『永遠のこどもたち』のタッグが立場を変えて再集結!
とある家族が“何らかの確執”から逃れて母親の旧家に引っ越してきた。そこに父親の姿はない。自然豊かな風景は美しく、長男ジャック、長女ジェーン、次男ビリー、三男サム、近所に住むアリーが無邪気にはしゃぐ様子は多幸感にあふれ、ホラー映画とは思えないほど牧歌的だ。
しかし母親は病を患っていて、子どもたちを残して逝ってしまう。母は亡くなる直前、一家の“掟”を固く守るようジャックに言い聞かせるが、同時に恐ろしい秘密も打ち明けた。家族のテンションがガクンと落ちると同時に映像の彩度もスッと下がり、じんわりと不穏な空気が漂いはじめる。
『永遠のこどもたち』で脚本家/監督としてタッグを組んでいたセルヒオ・G・サンチェス監督とJ・A・バヨナ(今作では製作総指揮)コンビだけに、今回もスピリチュアルな心霊モノかな? と勘ぐってしまうが、その予想は大いに裏切られる。両親が遺した罪、姿を見せない父親の謎、若い兄弟を縛る不可解な掟……それらのピースがピタリとハマった瞬間の恐怖は絶句レベルだ。
次世代を担う“幸薄顔”の若手キャストが集結!
中盤過ぎまで心理ホラーなのか物理ホラーなのかすら予測できないため、とにかく縛りつけられたようにスクリーンをじっと見つめて顛末を見届けるしかないのが精神的にキツい。そんなじりじりとした恐怖と緊張感をキープするのは、次世代を担う若きキャストたちの存在感だ。
ジャックを演じるジョージ・マッケイ(『はじまりへの旅』(2016年)ほか)とビリーを演じるチャーリー・ヒートン(『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シリーズほか)は、もともとの血色の悪さと鬼気迫るキョドり演技がホラー/スリラー映画にどハマり。特にヒートンは『ストレンジャー・シングス』のジョナサン役と同じく、追い詰められた果てにブチ切れる危ういキャラクターを演じるのが巧い。
ジェーン役は新世代のホラークイーン、ミア・ゴス。リメイク版『サスペリア』では結果的にホラー/スリラー要素をほぼ一人で担っていた感があるが、本作では兄弟を陰ながら支える長女を演じている。とにかく、びっくり顔がこんなに怖い若手女優を他に知らない。末っ子のサムを演じるマシュー・スタッグも家族のマスコットというだけでなく、歳の離れた兄2人の口論や家の中にいる“見えない何か”に怯える男児を好演している。
そして物語の重要な鍵になるのは、『ウィッチ』(2015年)にはじまり『スプリット』(2017年)『ミスター・ガラス』(2018年)で若手スターの筆頭となったアニャ・テイラー=ジョイ。ミステリアスな美貌と相反するような豊かな感情表現で作品に深みを与える希有な女優だが、本作で演じる図書館司書アリー役はもはや神の域に達している。そのココロは感動的なラストシーンを観て実際に確認してほしい。
リピート観賞で大号泣! こんなホラー映画を待っていた
アメリカの田舎町の人里離れた一軒家が主な舞台(ただし時代設定は1960年代)ということで、本作はホラー版「大草原の小さな家」とでも例えたくなる素朴さだが、当然ながら家族関係は全く異なる。気分が極限まで沈んだときの体温が下がっていくような感覚だったり、不快なものを体内に取り込んでいくような深層意識の恐怖は、忌むべき対象が“父親”であることと無関係ではないだろう。社会問題となっている毒親云々……などと軽々しく言うべきではないのかもしれないが、実体験のせいでこのへんに感情移入してしまう人には少し危険な映画かもしれない。
低予算のシンプルな物語を、複雑かつ繊細なファミリーホラーに仕立て上げたセルヒオ監督の手腕は見事。『永遠のこどもたち』は孤児院、『マローボーン家の掟』は家族の話という違いこそあれ、どちらも深い悲しみの中に一筋の光を見出すことができる。
そして本作は、間を置かずに再鑑賞することをオススメしたい。きっと二度目の鑑賞時には、冒頭のほっこりシーンからわんわん泣いてしまうはず。そんな映画、なかなか観られるもんじゃない……!
『マローボーン家の掟』は2019年4月12日(金)から公開
『マローボーン家の掟』
美しい楽園で死体とともに暮らすマローボーン家の4人兄妹。
純粋無垢な彼らが守る“掟”が打ち破られたとき、屋敷に隠された恐ろしい秘密と邪悪な何かが動き出す……!
制作年: | 2017 |
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監督: | |
脚本: | |
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