「登場人物すべてに前日譚がある」
―『オオカミ狩り』拝見しまして、大量の血糊に感激しました。何リットルくらい血糊を使ったのでしょうか?
(笑)。リットルでは計算してないんだ。特殊効果チームに聞いたけど、NGシーンを含めて2.5トンほど使ったよ。この血糊は韓国で開発した新しいものなんだ。堪能してくれたのなら嬉しいよ!
―前作『メタモルフォーゼ/変身』は、青色がベースの落ち着いたオカルトホラーでしたが、『オオカミ狩り』は攻めに攻めた真っ赤な作品になっていますね。なぜ今回は、このような作風となったのでしょうか?
私の転機になった作品に『必ず捕まえる』(2017年)がある。この映画は先輩の役者たち(ペク・ユンシク、チョン・ホジン)と仕事したんだけど、色々とアドバイスをもらう内に「ただがむしゃらに撮るだけではなく、一歩引いて、確実に撮りたい映画を撮る」ことが大切と気がついたんだ。そう思って作ったのが『メタモルフォーゼ/変身』だった。『オオカミ狩り』は、それを推し進めて落ち着いて撮った作品なんだ。
―“落ち着いて”撮った?
そう。例えば、君は“赤と青”という色で『オオカミ狩り』を表現してくれたよね。実は、私の中でも『オオカミ狩り』には“青い海に浮かぶ鉄の塊である船が、各々のキャラクターの血で赤く染まっていく”という一貫した色彩イメージがあったんだ。それが伝わったようで嬉しいよ。そういった明確な色彩イメージもそうだけど、映画作りをどうやってアップグレードさせていくか? を考えながら作ったし、今でも常に精進しているよ。
―わぁ、恐縮です。登場人物の中でもひときわ濃いパク・ジョンドゥですが、名前が気になります。ジョンドゥ(ジョン・ドゥ/John Doe)は身元不明の死体などに付けられる名前ですが、意味はあるのでしょうか?
ジョン・ドゥが身元不明死体? それは日本で使われる呼び名なのかい?
―いえいえ、アメリカですね。“名無し”という意味もあります。
うわー、それは知らなかった! いま覚えたよ!!(笑)。でも、ちゃんと私なりの意味はあるんだ。この映画の登場人物すべてに前日譚があって、元はTVシリーズ用に書いた脚本だったんだけど、話が大きくなり過ぎちゃって……。ジョンドゥのイメージは、えーっと、日本のドラマなんだけど知ってるかな?『ごくせん』っていう。
―知ってますよ!(元ネタは松潤……?)
じゃあ話は早いね。パク・ジョンドゥは、あのドラマに出てくる校内暴力上等な不良をイメージしてるんだ。『オオカミ狩り』には出てこないけど、彼の父親はパク・ピョンサムという名前になっている。この2つの名前は韓国では古くさい、ダサい、垢抜けない名前なんだ。でも『オオカミ狩り』本編で、ジョンドゥは洗練されてセクシーな容姿、だけど猛烈な残酷性をもっているよね? つまり、名前のギャップを狙ったんだ。
「ジョンドゥの物語は、脚本はほとんど出来ているよ」
―『オオカミ狩り』は、ジョンドゥや怪物が行う暴力描写が強烈です。どこまでエスカレートするのか? とワクワクして観ていました。
アクションシーン/殺人シーンを撮るのは大変だった。とはいえ、同じことを繰り返すと退屈な映画になってしまう。だからクリエイティブな死に方、殺し方というか……いいのかな、こんなこと言っても(笑)、それをずっと考えていたんだ。本当に大変だったし、プレッシャーもあった。でも楽しむことが一番と思って取り組んだよ。
―本作は、もはやホラー映画ではないですよね。
私の中では「ハイパー・リアリティ・アクション」と位置づけてるよ。殺されるか、逃げるか、殺すのか、捕まえるのか――本能的なリアクションを徹底的に描いたんだ。だからこそ、極端な残酷描写になった。
―特にジョンドゥが死体に放尿する場面は強烈です。
そうなんだよ! 私の中では『オオカミ狩り』の中でかなり重要な位置にある場面だね。というのは、ジョンドゥは長いこと収監されてたわけだよね。そんな彼が、あのシーンで久しぶりに自由になった。その開放感を表現したかったんだ。
―「シビれるぜ!」と彼は言いますね。
本当にこだわったんだ。体調って尿に現れるよね? どんな色なのか、どんな勢いで、どんな放物線を描くのか、苦心したよ。これは冗談で言ってるんじゃないからね、本気だよ!
―……何テイク撮ったのですか?
綿密に準備したから3テイクだよ。ジョンドゥを演じたソ・イングクもしっかりとやってくれたしね。バッチリだった。
―ところで、ジョンドゥの前日譚、とても興味があります!
パク・ジョンドゥの物語は脚本はほとんど出来ているよ! まだ詳しくは言えないけどね。
――終始、笑顔で語ってくれたキム・ホンソン監督。色彩の話からテンション爆上げで、ジョンドゥの話になると時間を忘れて次々とエピソードを披露してくれる気さくな方だった。落ち着いて撮った作品がこんなに血まみれとは、先々恐ろしい監督だ。
彼の考えたハイパー・リアリティ・アクション『オオカミ狩り』、ぜひ劇場で堪能して頂きたい。
取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『オオカミ狩り』は2023年4月7日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
『オオカミ狩り』
2022年、フィリピン マニラ。現地で逮捕された犯罪者たちを乗せた貨物船“フロンティア・タイタン号”が釜山港に向けて出航した。長年、凶悪犯罪を担当してきたベテラン刑事の約20人が護送官として乗船。釜山では、海上交通管制センターで海洋監視システムを設置。万全な体制により、韓比共同護送計画(プロジェクト名:オオカミ狩り)が進められた。監獄化した貨物船には、13名に対する殺人および殺人教唆、強姦罪に問われ第一級殺人犯として国際手配されたジョンドゥ(ソ・イングク)、特殊暴行17件で赤手配者のドイル(チャン・ドンユン)など極悪非道な犯罪者たちが収容されていた。その夜、密かに脱走を企てていたジョンドゥと刑事として紛れ込んでいたジョンドゥの一味により暴動が勃発。船上は武器を手にした犯罪者たちで溢れかえる。仲間以外は誰であろうと容赦なく殺める犯罪者たちと彼らに立ち向かう警察。そこに、眠っていた“怪人”が目を覚まし、熾烈な戦いが幕を開ける。地獄の航海から生き残るのは誰か……。
監督・脚本:キム・ホンソン
出演:ソ・イングク チャン・ドンユン
ソン・ドンイル パク・ホサン チョン・ソミン
コ・チャンソク チャン・ヨンナム チェ・グィファ
制作年: | 2022 |
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2023年4月7日(金)より新宿バルト9ほか全国公開