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昭和ウルトラマン世代のトラウマ怪獣映画『サンダ対ガイラ』~「進撃の巨人」「007」との共通点、そして怪獣のハリウッド進出~

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ライター:#谷川建司
昭和ウルトラマン世代のトラウマ怪獣映画『サンダ対ガイラ』~「進撃の巨人」「007」との共通点、そして怪獣のハリウッド進出~
「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ <東宝DVD名作セレクション>」
DVD発売中
2,750円(税抜価格 2,500円)
発売・販売元:東宝
TM&©1966 TOHO CO.,LTD.

2009年に連載を開始し一世を風靡したマンガ「進撃の巨人」(諫山創/講談社)をはじめて読んだ時、かなりオリジナリティのある作品であるにも拘わらず妙な既視感を覚えた。……こんな作品がなんだか前にもあったような気がするぞ、と。

その後、2010年になって、ハタっと思い至った。――そうか!「進撃の巨人」で感じた既視感の正体とは、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』だったのだ。

人を喰らうガイラ、人に優しいサンダ

『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』が製作されたのは1966年。――僕は1966年にTBS系で放送開始された『ウルトラQ』、『ウルトラマン』(1966~1967年)そして『ウルトラセブン』(1967~1968年)にどっぷり漬かって育ってきた“ウルトラマン世代”だが、SF的な世界観を持ち、『故郷は地球』(『ウルトラマン』)、『ノンマルトの使者』、『超兵器R1号』(『ウルトラセブン』)のような今見ても明らかに優れているエピソードも数多く含まれていた初期ウルトラ・シリーズと比べると、当時の東宝怪獣映画はすでにお子様向き作品化が進行していて、単なる怪獣同士のプロレスごっこのように感じられて、わざわざ映画館に観に行くことはなかった。

そんな中、海彦山彦伝説をベースとした『サンダ対ガイラ』だけは、その醜く恐ろしい着ぐるみの外見と、人間を捕食するという残酷な設定とで一線を画していた。おどろおどろしく、いかがわしい見世物小屋を、怖いのだけれど好奇心が勝って覗いてみたいというような気持ち。あるいは、親から「そんなものは絶対に見ちゃダメです!」と言われれば言われるほど、逆に観たくなるような、そんな映画として深く記憶に刻まれた。

ちなみに、『サンダ対ガイラ』は主役の一人が『ウルトラQ』の万城目淳役の佐原健二で、一平役の西條康彦もちらっと出ていたし、『ウルトラセブン』のアマギ隊員こと古谷敏(ウルトラマンやケムール人の着ぐるみの中身でもあった)も結構目立つ役で出ていた。

初めてガイラが人を喰らうシーン(ちなみにサンダの方は人間に育てられたので人間に優しく、もちろん食ったりはしない)は、海から上がって羽田空港に白昼現れて旅行客や空港勤務の人々をパニックに陥れるくだりで、ガイラは建物の部屋の中で悲鳴を上げつつも足がすくんで動けない女性を、窓を突き破ってにょきっと手を伸ばして片手で掴み、口に放り込んだ後、着ていた服だけペッと吐き出す。――もちろん、女性を掴んだ右手を口許に持ってくるところで見えるハイヒールを履いた足は明らかに人形とわかるし、口に放り込む瞬間は映さずに、いったんカットを切り替え、次には服を吐き出す形なので、身体を歯で噛み砕いたり引きちぎったりするような残酷描写はないのだが、子供には十分すぎるくらいにショッキングだった。

そう、諫山創の「進撃の巨人」で、巨人が人を喰らう。――その原点は明らかにこの『サンダ対ガイラ』だったはずなのだ。

『フランケンシュタイン対地底怪獣』の続編としての『サンダ対ガイラ』

心優しいサンダに対して、恐ろしいのは専らガイラなのだが、今観直してもすごいなと思うのは、怪獣映画にありがちなパターンに陥っていない点。よくあるのは、薄暗がりの中で怪獣が登場し、何が起こっているのかよく判らない分、不気味さを感じさせる、というやり方だが、それは裏を返せば、粗が見えにくいように薄暗がりでごまかしていることでもある。

『サンダ対ガイラ』が恐ろしかったのは、そんな姑息な手を使わず、海中から上がって空港(それも大変によくできた空港のセット)に現れた、全身ぬめぬめした感じのガイラが真っ昼間に堂々と暴れる“潔さ”だ。

ほかに印象的なのは、ガイラが巨体のわりに動きが俊敏で、走って海に戻る様子が「うわーっ、こんなのに出くわしたら絶対に逃げられない」と思わせるのと、沢村いき雄演じる小さな漁船の船長(?)が、妙に船が揺れるので海中を覗き込むと、透明度の高い水の中に今にも襲い掛かろうとしているガイラがいて腰を抜かすシーン。

いうまでもなく、『サンダ対ガイラ』は前年の『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(1965年)のある種の続編として製作された作品。世界観はほぼ一緒で、前作で科学者のもとで育てられて巨大化したフランケンシュタインは、地底怪獣バラゴンと戦っているうちに富士山火口に落ちて死んだので、その点は本作も「火口に落ちて死んだはずのフランケンシュタインが実は生きていた」という設定で繋がっているのだが、前作のフランケンシュタインの姿かたちはもっと人間っぽく、サンダやガイラの醜悪な外観とはまるで違う。

ちなみに、実は生きていたフランケンシュタインが改めてサンダと名付けられ、その身体の肉片が海中で増殖して個体となった分身の方がガイラだった。

米ベネディクト・ピクチャーズと東宝、 5つの合作映画

パトリック・マシアスの『オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史』(町山智浩 編・訳/太田出版:2006年)によれば、東宝『ゴジラ』シリーズのアメリカ市場への配給やマーチャンダイジングを成功させたことで知られるヘンリー・G・サパースタインという映画興行師が、東宝との間で5本の作品の共同製作契約を結んだ、と1965年5月頃に<ヴァラエティ>が報じている。

それらの作品では、サパースタインの会社であるベネディクト・ピクチャーズが、アメリカ市場に適合するようにシナリオ段階で監修し、製作費を半額負担する代わりにアメリカでの配給権を手にする契約内容だったようで、いずれの作品にもアメリカ市場を鑑みてそこそこ知名度のあるハリウッドの俳優を出演させる方針がとられた。

その5作品こそが、ニック・アダムスが出演した『怪獣大戦争』(1965年)と『フランケンシュタイン対地底怪獣』、そしてラス・タンブリンが出演した本作『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』の3本の怪獣映画と、ジョン・ブアマン監督、三船敏郎とリー・マーヴィン主演による『太平洋の地獄』(1968年)そして『国際秘密警察 鍵の鍵』(1965年)だった。

1958年をピークに斜陽化への道を歩みだしていた日本の映画業界では、1960年代半ばのこの時期、日本映画の輸出を活性化させることで、頭打ちの国内市場に海外市場からの収入をプラスしようと様々な試みが行われた。その制度面での表れが輸出向け映画に国からの融資が得られる仕組みとして誕生した、日本映画輸出振興協会による融資制度で、この制度を利用して輸出向け映画に取り組んだのが、当時経営難が囁かれていた大映、日活、松竹の三社だった。

そして、それらの会社が輸出向けコンテンツとして飛びついたのが、『ゴジラ』以降、順調に海外での売り上げを得ていた東宝を見習っての怪獣映画路線で、作られた作品が大映の『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年)、『大魔神逆襲』(1966年)、日活の『大巨獣ガッパ』(1967年)、松竹の『宇宙大怪獣ギララ』(1967年)といった作品だ。

だが、それらの作品では(『大魔神逆襲』を除くと)北米市場を想定して外国人の登場人物も出てくるものの、演じるのはただ単に外国人というだけで、名前の知られた俳優などは一人もいない。それに対して東宝とベネディクト提携の5作品はさすがに一日の長があり、前述のようにニック・アダムス、ラス・タンブリン、リー・マーヴィンといったスターや、他にもジョゼフ・コットン、シーザー・ロメロといったスターが東宝怪獣・SF映画には出ていたものだ。

ウディ・アレンの監督デビュー作!?『国際秘密警察 鍵の鍵』

さて、もう一本の『国際秘密警察 鍵の鍵』は“和製007”こと国際スパイ・北見次郎が活躍する東宝製作の『国際秘密警察』シリーズ第4作で、監督は『銀嶺の果て』(1947年)、『大盗賊』(1963年)などのアクション映画で定評のある谷口千吉。だが、ベネディクト・ピクチャーズとの合作の他の4作品がいずれもハリウッド俳優を出演させるなど日米合作色を強く打ち出していたのに対して、『鍵の鍵』の場合はそのような検討がなされた痕跡はない(シリーズ最終となる1967年の第5作『国際秘密警察 絶体絶命』にはニック・アダムスが出ている)。

しかし、『鍵の鍵』には若林映子と浜美枝という二人の女優が出ていて、この二人は実はそのまま本家『007』シリーズのボンドガールに抜擢されている。すなわち、『鍵の鍵』が日本で公開されて9ヵ月後の1966年7月27日、『007』シリーズ第5作『007は二度死ぬ』(1967年)のロケ撮影を日本で行うためショーン・コネリーが初来日し、鹿児島、神戸、姫路、那智、東京都内で大規模なロケを9月14日まで行った。そして、若林映子と浜美枝の二人は揃って『007は二度死ぬ』の大役を掴んだ。その意味では、『国際秘密警察』シリーズは本家『007』シリーズからも認められていた、と言えそうだ。

「国際秘密警察 鍵の鍵 <東宝DVD名作セレクション>」 
DVD発売中
2,750円(税抜価格 2,500円)
発売・販売元:東宝
©1965 TOHO CO.,LTD.

 

ベネディクト・ピクチャーズでは、『鍵の鍵』で製作費の半額、66,000ドル(当時のレートで2,376万円)を東宝に支払ったが、アメリカ版を作るに当たってもう少しパンチの利いたシーンが欲しいとサパースタインが要請したと見えて、同じシリーズの第3作『国際秘密警察 火薬の樽』(1964年)から、三橋達也と佐藤允のアクション・シーン、そしてホテルの部屋で水野久美がシャワーを浴びているのを鼻の下を長くして待っていた三橋に、黒人のスナイパーが襲いかかるシーンが追加されている。

そして、サパースタインは売り出し中の新進気鋭のコメディアン、ウディ・アレンにアフレコを依頼した。――結果、出来上がった作品『What’s Up, Tiger Lily?』(1966年)は、映像はそのままに、ストーリーは勝手に作り変えてナンセンス・コメディに換骨奪胎した珍品として完成した。

――そして、今では世界的な巨匠となったウディ・アレンの初監督作品ということになったのだ!

文:谷川建司

『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:2か月連続!特撮映画」で2023年2月放送

https://www.youtube.com/watch?v=SSjt1g8fkdE

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『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』

東京湾にフランケンシュタインのような怪獣が出現。かつてフランケンの不死身の心臓から人造フランケンを生み出したスチュアート博士は「フランケンは逃げ出したが、人間に無害だ」と訴える。そんな矢先、今度は谷川岳に怪獣が現われ、その足跡が逃げたフランケンのものと判明する。

監督:本多猪四郎
出演:ラス・タンブリン 水野久美 佐原健二

制作年: 1966