「親だからといって、子供が抱える問題を何とかできるとは限らない」
―この映画でとても辛いことは、両親がそれぞれのやり方で懸命に子供の問題に向き合うにも拘らず、思うように進展しないことです。その点について、あなた自身の見方はどのようなものでしたか。
それについては僕らもみんなで話し合ったよ。残念ながら映画で描かれているように、愛だけで解決できるわけではない。だから力が及ばない状況のなかで親にできることは何なのか? ということになるけれど、はっきりとした答えはないと思う。なぜなら親と子供は違う人間であって、親が子供の代わりになれるわけではないから。
またこのストーリーのなかでは、ピーターと、アンソニー・ホプキンス演じる彼の父とのシーンも素晴らしい。それによって観客は、ピーターの人間性をもっとよく理解できる。自分の冷酷な父親のせいでピーターがトラウマを負っていること、そして彼は意識的に息子に対して、自分の父とは異なる選択をしようとしていることがわかる。
―たしかにピーターは、最初はずいぶんしっかり者の印象だったのが、とても傷つきやすい存在だということが、映画が進むにつれてわかっていきます。それは胸を打つことですが、そうした彼の複雑さについては、どのように解釈しましたか。
うん、まさに彼の変化は痛々しい。僕が考えたのは、彼にとって、自分が強くて何にでも対処できると信じることが、とても大切だったのではないかということ。本心はどうしていいかわからないかもしれないし、問題を残したまま家を出てしまい子供を見放したことに、罪の意識を感じているかもしれない。自分の父親がしてくれなかったことによって彼は、自分なら息子を何とか助けられるという信念を持ったのかもしれない。こうしたことはすべて、彼が実際にできるかどうかは別として、そう思うこと自体が彼にとって大事だったのであり、信じることが彼に救いをもたらしていたのだと思う。
父親に見放された過去があるから、自分は岩のように強くなって息子を守るのだと思っている。で、自分にとってこの物語が感動的なところは――願わくば観客にもそう思って欲しいけれど、「何とかできなくてもいいんだよ、親だからといって、何とかできるとは限らないのだ」と、理解させられるところなんだ。
「ダンスのシーンは17歳の娘のアドバイスに従ったんだ(笑)」
―この作品の経験によって、メンタルヘルスに対する考えは変わりましたか?
もっと理解できるようになったし、問題を抱えている人たちに対して、とても共感するようになった。人々をジャッジするのではなく、彼らの経験を想像することが大事なのだとわかった。それに自分の家族や過去に対しても考えさせられた。親として、子供に対して自分自身の脆さを素直に見せられるようになったと思う。
―最後に、映画のなかに登場するあなたのダンス・シーンは唯一、ほっと息がつけるような素敵なものでしたが、あのディスコ・スタイルのダンスはどのように生み出したのですか?
ははは、即興だよ。じつはダンスが得意な17歳の娘に相談したんだ。「不器用な父親が踊るような感じなんだけど」と説明したら、「それならただカメラが周り始めたらその気になって踊れば大丈夫」と言われて(笑)。実際、そのアドバイスに従ったんだ。
取材・文:佐藤久理子
『The Son/息子』は2023年3月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー
『The Son/息子』
高名な政治家にも頼りにされる優秀な弁護士のピーターは、再婚した妻のベスと生まれたばかりの子供と充実した日々を生きていた。そんな時、前妻のケイトと同居している17歳の息子ニコラスから、「父さんといたい」と懇願される。初めは戸惑っていたベスも同意し、ニコラスを加えた新生活が始まる。ところが、ニコラスが転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。なぜ、人生に向き合わないのか? 父の問いに息子が出した答えとは──?
監督・原作戯曲:フロリアン・ゼレール
脚本:フロリアン・ゼレール クリストファー・ハンプトン
音楽:ハンス・ジマー
出演:ヒュー・ジャックマン
ローラ・ダーン ヴァネッサ・カービー
ゼン・マクグラス アンソニー・ホプキンス
制作年: | 2022 |
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2023年3月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー