・アルジェントが発する「強く生きろ」と言わんばかりの個性……。

『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.

ここまでくると、ダリオ・アルジェントのファンだけが楽しめる映画なのでは? と思えてくる。

しかし、そうではない。彼は常に“悪夢”をイメージして作品を作り続けているのだ。もちろん今回も例に漏れず、彼は「見えない恐怖」を描きたかったのだという。そして、アーシアはそれを補うかのように「闇と悪は密接に関係していると思う。内なる光は大切」と述べている。また『ダークグラス』の脚本自体は20年以上前に書かれ、アーシアを主人公にして撮影する準備まで行われていたが、制作会社の倒産により頓挫していたのである。

『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.

つまり、彼の原点回帰作と言われる『スリープレス』(2001年)と同時期に書かれていることを考えれば、『ダークグラス』は単純にアルジェントの原点回帰映画と思って観るのがいいのだろう。要は「アルジェントファンのための映画」ではなく、「いつものアルジェントと変わらない」映画なのである。

『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.

果たして、この70年代から続く老舗の味、「アルジェント定食」に今の映画ファンはどんな舌鼓を打つのだろう。おいしさの“舌鼓”なのか? 不満の“舌鼓”なのか?

“ネオ・ジャーロ”と呼ばれるジャーロテイストを強調した若手監督による作品も評価を得ている昨今、『ダークグラス』が元祖ジャーロのお手本として、そしてジャーロのさらなる再評価へと繋がることを祈りたい。

『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.

文:氏家譲寿(ナマニク)

『ダークグラス』は2023年4月7日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

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『ダークグラス』

ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生。その4人目のターゲットにされたコールガールのディアナもまた殺人鬼によって車を衝突させられ大事故に遭い、両目の視力を失ってしまう。同じ事故で両親を亡くした少年チンとの間に絆が生まれ、一緒に暮らすこととなるが、サイコパスの殺人鬼はその後もしつこくディアナたちを殺害しようとつけ狙う。

監督:ダリオ・アルジェント
脚本:ダリオ・アルジェント フランコ・フェリーニ

出演:イレニア・パストレッリ
   アーシア・アルジェント
   アンドレア・チャン

制作年: 2022