IMAX上映を想定した没入型ドキュメンタリー
20世紀から21世紀、およそ半世紀にわたって音楽を中心にさまざまなメディアで注目を集め続けたデヴィッド・ボウイ。その影響力は、2016年の衝撃的な死から7年の時を経てなお絶大だ。この春、日本公開される『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』は、そんなボウイの世界へと観客を誘うドキュメンタリー映画。IMAXでの上映を想定したあざやかな色彩と音響が観る者を包み込む、没入型の映画体験を目指した作品だ。
一般的な「伝記もの」とは違い、ナレーションや関係者インタビューは一切なし。全編がボウイ自身が遺したインタビューから編集された言葉によって進行する。そんな大胆な構成が可能になったのは、デヴィッド・ボウイ財団が管理する膨大なアーカイヴがあったからこそのこと。本作は同財団が初めて全面的に協力し、公認したボウイのドキュメンタリーでもあるのだ。
監督は数々の人物ドキュメンタリーを手掛けてきたブレット・モーゲン。これまでの作品には映画プロデューサーのロバート・エヴァンスについての『くたばれ!ハリウッド』、ローリング・ストーンズの『クロスファイアー・ハリケーン』、ニルヴァーナのカート・コバーンに迫った『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』などがある。『ムーンエイジ・デイドリーム』の制作は、モーゲン監督にとっても人生の転機となったようだ。
「大きな心臓発作を起こし、1週間も昏睡状態に陥りました」
―この作品の企画は、どのようにはじまったのですか?
まず、2015年に「IMAXミュージック・エクスペリエンス」と銘打ったアイデアを提案したんです。科学博物館に入っているようなIMAXの劇場で、夜に40分程度のスペクタクルな音楽ものシリーズをやろうと。7時にビートルズ、8時にツェッペリン、9時にビヨンセ、10時にボウイ……みたいな。それは実現しなかったのだけど、ボウイ財団とお話したところ、デヴィッドは存命の頃からすごくしっかりしたアーカイヴを整備していたことを知りました。
ボウイは、ドキュメンタリーを作るなら関係者がいろいろ話すような伝統的なものにはしたくないということも生前に言っていたんです。彼としては、専門家が出てきて語ることで、自分の真実ではなく他の人の真実になってしまうという懸念があったそうなんですね。ぼくも伝統的なドキュメンタリーではなく映画的体験ができるものにしたいと考えていたので、両方のアイデアが合致したところからすべてがはじまったんです。
―膨大な資料に長い時間をかけて目を通したとお聞きしました。
『ムーンエイジ・デイドリーム』制作の7年にわたる偏執狂的な旅がはじまりました。ぼくは欲深いことに、自分自身でリサーチをしたいと思ったんです。最初の年はアーカイヴを自分のオフィスに持ってきて、本を読んだり学術的な調査をしていました。そうこうするうちに2017年1月、ぼくは大きな心臓発作を起こし、1週間にわたって昏睡状態に陥りました。その経験を経て改めてアーカイヴに触れると、より深いインパクトがありましたし、自分に響くようなボウイの考え方であったり、エネルギーであったりが作品の方向性を変えていきました。もともと崇高なスペクタクルを作るつもりではじめたけれど、結果的にできた作品は、自分にとって人生を肯定するような、回復のロードマップのようなものになったんですよね。
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
現代において最も影響力のあるアーティストにして“伝説のロック・スター”デヴィッド・ボウイの人生と才能に焦点を当てる『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』。
30年にわたり人知れずボウイが保管していたアーカイブから選りすぐった未公開映像と「スターマン」「Changes」「スペイス・オディティ」「月世界の白昼夢」など40曲にわたるボウイの名曲で構成する珠玉のドキュメンタリー映画。
監督・脚本・編集・製作:ブレット・モーゲン
音楽:トニー・ヴィスコンティ
音響:ポール・マッセイ
出演:デヴィッド・ボウイ(アーカイヴ映像)
制作年: | 2022 |
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2023年3月24日(金)よりIMAX/Dolby Atmos同時公開