「切磋琢磨」という言葉が似合うようなふたり、横浜流星と清原果耶。両者ともに近年目覚ましい活躍を見せ、日本映画・ドラマ界に欠かせない役者へと成長した。そのふたりが『愛唄 ―約束のナクヒト―』(2019年)から約3年の時を経て再共演を果たしたのが、2022年10月21日に公開を迎える映画『線は、僕を描く』だ。
水墨画の世界に導かれた大学生・霜介(横浜流星)と、水墨画界の若きスター・千瑛(清原果耶)。過去に負った心の傷に苦しむ霜介と、巨匠の孫として将来を期待されながらスランプに苦しむ千瑛はお互いに高めあいながら、前に向かって進んでいこうともがく。『ちはやふる』シリーズ(2016年ほか)で知られる小泉徳宏監督による、清廉なものづくり青春エンターテインメントだ。
BANGER!!!では今回、横浜と清原の“ものづくり”に焦点を当てた対談をお送りする。
横浜流星×清原果耶だから生まれた絶妙な距離感
―横浜さんと清原さんは『愛唄 -約束のナクヒト-』で共演され、共に藤井道人監督作品の常連(『青の帰り道』[2018年]、『デイアンドナイト』[2018年]、『宇宙でいちばんあかるい屋根』[2020年]ほか)でもあります。個人的に、芝居に対する向き合い方もフィーリングが近いかなと感じますが、いかがでしょう?
清原:それこそ藤井さんに「僕たちって戦友だよね」と言われたことがあるのですが、流星くんも私も妥協が嫌いだったり中途半端なことができないところがあると感じます。大げさな言い方かもしれませんが、目の前の作品にいまの自分のすべてをかける姿勢、その温度感は似ている部分がある気がします。
横浜:自分もそう思います。一緒に作品を作っていくなかでも、ワンシーン、ワンカットに込めているものや譲れないもの、集中力の高さを間近で見て強く感じました。それらは僕自身も大事にしているところですし、今回の現場で果耶ちゃんからたくさんの刺激をもらえました。志の部分はお互い共通していると感じます。
―そんなおふたりだからこそ生み出せたであろう、霜介と千瑛の関係性の変遷が素敵でした。水墨画の先輩・後輩であり、同じ道を往く同志でもあり。今回は順撮り(脚本の順番通りに撮影すること)が多かったのでしょうか。
横浜:千瑛とのシーンは、ほぼ順撮りではなかった気がします。そのぶん、毎回段取り(そのシーンの撮影前に行われる動きの確認)からじっくり話して、丁寧に作っていきました。1回やってみて、ちょっとでも違和感が生まれたらまた話し合って。
清原:先ほどおっしゃっていただいたように、流星くんと私だから生まれた霜介と千瑛の距離感というのは、きっとあると思っています。『愛唄 ―約束のナクヒト―』から『線は、僕を描く』で再共演するまでにお互いが見てきたものを経て、改めて存在の大きさを感じたところもありました。
流星くんの佇まいを見ているだけで、色々な経験をしてきたことがわかるし、“深み”がすごく増したように感じました。優しい人柄や役に対する誠実さは変わっていないというか、むしろ強まったんじゃないかな?と思います。
横浜:果耶ちゃんはこれまで以上に大きく見えたし、頼もしく感じました。そして「人生3回くらい繰り返してここにいるんだろうな」と思えるような落ち着きは、全く変わっていない。もしそこが変わっちゃっていたら、僕はすごく落ち込んで悲しんでしまうと思います(笑)。
清原:(笑)。
横浜:でも果耶ちゃんは全く変わっていないから、とにかく安心できました。
ものづくりに必要不可欠なのは“会話”
―おふたりは共に「ストイック」と評されることが多いのではないでしょうか。
横浜:確かによくそう言っていただけるのですが、自分ではそうは思っていません。ただただ作品や役のことを考えていたらこうなっていただけなんです。逆に、「当たり前のことをしているだけ」という感覚に近いかもしれません。
清原:そうですね。私に関しては、一直線にやりすぎると独りよがりになってしまうこともあるなと思うようになってきて。現場や役が違えばアプローチの仕方も変わってくるので、その時々で一番いい形を表現していくことが大事だなと学びました。良い塩梅でバランスをとれるようになったら、自分の中でそれが「成長」という言葉になると思います。
―すごく難しいなと思うのは、いま横浜さんと清原さんがおっしゃったように、「役や作品のことを考え抜く」×「独りよがりにならない」のさじ加減です。監督や演出の意向もある共同創作の場で、おふたりはどのようにして落としどころを探っていくのでしょう?
横浜・清原:難しい……(考え込む)。
清原:自分が役として提示したいものを持っていくのは大前提としてあって、監督と摺合せした時に全部が全部「そうだよね」となるわけではありません。お互いに「これだけは譲れない」という部分はちゃんと話し合いますし、そのうえでお互い納得がいく形を探しています。「OK」と言われたらOK、という場合もありますし。
横浜:やっぱり、会話が大事だなと思います。その中でズレや違和感が生まれたら、そこをまた話し合って落としどころを見つけている気がします。
清原:私は、現場に失敗はないと思っています。色々な選択肢がある中で、その都度「何を選ぶか」を選択し続けるのが現場で、その際の共通認識を作るために会話がある。ただ、まだまだ「どうしていけばいいかわからない」と迷うことも多いので、その都度頑張りたいと思っています。
演技に集中“しすぎた”ゆえの失敗談
―『線は、僕を描く』は、躍動感あふれるカメラワークが特長かと思います。横浜さんは撮影監督の安藤広樹さんと『いなくなれ、群青』(2019年)で組まれ、清原さんは小泉徳宏監督と『ちはやふる 結び』で組まれていますが、どのような話し合いを経て、この魅せ方を作っていったのでしょう。
横浜:本当に試行錯誤の連続でした。安藤さんともたくさん話し合って作っていったのですが、やっぱり段取りの段階ではなかなかイメージが掴みづらいところもあって、本番で「こう来るか!」と驚いたこともありました。そして、やっていくなかで監督から「こういう画も欲しい」とリクエストがあり増えていった、という形でした。
清原:爽快感のあるカットを撮る際には、絵コンテが配られるときもありました。
横浜:あったあった。どっちかが上(かみ)目線で、どちらかが下(しも)目線で、という指示も書かれていたね(※上手[かみて]は観客から見て右、下手[しもて]は観客から見て左)。
清原:そうそう。基本的にはなかったのですが、「どうしてもこう撮りたい!」というシーンの際にはコンテや説明書きのあるメモを渡されましたね。
横浜:点描シーン(短いイメージカットが連続するもの)のときも配られました。
―映画の撮影において絵コンテが俳優部に配られることは、あまりないような気がします。
横浜:そうですね。僕の経験の中ではほとんどなかったように思います。新鮮でした。
清原:『ちはやふる 結び』のときもなかったです。
横浜:そうなんだ。じゃあ今回が初めてだったんだね。だからこそ点描シーンなどの撮影時には「つなぎがどうなるんだろう」という疑問だらけでした。完成版を観て「こうなるのか!」と驚きました。
―絵コンテもインプットするとなると、さらに演じる際のタスクが増えそうですね……。
清原:そうですね。私のせいでNGが出ちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしつつ、「カット、OK!」が聴こえるまではとにかく注力して演じていました。
大学で講義をするシーンなどは、説明をしながら水墨画を描かなくてはいけないなかで「こうやって撮りたいから、ここでこう動いて」という指示もあり、やることがいっぱいあって。緊張のあまりどんどん早口になってしまい、監督に何回か指摘されました(苦笑)。
横浜:難しいよね。僕は庭の椿を切るシーンで「剪定に慣れている」という設定だったのでスムーズに切るさまを見せたいと思って演じていたら切りすぎてしまい、「切っているふりでお願いします」と言われてしまいました(苦笑)。そういうことが結構あるので、気をつけます。
地方ロケのルーティンは?「パン、好きだよ(笑)」
―今回は滋賀県に1ヶ月泊まり込みでの撮影だったかと思いますが、おふたりが地方ロケの際にルーティンにしていることはあるのでしょうか。
横浜:僕は普段、家でしていることとあまり変わりません。ベッドに寝転がって台本を読み、次の日の予習をしたり、コンビニで買ったご飯を食べたり……(笑)。湯船には必ず浸かるようにはしていました。
清原:コロナ禍だったので色々なお店にご飯を食べに行くことはなかなかできなかったのですが、撮影が朝早く終わった日などは現場の近くでパン屋さんを見かけると寄っていました。
―ちょうどお店がオープンする時間だったりしますね。
清原:そうなんです。パンが焼き上がったタイミングでパンやベーグルを買って、ホテルに帰って食べるのが楽しみでした。
横浜:素敵ですね……。
清原:せっかくだからおいしいものを食べたいし、地方ロケ中は寄れるタイミングを見計らって、その土地のご飯を食べるようにしています。
―いまのお二人のお話を聞いていると、横浜さんの撮影期間中の過ごし方には“抜き”の時間はあるのかな? と思います(笑)。
横浜:確かに(笑)。予習して、寝て、ですからね(笑)。撮影期間中も1~2日はご飯に行ける時間が取れますが、果耶ちゃんみたいにうまく抜く方法を知りたいです。パン買ったりとか、いいな……。
清原:誘えばよかったね。パンを食べなさそうなイメージがあって(笑)。
横浜:パン、好きだよ(笑)。誘ってほしかった……。
清原:じゃあ、今度は一緒に買いに行きましょう!(笑)
取材・文:SYO
撮影:落合由夏
『線は、僕を描く』は2022年10月21日(金)より全国公開
『線は、僕を描く』
大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で運命の出会いを果たす。
白と黒だけで表現された【水墨画】が霜介の前に色鮮やかに拡がる。
深い悲しみに包まれていた霜介の世界が、変わる。
巨匠・篠田湖山に声をかけられ【水墨画】を学び始める霜介。
【水墨画】は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術。描くのは「命」。
霜介は初めての【水墨画】に戸惑いながらもその世界に魅了されていく――
監督:小泉徳宏
原作:砥上裕將
脚本:片岡翔・小泉徳宏
出演:横浜流星 清原果耶
細田佳央太 河合優実 矢島健一 夙川アトム
井上想良/富田靖子
江口洋介/三浦友和
制作年: | 2022 |
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2022年10月21日(金)より全国公開