「見た目は子供、頭脳は大人」な名探偵コナン的サイコキラー、エスターが帰ってきた! 2009年の1作目『エスター』から実に13年ぶりに制作された『エスター ファースト・キル』は、なんと1作目撮影時に10歳だったイザベル・ファーマンが、またもエスターを演じるというサプライズキャスティング。
というわけで、いかにして23歳(撮影当時)のイザベル・ファーマンが見た目10歳のエスターを演じ切ったか、たっぷり語ってもらいました。
「エスターは常に家族を求め、愛情を求めている」
―何度も言われているかと思いますが、まさかイザベルさんが演じるエスターにまた会えるとは! とビックリしています。
ありがとうございます。私自身も驚いています(笑)。
―エスターは『13日の金曜日』のジェイソンや、『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズ、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスなどと並ぶ映画で有名な殺人鬼ですが、エスターは彼らと違ってマスクを被らずイザベルさんの素顔のままですよね。だから、正直“イザベル・ファーマンが続投する形での2作目”は想像していませんでした。
おっしゃる通り、エスターはジェイソンやレザーフェイスみたいなマスクは被っていないけれど、精神的には常にマスクをつけているんです。前作でエスターというキャラクターを演じた時、なぜここまでダークな人物なのか、いったいどんな人生を歩んできたのかを知るよう努力しました。そこでわかったのは、結局エスターは常に現実から逃げているんですよね。
―たしかに、対峙する人によって人格や態度がコロコロ変わりますよね。例えば本作では、エスターが暮らすことになる一家の主人であるアレン(ロッシフ・サザーランド)の前では常にいい子ちゃんであったり。
そうやって人を操ってきたんですよね。これは物理的なマスクを被っているよりも怖いことなんです。笑顔のまま背後から刺されるかもしれないですから。エスターは常に家族を求め、愛情を求めているんですが、自身の境遇ゆえに平穏に暮らすことを諦めなければいけなかった。そこで他の方法を探った結果、破滅的な道を歩むことになった、というのが私の理解なんです。
1作目でエスターの人物像はじゅうぶん描いていたので、もうすでに観客はエスターのことは知り尽くしています。だから今回の作品では、観客がいかにヴィランとしてエスターを応援したくなるかが肝でした。エスターというキャラクターに惚れ込んでくれるような演じ方を模索したんです。
「もう23歳なのに、どうやって10歳を演じればいいの?」
―過去のインタビューで、「エスターを演じるうえでアンソニー・ホプキンスが演じた『羊たちの沈黙』(1991年)のレクター博士を参考にした」とお答えになっていたのを読みましたが、その他に何かインスピレーションをもらったり、参考にされた映画はありますか?
前作の監督であるジャウム・コレット=セラが「今回はこれを観ておいてください」と勧めてくれたのが『イヴの総て』(1950年/監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ)でした。
―田舎から出てきた俳優志望の女性イヴ(アン・バクスター)が、ベティ・デイヴィス演じる大女優マーゴの付き人から始まって、演劇界の権力者たちに取り入りのし上がっていく様を描いた映画ですね。
ジャウム・コレット=セラから「本作のエスターの見た目はかわいらしくて良い子だけど、周りの人間を心理面で操っていくような側面が似ているので参考にしたらどうか」ということで観たんですが、エスターを演じる面ですごく助かりましたね。
―エスターとして再びカメラの前に立った時、どんなことを感じたか覚えてますか?
最初は「もう23歳なのに、どうやって10歳を演じればいいの?」と不安に襲われました。コスチュームを着てカメラテストをしても私的にはしっくりこなかったんです。そこで監督のウィリアム・ブレント・ベルと撮影監督のカリム・ハッセンと話をして、照明をどうするか、どのような角度、方法で撮影すれば子供に見えるのか、そんなような話し合いをすることによって、だんだんと「これならまたエスターになれるかも」という安心感が強まっていきました。
でも、どこかでずっと不安だったんです。本当に安心できたのは、最終的に完成した映画を観た時ですね。「なんとかやり遂げることができた!」と。そう思えたのは、私の演技だけじゃなく、体部分を演じたケネディとサディの2人の子役をはじめ、チーム全員の努力のおかげでもあります。
「ずっと中腰だったので、脚も丈夫になりました!」
―今回イザベルさんはエスターの経験者として、衣装やセリフに関することなど撮影前からアイデアを出していたんですか?
そうですね。1作目においてはクリエイティブに関することはすべて周りの大人たちに従って、私はエスターを演じていただけでした。でも今回はプロデューサーも務めているので、前作よりは深く関わっているんです。どのように新しいエスターを見せていくか、前作との違いをどんな形で観客に見せていくか。それと同時に大切だったのは、前作で作り上げたエスター像をいかに守っていくか、ですね。そのようなことは企画段階から私もミーティングに参加しました。私は、いわばエスターのエキスパート、専門家ですから(笑)。ウィリアム監督も疑問が湧いた時、まず私のところに来て訊いてくれたんです。
―本作の撮影では『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズと同じように遠近法を駆使したり、しゃがんだ姿勢のままだったりと、かなり大変な撮影だったようですね。
慣れるまでは本当に大変でしたね(笑)。でも、自分が小さく映っているということがしっかり理解できてくるうちに慣れました。ずっと中腰だったので、脚も丈夫になりましたし! その一方で、ロッシフ・サザーランドさんやジュリア・スタイルズさんは高さ18センチの厚底靴を何時間も履いて演じてくれました。それはそれでとても大変だったはずです。特殊な撮影方法に付き合ってもらい、なおかつ素晴らしい演技を見せてくれたことに本当に感謝しています。
「照明やカメラの位置で、いかに私を子供として観せるか?」
―本作の撮影監督であるカリム・ハッセンさんは、カルト映画『大脳分裂』の監督であり、最近ではブランドン・クローネンバーグ監督ともよくお仕事されています。彼との仕事はいかがでしたか?
本作の肝のひとつである、CGなどは使わずにアナログな手法で撮影をするというのも、すべてカリム・ハッセンさんのアイデアなんです。撮影はちょうどコロナ禍に行われたのですが、最初のカメラテストはリモートで、私はL.A.、カリム・ハッセンさんはカナダからの参加でした。
そこで彼は、照明やカメラの位置を事細かに指示して、いかに私を子供として観せるか? ということを実践してみせました。エスター役に別の子供をキャスティングするのではなく、私をエスターにするということを、周りの人に説得してみせてくれたんです。言ってみれば彼のおかげで、わたしは再びエスターを演じることができたんですよ。
―そうだったんですね! 肉体的にも大変な撮影だったということですが、もう一度やってほしいと言われたらどうします?
もちろんやります! ファンの皆さんが「もう一度エスターを観たい!」と声を上げてくれたら、私は何度でもエスターを演じたいと思っています。
取材・文:市川夕太郎
『エスター ファースト・キル』は2023年3月31日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
『エスター ファースト・キル』
2007年、アメリカで暮らすオルブライト家は、4年前に6歳で行方不明となった愛娘エスターの失踪事件に今なお心を痛めていた。そんなある日、エスターが保護されたという思いがけない知らせが夫妻のもとに届く。この奇跡のような出来事を手放しで喜ぶ一家。驚くほど成長したエスターは聡明で才能も豊か。画家の父親に昔以上にべったりだった。また、あの幸せな時が帰ってくる―。
監督:ウィリアム・ブレント・ベル
脚本:デヴィッド・コッゲシャル
出演:イザベル・ファーマン
ジュリア・スタイルズ ロッシフ・サザーランド
マシュー・アーロン・フィンラン
制作年: | 2022 |
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2023年3月31日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー