作戦コマンドは「ガンガン行こうぜ」一択！アムレートの冥府魔道な復讐RPG 北島三郎イズムが宿る『ノースマン 導かれし復讐者』

ここ日本で北国の男といえばサブ北島！ 田中邦衛！と相場が決まっているが、
新たな北国の男を描いた作品が公開された！
それがタイトルもズバリ『ノースマン 導かれし復讐者』だ！

食ってるもんが違うせいか、同じ北の国からにしてはサブタイトルが物騒極まりない。
おかげさまで野蛮こそパワー！といわんばかりに、文明と野生がシノギを削るハードコア昔話の様相を呈している。

戦闘民族の王子として生まれたアムレート。王子としての戦いと誇りの英才教育を施されていた彼であったが、ある日叔父であるフィヨルニルが下剋上！
父親を処刑され、母までも拉致される憂き目に遭ってしまう。
追いすがる刺客から、なんとか命からがら退けたアムレートは、
「1.名誉を取り戻す」「2.母を取り戻す」「3.フィヨルニルを殺す…」
というウルトラ復讐3つの誓いを立て、イカダで海に漕ぎ出すのであった。

『ノースマン 導かれし復讐者』© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

数年後…なんやかんやでアムレートはレベル上げに成功。
すっかり褌（ふんどし）一丁がサマになる立派なヴァイキングへと成長を遂げ、なりふり構わない狂乱ファイトで一目を置かれる戦士としてブイブイ言わせていた。

今日も絶賛戦争を仕掛け、一つの村を占領。宴もたけなわで周りが盛り上がるのを尻目に、一旦チルするために深夜ブラつくアムレートであったが、なんと目の前にアルバムのジャケ撮影待ちのビョークがいるじゃないの！
彼女は控室で待機しているビョークではなかった。
魔女であった。
とはいえ一気に酔いが醒める事態であったが、ダメ押しのように「アンタ、使命を忘れてんじゃないの？」とスナックのママばりに問いかけられてしまう。

『ノースマン 導かれし復讐者』© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「あ！ そうだった！」とド忘れしていた使命を思い出し、胸の中で復讐の炎が再びバーニングするアムレートなのだった。
さっそくヴァイキングを電撃離脱し、奴隷の身分を偽装！
道中で自称魔法使いのオルガをパーティに加え、憎き怨敵フィヨルニルの統治する土地へ足を踏み入れる。
自由なし、武器なし、装備なしの状態でヴァイキングの本懐———『舐めた奴はブチ殺す』を果たせるのか？
今、アムレートの冥府魔道な復讐RPGが幕を開けるのであった。

無印良品っぽい音楽が流れる中で『コナン・ザ・グレート』が始まったかと思いきや、最終的には殺意高めの『ハムレット』な展開が待っている本作。
ビジュアルだけ見るとラグビー部のロッカーのようなムサ苦しいイメージを抱かれるかもしれんが、そこは『ライトハウス』『ウィッチ』の監督で知られるロバート・エガースだ。
本編ではホラー仕込みの幻想的な画、良い意味で仰々しい時代掛かったセリフのやりとりを挟み、野蛮とオシャレを二世帯同居させようとしているのが伺える。

だが、親子犬プレイ謎儀式、テンション爆上げ白目中世ディスコ、ハイセンスな人間レゴブロック等々…真面目に作られているが故の「何ッ!?」と二度見したくなるイベントを挟んでくるから油断ができない。
ただただ褌1丁で剣を振るう映画、の一言で済ませない妙な味が本作にはある。

『ノースマン 導かれし復讐者』© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ノースマンこと主人公アムレートを演じるはアレクサンダー・スカルスガルド。
本作では製作も兼任し、白目を剥き出しにする永田裕志を感じさせる気合の入った演技を披露している。
戦って死ぬのが名誉という体育系レベル100みたいな性格設定なせいか、作戦コマンドは「ガンガン行こうぜ！」一択！
武器は観光地の木刀みたいなセンスがキラリと光る『不死身』と刻まれた剣。
ペンネームとしてビヨンウルフ（熊狼）を自称！

・・・と実にビリビリくる中二設定である。
俺も「給料を上げる」「楽して仕事する」「〇〇〇を殺す！」と唱えながら、日々イカダを漕ぐような仕事をしているので、他人には思えないキャラだ。

『ノースマン 導かれし復讐者』© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

王族として、戦う際はキチンと名乗りを上げる辺り育ちの良さが伺えるが、かつて己の身分を奪った略奪行為をヴァイキングになってから自分自身も行っている辺りに業の深さを観る者に感じさせる。
ともすれば「オマエが気持ちよくなってるだけじゃねえのか？」という見方もできるラストまでの展開を含め、分かっちゃいるけど辞められない・止まらない男の宿命が描かれる。

そんな彼を導く脇役達も映画ファンに馴染み深い豪華キャストが集結！
最近だと劇場公開作品の3本に1本は出演作を見かける気がするアニャ・テイラー＝ジョイを筆頭に、ビョーク、ウィレム・デフォー、イーサン・ホーク、ニコール・キッドマンという確かな布陣だ。

『ノースマン 導かれし復讐者』© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

アレクサンダー・スカルスガルドじゃなくても導かれるな！復讐に！と勝手に納得してしまうだろう。

そして忘れてならないのが、本作に宿るサブ北島 aka 北島三郎イズムである。
彼の代表曲に「まつり」という曲があるが、歌詞の“祭り”を“復讐”に変えて聞いてみてほしい。
ほぼほぼ本作の内容を唄っていると言っても過言ではない。
やはり海は違えど北の男は北の男を知っている。
そう思わざるをえない。
北欧神話がどうたらとか洒落臭い豆知識も良いが、北島三郎の「まつり」をロバート・エガースが映画としてリミックスしている側面にこそ注目してほしい。
そんな風に見てるのはオマエだけだよ！と言われたら涙を飲むしかないが、事実だから仕方がない。

『ノースマン　導かれし復讐者』© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ともあれ野蛮、オシャレ、そしてサブ北島イズムを実写映像で、しかも劇場で観れる機会は少ない。
おそらく、これからも増えるとは考えづらい。
ここ日本も寒い日々が続き、身体を寒さで震わせる機会が多くなったが、本作の白目を剥いて焚火の前で雄叫びを上げるアムレートを鑑賞して暖を取って頂きたい。

『ノースマン 導かれし復讐者』は全国公開中