注意! このコラムは『アントマン&ワスプ:クアントマニア』のネタバレ解説です。したがって映画をご覧になってからお読みください。
『クアントマニア』征服者カーン&ポスクレ解説
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェーズ5のキックオフ作となる『アントマン&ワスプ:クアントマニア』が、ついに公開されました。
この作品自体、アントマン・ファミリーが量子世界(クアンタム・レルム)に引きずりこまれ、スーパーヴィランの征服者カーンと戦うというものです。
ストーリー自体は割とシンプルで、かつ他のMCU作品の知識は本編ではあまり必要ありません(もちろん『アントマン』『アントマン&ワスプ』の続編なので、この前2作に関わる設定は出てきます)。とにかくビジュアル=量子世界の世界観が素晴らしいので、そこに浸るだけでも楽しい125分です。
https://www.youtube.com/watch?v=X9vU_7eJyKc
しかしながら、このカーンというキャラが極めて複雑なのと、本作のエンディング~ポストクレジット(おまけ)シーンに「?」となると思うので、これらについての解説をいたします。
カーン“たち”とは何者なのか? 一番ヤバいカーンは誰?
まずコミックでもカーンという存在は複雑なんですね。それは、例えばサノスは「インフィニティ・ストーンを使って全銀河の生命の半分を消そうとしている宇宙魔人」というふうに分かりやすく語れるわけですが、カーンは1行では解説できないのです。
というのも彼は未来人で、タイムトラベラーであり、過去・未来とあらゆる時代に干渉するので、その結果あらゆる時間軸(歴史)に色々なバリエーションのカーンが存在するわけです。
なお、このバリエーションは変異体=バリアントとも呼ばれます。別の時間軸にいる“もう一人の自分”は、自分から見れば“自分のバリアント”です。“もう一人の自分”の視点に立てば、自分の方が“相手のバリアント”になります。
複数の時間軸ごとに世界/現実がパラレル・ワールドとして存在することが「マルチバース」という概念です。そして、このカーン同士が時空=マルチバース間を超えて一堂に会することがあるわけです。これは「Council of Kangs(カーン評議会)」と呼ばれます。
BREAKING: #AntManQuantumania end credits feature a billion variants of Kang laughing ominously. Hopefully, it’s not cut! pic.twitter.com/Kkwx5z4oNb
— Moth Culture (@Moth_Culture) August 12, 2022
それが、あのおまけシーンの意味です。これはコミックにも同じシーンがあります。そして、本作を観たかぎりでは――
①この“カーンたち”は、カーンの中でも一番ヤバいカーンを量子世界に追放した。それがスコットたちが戦った“今回のカーン”です。
②一番ヤバいカーンこと“今回のカーン”は、マルチバース間の衝突=時間軸ごとに存在する世界の衝突=多元宇宙間戦争を制すため、他の“カーンたち”を削除しようとしていた。だから追放された。
③したがって“今回のカーン”は、他の“カーンたち”に復讐しようと考えている。しかし、スコットによってその企みは阻まれた。
④本作には“カーンたち”の中でも、特に中心人物とされる3人が登場。彼らは“今回のカーン”がスコットに倒されたこと、アベンジャーズの面々がマルチバースの存在に気づき始めていることに危機を抱き、「手を打たねば」的なことを話している。だから評議会を招集した。
――つまり、ここからアベンジャーズと“カーンたち”の戦いが予想されるわけです。これが2025年の『アベンジャーズ:カーン・ダイナスティ』に繋がるだろうと。
なお“カーン・ダイナスティ(カーン王朝)”というセリフは劇中に出てきました。なのでスコットは「“今回のカーン”を倒したことが、新たな脅威を招くのでは?」と不安になっている。
ポスクレに登場した“3人のカーン”を予想・解説
さて、このカーン評議会の中心人物と思われる3人のカーンですが、コミックで言うと――
▼エジプトのファラオ風のカーンは「ラーマトゥット」
■ハイテクなスーツを着ているカーンは「スカーレット・センチュリオン」
●宮司のような感じの(この3人の中でも全体を仕切っている)カーンは「イモータス」と思われます。
名前は違いますが、いずれもカーンのバリアントです。コミックでの設定をざっと書くと――
▼ラーマトゥットは30世紀の未来人だったカーン(この時は本名のナサニエル・リチャーズ)が古代エジプト時代にタイムトラベルし支配者となった姿です。ちなみに『ムーンナイト』の月の神、コンシューと戦ったりもしました。またX-MENのアポカリプスの誕生にも関わっています。
■スカーレット・センチュリオンは、ファンタスティック・フォーに敗れたラーマトゥットがヒーローたちに復讐するため、より危険なヴィランになった姿(もしかすると「アイアンラッド」というバージョンの可能性もあるかもしれませんが、これについて書くとさらに複雑化するので、ここではスカーレット・センチュリオン説をとります)。
●イモ―タスは、ある意味すべてのカーンの最終形で全時間軸の監視者になろうとします。
――もちろん、これらはコミックの設定なのでMCU的アレンジが加わる可能性はあります。ただ、この3人や“カーンたち”は自分たちが征服する時間軸を混乱させる要因はすべて排除したいと考えており、アベンジャーズの存在は、その最たるものなのかも。
“今回のカーン”は、ジャネットとマルチバース間の衝突のことを話すとき「インカージョン」と呼んでいますが、この言葉は『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でも出てきましたよね。『ワンダヴィジョン』しかり、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』しかり、そもそも『アベンジャーズ/エンドゲーム』で時間泥棒したりと、確かにMCUヒーローたちは時間軸やマルチバースを引っ掻き回してきたので、“カーンたち”にとっては排除すべき存在なのかもしれません。
“在り続ける者”の正体は? ドラマ『ロキ』シーズン2に直結
そしてエンド・クレジットの後のもう一つのおまけシーンには、ロキ様が登場です! これだけでも嬉しいのですが……。先ほど“他のMCU作品の知識は本編ではあまり必要ありません”と書きましたが、このシーンはMCUドラマの『ロキ』とリンクしているのです。
『ロキ』には<TVA(時間変異管理局)>という組織が出てきます。この組織は、ある時間軸のみを「神聖時間軸」という“正しいもの”と見なして、その秩序を守ろうとしています。僕らが『アイアンマン』以降観てきたMCUの世界は、この神聖時間軸での話でした。
それ故、ロキは神聖時間軸上でサノスに殺されてしまうわけですが、『エンドゲーム』でアベンジャーズの面々が歴史に関与したことで、ロキは生き延びてしまう(正確に言えばサノスに殺される歴史上の定めから逃れてしまう)。この時点で“生き延びたロキ”は、“神聖時間軸上=サノスに殺されるロキ”のバリアント、というわけです。
ドラマ『ロキ』は、このバリアントのロキが<TVA>に捕まり、その結果<TVA>エージェントのメビウスとバディ関係になります。そして『ロキ』のクライマックスでは、<TVA>を設立したのが“在り続ける者”と名乗る未来人であり、カーンのバリアントと示唆されます。『ロキ』で“在り続ける者”を演じていたのが“今回のカーン”役のジョナサン・メジャースなのは、そのためです。
したがって、もうすぐ配信の『ロキ』シーズン2はロキたちが時間を旅し、“在り続ける者”ないしカーンのバリアントと関わっていくことが予想されていたわけですが、それを確信させるシーンになっていました。このシーンでロキたちが会う“ビクター・タイムリー”なる人物もカーンのバリアントなのです。
ただしロキは、今回のアントマンたちの冒険を知らないでしょうから、ビクター・タイムリーはあくまで“在り続ける者”のバリアントとして彼の眼には映るでしょうが……。ともあれ、このシーンは『ロキ』シーズン2にダイレクトにつながるわけです。
なお『ロキ』シーズン1では、『クアントマニア』でモードックになってしまったダレン・クロスことイエロージャケットのヘルメットも登場していたので、この辺ともさりげなくリンクしていたのですね。
https://www.youtube.com/watch?v=R3QbB_PcsTI
くりかえしになりますが、もともとカーン自体がコミックでも説明が難しいキャラなのと、さらにこの先MCUならではのアレンジも加わるでしょうから、どういう展開になるか楽しみです。とても複雑ですが(笑)、とにかく今後の映画/ドラマで理解していくしかないでしょう。しかし1/2の確率でサノスに消されてしまうのも、カーンによって歴史が書き換えられ存在自体が無いことにされるのも、嫌ですよね(笑)。
文:杉山すぴ豊
『アントマン&ワスプ:クアントマニア』全国公開中