永遠に語り継がれるマリリン・モンローという「伝説」
ハリウッドの長い歴史を振り返って「伝説」というレベルで語り継がれるスターは、何人か挙げられる。その何人かの一人が、マリリン・モンローで異論はないだろう。
From her platinum hair to her iconic pleated white halter dress, there may be no other figure in pop culture history whose sense of style is so synonymous with her person as Marilyn Monroe. @cadylang dives into Monroe's fashion legacy https://t.co/NEAQjR1gpw
— TIME (@TIME) October 2, 2022
マリリン・モンローは、エルヴィス・プレスリー、ミッキーマウスと並んで、20世紀アメリカのポップカルチャーのアイコンとされており、映画という枠を超えて世界中の人々を虜にした存在。その出演映画を知らない人も、たとえばアンディ・ウォーホルのアート作品で顔を認識していたりする。ブロンドの髪で“セックス・シンボル”と呼ばれたモンロー。そのイメージは永遠に語り継がれるはずだ。
その生涯は短かった。1926年生まれで1962年に亡くなったので、わずか36年。ハリウッドのトップスターとして活躍したのも約10年間である。36年の生涯といえば、あのダイアナ元皇太子妃と同じ。ダイアナも、マリリン・モンローも、短く駆け抜けたからこそ、輝いていた時代の姿で記憶に留まっている。
時代を超えて愛される大スター、永遠のポップ・アイコン
1950年のアカデミー賞作品賞受賞作『イヴの総て』での新人女優役、同年の『アスファルト・ジャングル』の弁護士の愛人役で、ともに短い登場ながら強烈なインパクトで注目されたマリリン・モンローは、一気にトップスターへの道を駆け上がっていく。
『ナイアガラ』(1953年)や『紳士は金髪がお好き』(1953年)といった作品で、ブロンドの美人女優というイメージを固定化。『紳士は〜』で、燕尾服の男性たちと繰り広げるミュージカルナンバー「Diamonds Are a Girl’s Best Friend(ダイアモンドは女の親友)」は、マドンナ「マテリアル・ガール」のミュージックビデオや、映画『ムーラン・ルージュ』(2001年)など数多くオマージュを誕生させた。
またモンローといえば、地下鉄の通風孔からの風でスカートがめくれ上がる姿があまりに有名だが、そのシーンが出てくる『七年目の浮気』(1955年)や、映画史に残るコメディの傑作『お熱いのがお好き』(1959年)といった、名匠ビリー・ワイルダー監督作品での輝きは圧倒的だ。
そのほかにもタイトルと同名曲を独特のムードで歌った『帰らざる河』(1954年)など、他のスターでは絶対に演じることのできない“マリリン・モンローの映画”として時代を超えて愛され続けている。
ただ、スターというのは「光」と「影」の両方の面を持ち合わせているもの。マリリンの場合、その「影」の部分も人生を語る上では重要なパートだ。
『ブロンド』はマリリンの「影」を強調したフィクション
本名はノーマ・ジーン。母親グラディスは精神を病んでおり、ノーマの父親はグラディスの夫とは違う別の男性だったとされる。母親が病院に入ると、ノーマは孤児院、里親に預かられて成長。そして16歳で結婚。すぐに夫は徴兵され、結婚生活がうまくいかないまま、ノーマはハリウッドへ向かい、モデル事務所と契約。そこでピンナップガールとして注目を集め、俳優への道を切り開いていく。夫とは3年後に正式離婚した。有名になったきっかけのブロンドの髪も、じつは染めたもので、その後ずっとブロンドをキープしなくてはならなくなる。
Future movie goddess Marilyn Monroe posing for a classic pinup by Earl Moran in her early days as a model. pic.twitter.com/dFMHx2gS2a
— The Marilyn Diaries (@MarilynDiary) July 28, 2021
10代ですでに波乱万丈の人生だが、それからも、後のスキャンダルのもとになったスターになる前のオールヌードのピンナップ、メジャーリーグの大スターだったジョー・ディマジオとの結婚と破局(どこへ行っても自分より注目され、俳優としての仕事も優先した妻への不満が大きな原因とされる)、薬物やアルコールへの依存、劇作家アーサー・ミラーとの結婚……と、俳優のキャリア以上に世間を騒がせる。
ジョン・F・ケネディ、その弟ロバート・ケネディと親密な関係も噂され、1962年、大統領になったJ・F・ケネディの誕生日祝賀会で「ハッピー・バースデー」を艶めかしく歌う映像は、今でも語り草になっている。
その数ヶ月後、自宅のベッドルームで死体となって発見された際は、事故死か自殺か、あるいは他殺かと、さまざまな憶測が流れた。いずれにしても亡くなるまでの数年間、マリリン・モンローは追い詰められた精神状態だったのは確かのようだ。
Front page of the New York Daily Mirror on August 6, 1962 pic.twitter.com/3qbDHeHs7U
— The Vintage News (@TvnVintage) August 5, 2018
そんな「影」の部分をフィーチャーしたのが、Netflix映画『ブロンド』である。ただし、この作品、マリリン・モンローの実録モノではなく、2000年に出版されたジョイス・キャロル・オーツの同名小説の映画化。つまりフィクションの要素も多く含まれているのだ。
本作で最も強調されるのは、マリリンの実父への想い。会ったこともない父親への思慕は彼女の人生を支配し続ける。また劇中でマリリンは2度の中絶を経験し、こちらも人生のトラウマとなったかのごとく描かれるが、マリリンは流産したことはあるものの、中絶した事実はなかったとされる。その他にも『ブロンド』では、マリリンが、チャールズ・チャップリン、エドワード・G・ロビンソンという2大名優のそれぞれの息子と3人で愛を交わす生活が描かれる。これも事実ではないようだ。
アナ・デ・アルマス熱演
このように伝説スターのスキャンダラスで「影」の部分が強調される『ブロンド』だが、マリリン・モンローの俳優としての出演作品と役柄、ジョー・ディマジオとの結婚といった“基本”の事実はそのまま再現されるので、ハリウッドのひとつの歴史として映画ファンを満足させる側面はある。
とくにマリリン自身の再現はパーフェクトと言っていい。演じたアナ・デ・アルマスは、ヘアメイクでそっくりに変身しているとはいえ、映画の名シーンから有名な写真まで、マリリン本人に違和感なくなりきっている。メイクの薄いシーンはアナの素顔に近くなるが、そもそもノーメイクのマリリンがどんな顔か、あまり世に出ていないので、比較しても意味がない。
アナ・デ・アルマスといえば、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のボンドガール役で大人気となったが、本作での壮絶極めた演技は、明らかに俳優としての才能を見せつけた印象。ただし、ひたすら追い詰められるシーンが多く、過剰なまでにヌードも披露したことで、アナ自身も演じながら辛すぎたことを告白している。もともとスカーレット・ヨハンソンが演じる予定もあったが、伝説の存在を果敢に受け継いだアナの勇気には拍手を贈りたい。
この『ブロンド』でも描かれるが、マリリン・モンローは自分が“セックス・シンボル”としてもてはやされることに嫌気がさし、本格的に演技を極めたいと、メソッド演技法を確立したリー・ストラスバーグの下で学んだ。「世間の求めるイメージ」と「本当に目指したいもの」の間で格闘しており、もう少し長く生きて俳優のキャリアを積んでいたら、アカデミー賞を受賞する名優に上り詰めていたかもしれない。
あれだけの名声を得ても、達成できなかった夢がある……。そんな切なさ、悲しさも、 “忘れがたい伝説”としてマリリン・モンローが人々に愛され続ける、ひとつの要素なのである。
文:斉藤博昭
Netflix映画『ブロンド』独占配信中
『ブロンド』
波乱に満ちた私生活と、名声がもたらした思わぬ代償。ハリウッドの伝説的存在であるマリリン・モンローの人生を、新たな視点から大胆に描き出すフィクション。
監督・脚本:アンドリュー・ドミニク
原作:ジョイス・キャロル・オーツ
出演:アナ・デ・アルマス エイドリアン・ブロディ
ボビー・カナヴェイル ゼイヴィア・サミュエル ジュリアンヌ・ニコルソン
リリー・フィッシャー エヴァン・ウィリアムズ
制作年: | 2022 |
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