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豪快“呪術合戦”ホラー『呪呪呪/死者をあやつるもの』脚本ヨン・サンホが語る舞台裏「1人のゾンビが突然100人になって大暴れしたら絶対楽しい!」

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豪快“呪術合戦”ホラー『呪呪呪/死者をあやつるもの』脚本ヨン・サンホが語る舞台裏「1人のゾンビが突然100人になって大暴れしたら絶対楽しい!」
『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

ジトジトとした湿気、ベッチョリとした粘り気、ドロっとした血液、むせ返る様な瘴気……これがアジアンホラーの持ち味である。最近ヒットした『女神の継承』や『呪詛』、『哭悲/THE SADNESS』を見ればわかるだろう。2月に公開を控える『呪餐(じゅさん) 悪魔の奴隷』もそうだ。どの作品も人の業、呪い、怨念といった人の闇をテーマにしているので、雰囲気がじっとり、べっちょり、ドロドロ、ゲホゲホになってしまうのは仕方がない。これがアジアンホラーの最たる個性ともいえるだろう。

しかし、アジアンホラーの懐は深い。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)や『怪怪怪怪物!』(2017年)のように、ドロっとした雰囲気を残しつつ、豪快なエンターテインメントなホラー映画が時折、飛び出てくるのだ。

韓国映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』も、そんな豪快エンタメホラーの一つ。しかも現時点でアジアンエンタメホラーの傑作と言ってもいいだろう。なぜか? それは怨念、呪い、業を詰め合わせた上、ゾンビやちょっとしたミステリも突っ込んで、さらに“呪術合戦”という流行りの某漫画を思わせるアクションホラー大作になっているからだ!(香港公開時のタイトルは『咒術屍戰』と妙な既視感がある)

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

豪快“呪術合戦”エンタメホラー

映画は、いつものアジアンホラー然とした雰囲気でスタートする。

とある集合住宅で、2体の死体が発見される。1体は被害者、もう1体は加害者。事件を担当するチョン刑事は奇妙なことを検視官から聞かされる。

「加害者と思われる死体は、死後3か月経過しています」

チョン刑事は、この奇妙な事件を追うが、解決の糸口は掴めない。一方、ジャーナリストのイム・ジニは、事件の原因がとある企業の悪事にあることを突き止める。チョン刑事とジニは協力して事件解決を試みるが時すでに遅く、呪術で蘇った死体が企業幹部を狙い行動を開始。そこで二人は、体に悪鬼を宿した呪術師ペク・ソジンに事態の解決を依頼する。ところが保身に走った企業幹部同士の醜い争いに巻き込まれ、チョン、ジニ、ソジンは思わぬ運命を辿ることになる。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

企業の悪事、人に怨みを持つ者、双方の間でジレンマに悩まされる主人公たち……ストーリーそのものはよくあるもの。だがそれ故、本作は“魅せる”ことを最優先している。冒頭は湿気の多いアジアンホラーの雰囲気があるものの、話が進むにつれ、もはや“ド派手”と言える展開をみせるのだ。

原作・脚本は『新感染』シリーズのヨン・サンホ

たった1体だった蘇る死体は、100体へと増加。追跡劇はいつの間にか全てを破壊しながら暴走する銃撃戦へと発展、銃撃戦は呪術合戦へと目まぐるしく展開していく。

「おい、カッコいいな!」としか言えない、語彙力を失うほどのエンターテインメント性。そのカッコよさは、100人ゾンビのシンクロ襲撃もいいのだが、やはり悪鬼を宿すことで呪術使いとなったソジンの達観した様子だ。キャストの中で最年少にもかかわらず、何が起きてもクール。死人たちを文字通り呪術で“握りつぶしていく”戦い方には、大興奮である。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

やたらと“熟れている”作品だなと思ったら、ドラマシリーズ『謗法 ~運命を変える方法~』(2020年)の映画版とのこと。なるほど、ブラッシュアップした故の完成度というわけだ。さらにTV版含め、原作・脚本は『新感染』シリーズのヨン・サンホ監督ではないか!

今回、ヨン・サンホさんと直接会話する機会をいただいたので、本作の“魅せ具合”等を伺ってみた。

L→R:ヨン・サンホ キム・ヨンワン監督 オ・ユナ チョン・ジソ オム・ジウォン クォン・ヘヒョ『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

「たった1人だったゾンビが、突然100人になって大暴れしたら、絶対に楽しいですよね!」

―さっそく本作の制作経緯を……と伺いたいところですが、キム・ヨンワン監督の『謗法』の劇場版とも言える作品です。キム・ヨンワンさんは、『謗法』の視聴率が3%を超えたらシーズン2を作るとおっしゃっていたそうですが……。

それはヨンワン監督ではなく、私が言ったんですよ(笑)。おかげさまで3%を超えて、続編の企画が進んでいます。しかし、私も忙しくてなかなか手を付けられなくて。そこで、間を開けたくない気持ちもあって『呪呪呪/死者をあやつるもの』の制作にとりかかったんです。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

―ミステリ仕立てだった『謗法』と比較し、ド派手な作品に仕上がっていました。ガラっと雰囲気を変えましたが、どのような意図があったのでしょうか? また、脚本作りではキム・ヨンワン監督とはどのようなやりとりがありましたか?

ドラマシリーズは話数を重ねるにつれて、徐々に謎が解き明かされていく形が定番ですよね、でも映画で同じことをすると退屈になってしまう。そこで映画は物語をぎゅっと圧縮して、見せ場を多くしたいと考え、ヨンワン監督と物語を詰めていきました。

すると『謗法』は、実はアクションを入れ込む余地が大量にあることに気が付いたんです。なんといっても“呪術使い”の物語ですからね! それで今回はアクション要素をたっぷり詰め込んだんです。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

―おっしゃる通り、目を引くのはアクションシーンでした。特にカーチェイスとそこに至る経緯はオリジナルにはなかった要素です。かなり思い切った画づくりを感じました。

『新感染』は列車の中のゾンビパニックでしたが、列車だと横方向からしかゾンビが襲ってこないことになるでしょう? それでは面白みがない。だから上からゾンビが襲う場面を入れて、縦のアクションを入れたんです。

『呪呪呪』にも蘇った死人……ちょっと特殊ですが、広義では「ゾンビ」と言っていいキャラクターが登場しますよね。彼らの登場シーンはいくつもありますが、たった1人だったゾンビが、突然100人になって大暴れしたら、絶対に楽しいですよね!

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

―随分豪快な発想ですね。ヨン・サンホさんは西洋画を専攻していたと伺っています。映画の画作りにおいて色濃く影響を受けた画家はいらっしゃいますか?

どんな絵画からでもインスピレーションを受けます。中でもイギリスのジェニー・サヴィルが好きですね。彼女はすごく力強いタッチで、少しグロテスクに人を描いたりするんですが、そこが気に入っています。

(※注:ジェニー・サヴィルの作品はイギリスのバンド、マニック・ストリート・プリーチャーズのアルバム『THE HOLY BIBLE』と『Journal For Plague Lovers』のジャケットにも使われている。後者についてはグロテスク故、イギリスでは無地のケースにいれて販売されたという逸話がある)

Journal for Plague Lovers

「僕の作品に食事シーンは……確かにないですね! 初めて気づきました」

―力強さというと、ヨン・サンホさんの映画には強い人間が自分を犠牲にする場面が多いように思えます。今作で言うと、悪鬼を宿した体で苦しみながら戦うソジンがそれにあたります。なにかこだわりがあるのでしょうか?

人間の本性は善なのか悪なのか? そういった議論は尽きないですよね。ある人間は自己利益に走り他人を犠牲にしたり、ある人間は自分を犠牲にして他人を助けたり。僕は、善悪は選択の結果でしかないと考えているんです。だから様々な小さな選択によって人の運命が変わっていくというのは、とても興味深いと思っています。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

―選択がもたらす運命ですか。ヨン・サンホさんの作品は、様々な選択肢を提示して選ばせることでキャラクター作りを行っているように思えます。キャラクター作りで思いついたのですが、韓国映画には必ずと言っていいほど食事シーンがあり、互いの関係を語るシーンがあります。しかし、ヨン・サンホさんの作品には食事シーンが殆どありません、あえて排除しているのでしょうか?

え? あ、確かにないですね! いま聞かれて初めて気づきましたよ! 映像作品の食事シーンにはフードコーディネーターを現場に入れるんですが……そうだ! チキン屋が登場する『サイコキネシス -念力-』(2018年)の時だけフードコーディネーターを呼んだ記憶があります! でも、食事してたかなあ……。うーん、自分でもなぜ食事シーンを入れてないのか、気になり始めてしまいました(笑)。

―せっかくなので掘り下げましょう! 食事シーンについて、どのように考えていますか?

そうですねぇ、食事……。うん、宮崎駿監督のアニメにも必ず食事シーンがあって、作中に登場した食事を再現する人もいるくらいですし、とても重要な要素ですよね。でも僕の場合を考えてみると、父がとても厳格な人で、食事の時の会話は禁止でいて……ただ黙々と食べるだけだったんです。だから僕は、とても早食いになってしまって。

食事をしながらあれこれ考えたり、おしゃべりしたりするシチュエーションを映画に入れるのは確かによくありますし、キャラクターの掘り下げには有用なんでしょうけど……早食いの僕の中には、その発想がないのでしょうね(笑)。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

―では最後の質問です。『呪呪呪』は、派手でありながらも暗い物語です。しかし、希望も見え隠れします。勧善懲悪のストーリーはお好きですか? バッドエンドの作品については、どのようなお考えをお持ちでしょうか?

やはり映画といってもポジティブなことばかりでは面白くないし、社会の闇の部分を指摘して、ネガティブな結末を提示するのも意味あることだと思います。でも僕は、社会の闇を訂正する立場でありたい。ただ「これが悪い」で終わるのではなくて、「こうすればいい」といった代案や、「こう考えればいい」といったポジティブな姿勢を映画で表現していきたいですね!

ヨン・サンホ 『呪呪呪/死者をあやつるもの』©2021 CJ ENM, CLIMAX STUDIO ALL RIGHTS RESERVED

思慮深いヨン・サンホさんの人柄故か、多少脱線しつつも制作や作風について貴重なお話を伺うことができた。彼の「退屈させない」「ポジティブであれ」という姿勢が、今後の作品にどう生かされていくか楽しみである。しかし、今はまず、『呪呪呪/死体をあやつるもの』の強烈なストーリーテリングを味わってほしい。

取材・文:氏家譲寿(ナマニク)

『呪呪呪/死者をあやつるもの』は2023年2月10日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

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『呪呪呪/死者をあやつるもの』

閑静な住宅街で起きた凄惨な事件。被害者の傍らで横たわる容疑者らしき死体は死後3カ月経過していた……。チョン刑事(チョン・ムンソン)率いる捜査隊が怪事件を追うが、事態は混迷を極めていく。ジャーナリストのイム・ジニ(オム・ジウォン)は事件を暴こうと調べをすすめると、背後にとある企業の陰謀が関係していることを突き止めた。しかし、強大な“呪い”によって蘇ったゾンビの集団が「3つの殺人」を果たすために、姿を現し襲いかかってくる。ジニは旧知の呪術師ソジン(チョン・ジソ)に願いを託し、呪術でゾンビと彼らをあやつる黒幕に立ち向かう!

監督:キム・ヨンワン
脚本:ヨン・サンホ

出演:オム・ジウォン チョン・ジソ
   チョン・ムンソン キム・イングォン コ・ギュピル
   クォン・ヘヒョ オ・ユナ イ・スル

制作年: 2021