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生身の人間が軍用ヘリ&戦車と戦う、W杯とリンクする“厳しい現実”も見せる インドアクション映画の星タイガー・シュロフ主演『シャウト・アウト』

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ライター:#松岡環
生身の人間が軍用ヘリ&戦車と戦う、W杯とリンクする“厳しい現実”も見せる インドアクション映画の星タイガー・シュロフ主演『シャウト・アウト』
『シャウト・アウト』©︎COPYRIGHTS NADIADWALA GRANDSON ENTERTAINMENT PVT. LTD. 2020

タイガー・シュロフ主演の変わり種シリーズ

インドにおけるアクション映画の星、タイガー・シュロフ。そのすごさは、これまで日本で公開された『WAR ウォー!!』(2019年)や、DVD発売された『タイガー・バレット』(2018年)等で証明済みだ。

『タイガー・バレット』は原題を『Baaghi 2』というが、「バーギー」はヒンディー語で「反逆者」という意味となる。『2』ということからシリーズ物だとわかると思うが、日本未公開の『Baaghi』(2016年)が最初で、今回ご紹介する『シャウト・アウト』は原題を『Baaghi 3』といい、同シリーズの3作目となる。

実はこのシリーズ、主人公の名前が「ロニー」で、それをタイガー・シュロフが演じる、ということが共通しているだけの、毎回登場人物や設定が全部違うユニークな作品なのである。

『シャウト・アウト』©︎COPYRIGHTS NADIADWALA GRANDSON ENTERTAINMENT PVT. LTD. 2020

ブラコンなシュロフが新鮮? 元ネタのタミル語映画

今回ロニーは、兄ヴィクラム(リテーシュ・デーシュムク)を幼い時から守り続けている、けなげな弟という設定になっている。警察官だった父(ジャッキー・シュロフ/タイガーの実際の父)がロニーにヴィクラムを託して殉職すると、ロニーは兄を一層かばうようになる。ヴィクラムから「ロニー!」と呼ばれればどんな所へも馳せ参じるロニーだったが、やがてヴィクラムは頼りないながらも父の跡を継ぎ、アグラ警察に赴任する。

そこでルチ(アンキター・ローカンデー)とシヤ(シュラッダー・カプール)姉妹と知り合った兄弟は恋人同士になり、やがてヴィクラムとルチは結婚、新しい生命も宿る。そんな時、ロニーが兄の代わりに解決した事件がヴィクラムの手柄と評価され、中央政府からシリアへの出張を命じられることに。ところがシリア到着後、ロニーとビデオ通話していたヴィクラムは何者かに襲われ、「ロニー!」という叫び声を残して拉致される。ロニーは即刻、シヤと共にシリアに向かうが……。

というのが前半のストーリーで、ここまでは元ネタとなったタミル語映画『Vettai(狩り)』(2012年)のリメイクと言ってもいいほど、類似シーンが登場する。ロニーのブラコンぶりは元ネタ以上に強調してあり、ヴィクラムの情けなさが際立つ。ヴィクラムを演じるリテーシュ・デーシュムクがお人好し顔なので、ヘタレな兄貴にピッタリなのだが、常軌を逸したロニーの兄想いはタイガー・シュロフのキャラにいまひとつフィットしない。やたら騒々しいルチとシヤ姉妹といい、前半は見ている方も何だか居心地が悪くなってしまうが、シリアが舞台になった途端、物語はビシッと引き締まる。あとはタイガー・シュロフの見せ場満載で、強大な敵との戦いが繰り広げられるのだ。

『シャウト・アウト』©︎COPYRIGHTS NADIADWALA GRANDSON ENTERTAINMENT PVT. LTD. 2020

サッカーW杯ともリンクする“厳しい現実”を踏まえた脚本

強大な敵は、テロ組織ジャイシェ・ラシュカルを率いるアブ・ジャラール・ガザ、「世界一危険な男」と呼ばれている人物だ。この組織名は現実に存在する組織<ジャイシェ・ムハンマド(マホメットの軍隊)>と<ラシュカレ・タイバ(敬虔な者の軍隊)>から創作されたと思われるが、シリアの街の一角を自らの領土としてしまうような、とんでもない力を持つ組織と設定されている。

ヴィクラムが拉致されたのも唖然とするような理由からなのだが、今回サッカーW杯がカタールで開かれたことで、中東にはインドやパキスタンからの出稼ぎ労働者が多いことを知ってみれば、彼らがアラブ人から使い捨てにされる、という設定も納得だろう。シリアは戦乱のさなかにあるため海外からの出稼ぎ者は少ないが、カタールのインド人率は何と39.5%。そういった現実も踏まえての脚本は、なかなかによくできている。

また、シリアではパキスタン人のアフタル(ヴィジャイ・ヴァルマー)が登場して、裏社会に通じた男としてロニーとシヤをガイドする。このキャラクターも効いていて、シリア編はいろいろと楽しめる。もう1人、要注目の人物がインド編~シリア編を通じて登場していて、それが略称<IPL>というアブ・ジャラール・ガザのインド人協力者だ。本名インダル・パヘーリー・ランバーを略してIPLなのだが、実はIPLとはインドのプロサッカーリーグ<インディアン・プレミア・リーグ>の略称としてよく知られる言葉なのである。なおIPLの名を汚さないよう、この男にはぐっとくる結末が用意されている。

生身の人間が軍用ヘリ&戦車をスクラップに!

そしてシリア編のクライマックスでは、タイガー・シュロフ最大の見せ場、軍用ヘリ3機と戦車数台を相手にした戦いが繰り広げられる。これは、1人の人間の戦いとして無謀であるだけでなく、アクションシーンを設計する上でもかなり無謀な設定だ。その無謀がまかり通ってしまうのには唖然とするしかないが、これもタイガー・シュロフの肉体と身体能力あってこそ。お約束の、シャツが燃える→上半身裸になるというシーンを経て、そりゃないだろ的シーンも混ぜながら、最後にはヘリと戦車をスクラップにしてしまう戦いには、もう圧倒されて言葉も出ない。

『シャウト・アウト』©︎COPYRIGHTS NADIADWALA GRANDSON ENTERTAINMENT PVT. LTD. 2020

これらシリアでの大規模アクションシーンは、本当はシリアで撮影したかったものの許可が出ず、旧ユーゴスラビアのセルビアで撮影されたという。その他、モロッコ、エジプト、トルコでも撮影されたというから、街や市場のシーンなどはそちらで撮られたものだろう。定番の街中追いかけっこシーンもあれこれ工夫がしてあり、楽しませてくれる。『タイガー・バレット』の監督でもあったアフメド・カーン監督、今回も及第点である。

タイガー・シュロフのダンス巧者ぶりも見られるこのシリーズは、インドでは人気が高い。本作はコロナ禍の始まった2020年3月6日に公開されたものの、ロックダウン開始の3月24日には映画館も閉鎖されたため、2週間程度しか公開されなかったのだが、それでもボリウッド映画の2020年興収第2位となるヒットとなった。それを受けて、現在『Baaghi 4』も製作中だという。タイガー・シュロフの進化がどこまで進むのか、見届けてみたいものだ。

文:松岡 環

『シャウト・アウト』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年12月~2023年1月放送

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『シャウト・アウト』

腕に自信のあるロニーは亡き父との約束で、心優しき兄ヴィクラムがピンチの時は必ず駆けつけ、守ってきた。やがて警察官となったヴィクラムが、シリアでテロ組織に拉致されてしまう。兄を救うため怒りのまま異国へ向かったロニーを待ちかまえていたのは、武装テロリストの大軍勢だった。

監督:アフメド・カーン

出演:タイガー・シュロフ
   リテーシュ・デーシュムク シュラッダー・カプール