存在自体がイリーガルな暗殺者による壮大な自分探し物語
記憶喪失のCIAのエージェントといえば1996年の『ロング・キス・グッドナイト』でジーナ・デイヴィスが演じた女性エージェントが先駆けだろうか。とはいえロバート・ラドラムによる『ボーン』シリーズの原作小説「暗殺者」は1980年刊行なので、どっちがどっちという議論は不毛かもしれない(この2作品に影響された『エージェント・ウルトラ』というアクションコメディもある)。
さて、記念すべき1作目『ボーン・アイデンティティー』(2002年)のボーンは自分の名前すら思い出せないので相当不安なはずだが、自分の足跡を追ううちに偽造パスポートや大金、ホンモノの銃まで出てくるのだから発狂モノである。さらに、謎の組織に命を狙われるという不幸のつるべ打ち状態!
ところがボーンは自らに危険が迫ると驚異的な格闘スキルを発動し、武装した敵もサクッと返り討ちにしてしまう。男子中高生だったらテンション爆上がり間違いなしの潜在能力だが、そんな殺人術を会得した覚えのないボーンは涙目状態。しかし、ピンチに陥る彼を救うのもまた、その人間離れした危険察知能力や状況判断・対応力なのであった。
当時のデイモンは『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)などのセンシティブなイメージが強かったこともあってか、『~アイデンティティー』は世界的な大ヒットを記録。そして続編『ボーン・スプレマシー』(2004年)は一転、シリーズ共通のテーマとなるCIAの“トレッドストーン計画”の秘密に迫る復讐劇へ。
ダグ・リーマン監督からバトンを引き継いだポール・グリーングラス監督による、しっかり要点を押さえた上での目まぐるしいカット割りは後のアクション映画に(良くも悪くも)多大な影響を与えることになる。
記憶、戻りました! シリーズ集大成『ジェイソン・ボーン』
ロシアの地で諸々の因縁に決着をつけた『~スプレマシー』の直後から始まるのが、実はアカデミー編集賞ほか計3部門で受賞した『ボーン・アルティメイタム』(2007年)。ジャーナリストの追求でトレッドストーン計画が明るみに出たことにより“ブラックブライアー”という後続計画の存在を知ったボーンが、諸悪の根源を絶たんと再びCIAに立ち向かう。
さて、これら3部作で完結したと思われていた『ボーン』シリーズだが、(ジェレミー・レナー主演のスピンオフ的作品『ボーン・レガシー』(2012年)を挟んではいるものの)9年後にまさかの続編が登場。その名もズバリ『ジェイソン・ボーン』(2016年)。まさに集大成といった内容で、いきなり「ぜんぶ思い出した……」というボーンの独白から始まる。
もっと早く思い出しとけよ! なんてツッコむなかれ、ボーンが自分探しをしていなければCIAのダークサイドで蠢いていた連中も野放しになっていたかもしれないのだ。
当時デイモンは40代半ばだが、おそらくデイモン史上もっともガチムチなボディで大暴れする姿を拝むことができる。そんな「デイモン=ボーン」に加えて、彼の協力者やCIA内部の善と悪、冷徹な殺し屋など、登場するキャラクターは幅広く、ソーシャルネットワーク・サービスによる国民監視システムをフィーチャーしているのは2010年代らしいところ。ちなみに今回のCIAが企てているのが、そのシステムを利用した“アイアンハンド”という、名前はダサいが恐ろしい計画だ。
ついにボーンの父の死の真相も語られる『ジェイソン・ボーン』は、トミー・リー・ジョーンズ、アリシア・ヴィキャンデル、ヴァンサン・カッセル、リズ・アーメッドなど共演陣も超豪華。前日譚を描くドラマシリーズ『Treadstone(原題)』も製作中なので、この機会に映画シリーズを制覇しておこう!
『ボーン』シリーズはCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年5月4日(土・祝)14:30~4作品連続/2019年5月13(月)~16(木)13:30~4日間連続放送
『ジェイソン・ボーン』
CIAの極秘プログラムによって生み出された暗殺者ジェイソン・ボーン。世間から姿を消して生活していた彼の元に、CIAの元同僚であるニッキ―が現れる。彼女は、CIAが世界中を監視・操作するための極秘プログラムを始動させたことを告げ、さらにボーンの過去にまつわる衝撃的な真実を明かす。
制作年: | 2016 |
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監督: | |
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