副音声解説で『エクスペンダブルズ』を観よう
シルヴェスター・スタローン、ジェイソン・ステイサムを中心とした傭兵グループが危険海域や紛争地域を股にかけて暴れ回る『エクスペンダブルズ』シリーズは、今まで都合3作品が製作され、いずれもアクションスターたちが一同に顔を揃える作品だ。今回はその1作目『エクスペンダブルズ』(2010年)が、CS映画専門チャンネル ムービープラスの「副音声でムービー・トーク!」で放送される。
知られざる『エクスペ』トリビアが満載
古今新旧の大スターたちが続々登場する作品のため、集まった人々、逆に集まらなかった人など、キャスティングの時点でエピソードは事欠かない。スタローンは本来自分で監督を務めるのではなく、大ファンだったクリント・イーストウッドにメガホンを取って欲しがっていたが、年齢的に海外での撮影は厳しいと断られてしまった。
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また、役者としてスランプだった時に『追撃者』(2000年)に呼んでくれたスタローンへの恩返しのために出演したミッキー・ロークや、カメオ出演をオファーされたスティーヴン・セガールが人間関係がもとで出演できなかったりと、映画撮影に入る前段階から早くも話題満載である。後に『エクスペンダブルズ2』(2012年)に登場するジャン=クロード・ヴァン・ダムは本来『エクスペンダブルズ』から出演するはずだったが、彼が“難色を示した理由”には驚かされた。
ハードなアクションが連続する撮影現場は危険と隣り合わせで、スタローンは歯を折り、首を骨折するなど14か所も負傷。出演しているWWEの伝説的レスラー、“ストーンコールド”スティーヴ・オースティンも、爆発シーンであわや片足を失いかけるなど、よく映画が無事に完成したと思うほどだ。
『アイアンマン2』(2010年)と同時期に出演していたミッキー・ロークは48時間しか撮影可能な時間がなかったとか、スタローン、シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリスが初顔合わせする印象的なシーンは6時間しか撮影時間がなかったなど、スター揃いゆえの撮影の苦労話も多い。
そんな『エクスペンダブルズ』には直接関係なくても、出演しているアクションスターたちの魅力的なプロフィールも話題にあがる。ジェイソン・ステイサムは元イギリスの高飛び込み代表でファッションモデル出身であることや、極真空手チャンピオンでもあるドルフ・ラングレンの自宅に賊が押し入った際の逸話、ジェット・リーが2004年のインド洋大津波で被災し、愛娘を連れて奇跡の生還をした話などなど。
他にも、ドイツではスタローンとシュワは同じ声優が吹替を当てているのだが、2人が共演している本作で、初めて同時に声を当てなくてはならなくなってしまった。果たして声優はどうしたのか……など、副音声解説でしか聞けない話題が満載である。
この「副音声でムービー・トーク!」を担当する<映画木っ端微塵クルー>のてらさわホークと高橋ターヤンの両氏は、『エクスペンダブルズ』界隈については他の追随を許さないほどなので、安心して披露されるエクスペ裏話や個人的な作品・俳優についての思い出、果てはものまねまで、全編を通じて音声解説を楽しめるはずだ。
https://www.youtube.com/watch?v=Xcm5vRdOZ28
『エクスペンダブルズ』の原型となった『ランボー』シリーズ
そんなオールスター系、同窓会的シリーズ作品として認識されている『エクスペンダブルズ2』以降の続編やインスパイア系を見ていると、『エクスペンダブルズ』はもっとソリッドなアクション映画だったことに気づかされる。
これは多くのシリーズ作品に共通することで、大体オリジナル、第1作というのは続編とは異なる風味を持っているものだ。例えば、『ジョーズ』(1975年)もサメ映画として最初の作品であるにも関わらず、いわゆる“サメ映画”のカテゴライズからは大きく逸脱した作品である。1作目に対する観客の評判、現場や演者など様々な理由でシリーズは形造られていくものなのだろう。
むしろ『エクスペンダブルズ』は、スタローンがこれより前に製作していた『ランボー 最後の戦場』(2008年)的なリアル戦場映画の風味を色濃く持っている。ミャンマーを舞台にした『最後の戦場』の時点でスタローンはランボーの活躍できる舞台を探し、世界中の多くの紛争地を候補地としてピックアップしたそうで、『エクスペンダブルズ』の敵対組織はパナマ共和国の独裁者、マヌエル・ノリエガをベースをしている。こういったリアルな世界情勢や紛争のリサーチがストーリーに活きているのだ。
また、『最後の戦場』で傭兵部隊に帯同することになったランボーが、シリーズで初めて(そして唯一)チームで戦っていく、という展開も『エクスペンダブルズ』の原型になっただろう。
そもそも『エクスペンダブルズ』=“消耗品”というタイトル自体も、『 ランボー/怒りの脱出』(1985年)で、ランボーが自分のことを「消耗品」と言うあたりから来ているのではないか? 等、両シリーズの関わりは深い。
エドガー・アラン・ポーの伝記を構想中!? 映画作家としてのスタローン
『エクスペンダブルズ』は、暴力表現や出血量も強めである。最初はPGー13とR指定の2バージョンを作ろうとしたが、最終的にはR指定版がリリースされた。これは、『最後の戦場』がゴア描写が強めでもウケたのを見て決めたのである。このあたりからも『エクスペンダブルズ』が『ランボー』の正統進化版であることが伺える。
実はスタローンは、この『エクスペンダブルズ』のような傭兵モノの企画を、かなり前から温めていた。80年代初頭、『ペイルライダー』や『ガントレット』の脚本家マイケル・バトラーが、この傭兵の物語を考えてスタローンにもちかけていたのだ。スタローンはエディ・マーフィーなどと映画化を進め、90年代まで企画を温めていたがうまくいかず、いったんあきらめていた。この企画自体は最終的に、監督チャールズ・マーティン・スミス、主演ピーター・ウェラーの『50/50 フィフティ・フィフティ』(1992年)という作品として映画化された。21世紀になって、スタローンがやっと自身の手で造ることができた念願の傭兵モノが『エクスペンダブルズ』だったわけだ。
もちろん役者としても変わらぬ魅力を放っているスタローンだが、『エクスペンダブルズ』のような監督兼出演作を観ると、彼の映画作家としての側面をより感じさせる。
スタローンが他のアクションスターと一線を画すのは、やはり彼自身が映画作家であるということだろう。出世作『ロッキー』(1976年)では脚本を担当し、自身の主演作以外でも『ステイン・アライブ』(1983年)などで確かな手腕を発揮している。今後誰か、スタローンに金銭的な援助でも何でもしてもらって、彼に映画を撮らせてあげてほしい、ということだ。『コブラ』(1986年)の続編でも何でも。
実際、スタローン自身も構想している企画は多数あるそうで、中でも観たいのは、彼が長年映画化を熱望しているという、作家エドガー・アラン・ポーの生涯を描いた作品だろう。いったいどんな作品なのだろうか。
予告が発表されている『エクスペンダブルズ4』もとても気になるところだが、役者としてのさらなる活躍はもちろん、映画監督スタローンの次回作にも期待していきたい。
文: 多田遠志
「◆副音声でムービー・トーク!◆エクスペンダブルズ」はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年2月放送