どうなるDCユニバース
ジェームズ・ガン監督によるDC映画の大改革=DCユニバースがもうすぐ始まります。いまはDC映画にとって嵐の前の静けさ状態。そうした中で『シャザム!~神々の怒り~』が公開されました。
この作品、非常に心配していました。出来栄えに対しての不安ではありません。いまのところジェームズ・ガン監督らのDCユニバース構想の中に『シャザム!』の名はない。また、本作と親和性のあるドウェイン・ジョンソンの主演作『ブラック・アダム』は批評筋にも興行的にもイマイチだったようで、どうやらこの1作かぎりで終わってしまいそう(ちなみに僕的には歴代DC映画の中でも上位にくる面白さでした!)。
というわけで『シャザム!』も本作で見納めになるのではないかと……。でも、そんな心配をふっとばしてくれる快作でした。
※以下、映画の内容に触れています。ご注意ください。
なぜシャザムたちは“神”の逆鱗に触れたのか?
魔法使いに見いだされたビリー少年は「シャザム!」という呪文を唱えることでスーパーマン級の超人に変身します。そしてビリー少年の血のつながらない姉、妹、弟たち(ビリーたちは孤児であり、優しい里親の下で暮らしているのです)も、彼から能力をおすそ分けしてもらって同じように変身することができます。こうしてビリーを含む6人の子どもたちはホームタウンであるフィラデルフィアで、ひとたび大事件が起これば「シャザム!」と叫んで変身し、街の人を救うため大活躍します。
ビリーたちの力の源は6人の神様の持つ力。その6人の神様の頭文字を並べると「S.H.A.Z.A.M.(シャザム)」になるわけですね。
ビリー役はアッシャー・エンジェル、変身後はザッカリー・リーヴァイ(2019年の東京コミコンにも来てくれました)というWキャスト。つまり子どもの時とヒーローモードの時で役者が変わるのですが、今回はメアリー役のグレイス・キャロライン・カリーだけ、人間モードと変身モードの両方を演じています。
さて、今回の『シャザム! ~神々の怒り~』ですが、“神々の怒り”という副題が示すように、神様がビリーたちに怒り、攻撃を仕掛けてくるのです。
それはなぜか? 実は、この呪文によって与えられる神々のパワーは神様が“貸してくれた”ものではなく、魔法使いが神様から“奪った”ものだったのです! それ故、「S.H.A.Z.A.M.」の三番目の「A」に該当する神アトラスの娘たち=三姉妹が「父親の力を返せ」とビリーたちに迫る。しかも三姉妹の中で最も過激な次女は人間そのものを憎んでおり、人間界を滅ぼそうとします。こうしてビリーたち6人とアトラスの三姉妹の戦いが始まるのです。とはいえ三女はいい人で、ビリーの弟分フレディ(彼が本作の事実上の主役)と恋仲になり、人間界を救おうとします。
ビリーたちが神々の娘と戦うというエピソードは原作コミックになく、映画オリジナル。今回この三姉妹を演じるのが、長女ヘスペラをヘレン・ミレン、次女カリプソをルーシー・リュー、そして三女アンテアをレイチェル・ゼグラー(『ウエスト・サイド・ストーリー』[2021年]のマリア役でお馴染み)という豪華な布陣。華と強さがあるヴィランです。
この戦いの最中、街にはミノタウロスとかサイクロップス(これは絶対レイ・ハリーハウゼンの名作『シンバッド七回目の航海』[1958年]へのオマージュです!)等の神話の怪物たちが暴れまくり、カリプソは最強のドラゴン、その名も“ラドン”(!)に乗って襲い掛かってくる。しかもビリー以外の子どもたちは変身するパワーを奪われてしまう、という危機的状況です。
ホラー畑出身の監督によるヒーロー✕ジュブナイル的な楽しさ
この『シャザム!』という映画はスーパーヒーロー物ではあるのですが、他のヒーロー映画とはちょっと違う。どちらかというと少年少女たちの冒険が主で、そこにヒーローという要素が絡んでくる。要はヒーロー活劇がスパイスのジュブナイル的な楽しさ。『E.T.』をエイリアン物と呼ぶぐらいのレベルで、『シャザム!』シリーズはスーパーヒーロー物です。
そして本シリーズに影響を与えているのは『グーニーズ』(前作はこの映画にちなんだ名前の店が出てくるし、今回もビリー少年がこのロゴのTシャツを着ています)、最近の作品だと『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『IT/イット』シリーズでしょうか。特に後者の持つ怖さは『シャザム!』シリーズにも共通します。
これは前作から監督を務めているデヴィッド・F・サンドバーグが『ライト/オフ』『アナベル 死霊人形の誕生』等もともとホラー映画畑の人であり、また映画自体もワーナー傘下でホラーを得意とするニューライン・シネマの製作ということが影響しているかもしれません(他のDCヒーロー映画はだいたいワーナー本体の映画なのです)。
劇中“フルチ”という看板が出てきますが、これは『サンゲリア』(傑作です!)で知られるイタリアのホラー映画監督ルチオ・フルチへのオマージュだそうですから。なのでジュブナイルという割には、ちょっと怖い描写もあります。あ、前作同様『死霊館』シリーズのアナベルちゃん人形も出てきますよ。
とはいえ前作同様、少年少女たちの冒険部分が楽しいし、後半は神話の怪物相手のバトルと見せ場も沢山。そもそも変身したビリーたちはスーパーマン級に強いので、それなりの敵が襲って来ないと大バトルにならない。その意味で絶大な力を持つ神の娘が最強のドラゴンに乗ってやってくるわけですから、相手にとって不足なし。
分割予定「あのDCヒーローの特別出演に大興奮!」
あのDCヒーローの特別出演に大興奮!
僕がワクワクしたのは冒頭の、6人が変身して巨大橋の救出に向かうシーン。“橋”というのはヒーロー物の中で、とても絵になるんですね。
クリストファー・リーヴの『スーパーマン』(1978年)でも、ジェシカ・アルバ主演の『ファンタスティック・フォー 超能力ユニット』(2005年)でも、またいくつかのスパイダーマン映画でも、橋の上での救出アクションという見せ場がありました。たくさんの車が停まっていて、下には海、いつ橋が落ちるかわからない……というサスペンスがある。今作でも、6人のヒーローが災害に駆け付けるシーンは鳥肌もののかっこよさです。
加えて“家族”というのが本作の重要テーマです。ビリーたちは血のつながらない家族ですが、心で強く強く結ばれています。養母がビリーをヒーローとして送り出すシーンに不覚にも涙してしまいました。今回は前作以上に“泣ける”シーンも多い。
家族と言えば、変身したビリーが家族の強さの象徴として『ワイルド・スピード』シリーズを持ち出します。それを聞かせる相手がヘスペラ、つまりヘレン・ミレンというのが面白い。ヘレン・ミレンは『ワイスピ』に重要な役で出ていますからね。
そして、あのDCヒーローが特別出演!! ここは「おおおお!!!」と叫んでしまいます。その“ほのめかし”はあったのですが、ここでちゃんと出てくるとは!
“マーベル”なトリビアと今後のDCユニバース
ところで、このコラムの中で僕は「ビリーが変身した超人」という言い方をしていますが、実はシャザム!とは正確に言うとヒーロー名ではなく、呪文の言葉です。だからビリーたちが変身したヒーローには正式な名前がなく、ビリーたちの自称やマスコミが勝手に呼んでいる名前が流通している。しかし本作の最後で、ようやくヒーロー名が正式に決まります。
ヒーロー名といえば、ある年配の男性が変身したビリーのことを「キャプテン・マーベル」と呼びます。このシーンは2つの意味でトリビアがあって、まずこの役を演じているミシェル・グレイは1974年のTVドラマ『SHAZAM!』の出演者。さらに、このヒーローはもともと“キャプテン・マーベル”というコミックだったのですが、後にマーベルとの商標上の問題もあって、この名前を使わなくなった経緯があるのです。そこをうまく突いた、ニヤリとするシーンです。
というわけで映画全体はとても楽しめたのですが、僕の最初の不安はどうなったのか? 結論から言うと、『シャザム!~神々の怒り~』は今後のDCユニバースの中でも継続されるのではないかと思います。そう思わせるフリがいくつかある(笑)。なので、ちょっと安心してスクリーンを後にしました!
文:杉山すぴ豊
『シャザム!~神々の怒り~』は2023年3月17日(金)より全国公開中
『シャザム!~神々の怒り~』
ごく普通の少年ビリーは、魔法の呪文「シャザム!」を唱えると、神々の力を宿したスーパーヒーローに大変身!そんな“見た目はオトナ、本当はコドモ”の半人前ヒーローのシャザムが、神々を怒らせてしまった…!? 復讐に燃える“神の娘たち”がペットのドラゴンを引き連れて地球に降臨。未曾有の危機を前に、ビリー=シャザムは人類や世界のためではなく、ダメな自分を受け入れてくれた仲間のために立ち上がるが…。神々の力を手にするシャザム VS 怒れる神の娘たち。神様だらけの最強バトルが開幕する!
監督:デヴィッド・F・サンドバーグ
脚本:ヘンリー・ゲイデン クリス・モーガン
出演:ザッカリー・リーヴァイ アッシャー・エンジェル
ジャック・ディラン・グレイザー アダム・ブロディ ロス・バトラー
ミーガン・グッド D・J・コトローナ グレイス・キャロライン・カリー
フェイス・ハーマン イアン・チェン ジョバン・アルマンド
マルタ・ミランス クーパー・アンドリュース ジャイモン・フンスー
レイチェル・ゼグラー ルーシー・リュー ヘレン・ミレン
制作年: | 2023 |
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全国公開中