率直に言って、アカデミー賞にも匹敵すると思えるヒュー・ジャックマンの演技が素晴らしい新作、『The Son/息子』。前作『ファーザー』で各国の賞を総なめにしたフロリアン・ゼレール監督が、再び父と子の物語を描いた本作は、離婚した妻と同居している17歳の息子が深刻なうつ病であることを知った父親が、なんとか助けようとすればするほど歯車が狂っていく……という物語である。
ゼレール監督に自らアピールし、製作総指揮も手がけたほどこの物語に惚れ込んだというジャックマンが、本作のテーマについて、熱く語ってくれた。
「このピーターという役をぜひ演じたい」
―あなたは本作の製作総指揮も手がけていますが、映画化についてまずあなたの方からフロリアン・ゼレール監督にアプローチをしたそうですね。どんな経緯だったのでしょうか。
もともとの芝居は観ていないけれど、前作の『ファーザー』を観てから本作の脚本を読んだんだ。じつはもっと以前に彼の他の戯曲をやろうとしたんだけど、そのときは実現しなかった。とにかく、僕は以前から彼の作品のファンだった。でもとくに本作の脚本を読んだとき、はらわたが燃えるような感覚を覚えた。強い衝動と、恐れと、そして俳優としてふだん滅多に感じることのない、素晴らしい感情。それはどこか、自分の人生のこの時期に出会ったこの役を演じなければならない、というような強い気持ちだった。
それでフロリアンにメールでコンタクトをとったんだ。「もしかしたらすでに誰か他の俳優と企画を進めているかもしれないけれど、そしてもしそうだとしたら、自分は割って入るような性分ではないけれど、もしそうでなければ、このピーターという役をぜひ演じたい。ついてはぜひ話をしたい」という趣旨で。そうしたら彼はすぐに返事をくれて、ZOOMで話をした。もしこの役を演じられなかったらと、どきどきしたけれど、彼が最初のミーティングですぐにイエスと言ってくれたので、本当にほっとしたよ(笑)。
「フロリアンは神聖とも言えるスペースを俳優に与えてくれる」
―こう考えるのは短絡的かもしれませんが、子供を持っていらっしゃる身にとっては、この物語はなおさら胸に響いたのではありませんか?
それは同感だね。もちろん親子の問題や、メンタルの問題というのは誰にでも伝わる普遍的な話だとは思うけれど。個人的に今回は一番、プライベートと仕事を分けるのが難しかったと思う。撮影中はずっとよく眠れなかったし、妻からもいつもと違うと言われた。いまでも作品を観ると、とてもエモーショナルになる。それはストーリー自体がとても感動的だからということもあるし、フロリアンの映画の現場がそうだったということもある。
フロリアンとの仕事は特別だ。彼はリハーサルをまったく望まなかった。びっくりしたよ。だって彼は演劇出身だから。でも理解したのは、彼は俳優をとても信頼して、僕らが役を生きられるような、ほとんど神聖とも言えるスペースを与えてくれること。そしてそんなやり方のなかで、僕らはお互いを信頼し、とても親密な絆を持つことができた。実際この映画では彼とだけではない、すべての共演者とすぐに、とても強い絆を持てた。そんなことはほとんどないことだ。でもそれはフロリアンに多くを負っている。そして、このストーリーがもたらしたものでもあると思う。
『The Son/息子』
高名な政治家にも頼りにされる優秀な弁護士のピーターは、再婚した妻のベスと生まれたばかりの子供と充実した日々を生きていた。そんな時、前妻のケイトと同居している17歳の息子ニコラスから、「父さんといたい」と懇願される。初めは戸惑っていたベスも同意し、ニコラスを加えた新生活が始まる。ところが、ニコラスが転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。なぜ、人生に向き合わないのか? 父の問いに息子が出した答えとは──?
監督・原作戯曲:フロリアン・ゼレール
脚本:フロリアン・ゼレール クリストファー・ハンプトン
音楽:ハンス・ジマー
出演:ヒュー・ジャックマン
ローラ・ダーン ヴァネッサ・カービー
ゼン・マクグラス アンソニー・ホプキンス
制作年: | 2022 |
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2023年3月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー