「ケイジは突然アイデアが浮かんで『やってみたい』と言い出すんだ」
―ハビやCIAなど、主人公ニックを取り巻く人々のやり取りからは、これまでケイジがいかに幅広い世代の人々を楽しませてきたかが窺い知れますし、アクションからロマンス、コメディ、アニメ声優まで、彼の多彩なキャリアに改めて驚かされます。そして本作が単なるメタコメディになっていない大きな理由の一つは、ケイジ本人へのリスペクトなのではないかと思いました。
映画としては、ニコラス・ケイジのメタコメディというだけでなく、一つのストーリーが成立していなければならないよね。自分の過去に苛まれていて、それでも未来へと歩みを進めていかなければならないんだけど、なかなかうまくいかない。そんな“ある男”の物語を描きたかったんだ。
本作のニックは自分自身と対峙することで、より良い元夫、より良い父親、より良い役者になっていく。その真面目なストーリーと、面白おかしいメタコメディとのトーンを、いかに統一していくか? という部分が難しかった。でも最終的には心が揺り動かされる感動的な物語に仕上げたい、という意図もはっきりあったよ。その点に関しては、観客から「ニコラス・ケイジがテーマのコメディで感動させられるなんて、予想もしてなかった」といったコメントをもらえて嬉しかったね。
―劇中たびたび登場する“ヤング・ニッキー”の表情はとてもリアルですが、どのように作り上げたのですか?
当初ニッキーの登場シーンはもっと多かったんだけど、なにしろケイジがあまりにも熱演してくれたものだから、これは少し削ったほうがいいかな……となったんだ(笑)。とはいえ僕自身ボディダブルを使った演出をしたことがなかったし、技術的にもかなりチャレンジングだった。ケイジもカメラの左右で演技しなきゃいけなくて……もっとも彼は『アダプテーション』で既にそれをやっていて、しかもこの映画の中にそれを暗喩するシーンもあるという(笑)。
一番大変だったのが、ケイジは突然アイデアが思い浮かぶことがあって、急に「これをやってみたい」と言い出すから、現場はてんやわんやになるんだ。例えば“自分で自分に☓☓する”シーンがあるけど、あれは本人が「ここで俺が俺に☓☓したら面白いよね。ちょっとやってみようか」って言い出して。それを聞いた僕らは、モニター越しに「それはたしかに面白いアイデアだ……どうする? ……よし、やりましょう!」みたいな(笑)。
そのシーンではボディダブルを用意して、ケイジが相手の頭の後ろに手を回すという演出をつけたんだけど、彼は「おいおい、それはやりすぎだろう。僕を利用するのか? 勘弁してくれよ~」なんて冗談を言いながら反対するんだ(笑)。でも結局はやってくれて、「今のどうだった?」と言いながらモニターに駆け寄ってきてチェックして、「うん、悪くないね。もう一回やってみようか」なんて言ったりしてね(笑)。
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— ComicBook NOW! (@ComicBookNOW) April 23, 2022
「これほどまでの役者だとは。監督として夢のような体験だった」
―実際にニコラス・ケイジとお会いして、会う前と印象は変わりましたか?
印象はだいぶ変わった。一定の世代のアクションスターには“演出するのが大変で監督は地獄を見る”みたいな印象がついて回るものだと思うけれど、当初は彼もそういう人なのかなと思っていたんだ。でも実際に一緒に仕事してみたら全く違った。僕は過去に、あれほど徹底的に準備する人と組んだことはないよ。
この映画の台本は125ページあるんだけど、撮影開始1週間前に読み合わせが始まった時点で、彼は全てのセリフを完全に暗記してくれていたんだ。だから既に、台本が手元になくても読み合わせができるという状態だった。
あと、彼は毎朝ワークアウトをするんだけど、撮影中もクロストレーナーに乗りながら脚本に目を通してくれて、なにか意見があれば僕にメールをくれたんだ。逆に「こうやって頻繁に連絡してるけど、君は迷惑じゃない?」って聞いてくれるくらいで。ただ、最初は「いえいえとんでもない!」って言ってたんだけど、撮影終盤には「すみませんケイジさん、ちょっと対応できなくなってきました……」って僕のほうが音を上げる始末で(笑)。それくらいこだわりを持ってやってくれたよ。
彼は1分たりとも遅刻しないし、その日の撮影が終わるまで現場にいて、他のキャストとも細かくやり取りしてくれた。これほどまでの役者だとは知らなかったし、監督としては夢のような体験になったよ。
―本作には『グランド・ジョー』(2013年)を監督したデヴィッド・ゴードン・グリーンも出演していますが、最初にあの役をオファーしたのはデヴィッド・リンチだったというのは本当ですか?
本当だよ。でも最初はマーティン・スコセッシに声をかけたんだ(笑)。彼は「OK、やるよ」と言ってくれてたんだけど、コロナ禍で撮影が中断している間に別の撮影が決まってしまってね。それでリンチに声をかけたものの、やっぱりコロナ禍の真っ最中だったので高齢の彼にとってはリスキーだから厳しい、と。それで最終的にデヴィッド・ゴードン・グリーンが出演してくれることになった。身長の高いケイジが小柄なスコセッシに向かって怒鳴るっていう凸凹なシーンは、残念ながら実現しなかったよ(笑)。
―ケイジは近年も『PIG/ピッグ』(2020年)などで素晴らしい演技を披露していますが、監督のフェイバリット作品TOP3を挙げるとしたら?
TOP3か~! 難しいけど……まず『ザ・ロック』(1996年)が3位、『赤ちゃん泥棒』(1987年)が2位かな。そして僕のフェイバリットは『アダプテーション』(2002年)。もちろん『月の輝く夜に』(1987年)なんかも思い浮かんだけど、3作に絞るならそんな感じだね。
―では日本のニコラス・ケイジのファンに、同じくケイジのファンとしてメッセージをお願いします。
みなさんが思い描いているニコラス・ケイジ像を、正しく実現できていればと思っています。この映画は脚本を描いているときも、撮影しているときも、編集をしているときまで本当に楽しくて、アメリカの観客も大いに映画を楽しんでくれました。日本の皆さんにも同じように楽しんでもらえたら嬉しいです。
『マッシブ・タレント』は2023年3月24日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイント、グランドシネマサンシャイン池袋、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
『マッシブ・タレント』
ハリウッドスター、ニック・ケイジは悩んでいた。多額の借金を抱え、心から望んでいた役は得られず、妻とは別れ、娘からは愛想をつかされていた。
「かつて栄華を極めた俺の人生はもう取り戻せないのか――」
悲観する彼の下に、スペインの大富豪の誕生日パーティーに参加するだけで100万ドルが得られる高額のオファーが舞い込む。借金返済のため渋々受け入れ、スペインへ飛んだニックを、彼の熱狂的なファンだという大富豪ハビが待ち受けていた。最初は乗り気ではなかったニックだが、映画の趣味が合うハビと意気投合し、友情を深めていく。ところがある日、CIAのエージェントがニックに接近する。ハビの正体は国際的な犯罪組織の首領で、彼の動向をスパイしてほしいというのだ。ハビとの友情をとるか、それとも国家のために働くのか。ニック・ケイジの俳優人生を懸けた一世一代の大仕事(ミッション)の幕が上がる。
監督:トム・ゴーミカン
脚本・トム・ゴーミカン ケヴィン・エッテン
出演:ニコラス・ケイジ ペドロ・パスカル
シャロン・ホーガン アイク・バリンホルツ
アレッサンドラ・マストロナルディ ジェイコブ・スキーピオ
ニール・パトリック・ハリス ティファニー・ハディッシュ
制作年: | 2022 |
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2023年3月24日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイント、グランドシネマサンシャイン池袋、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー