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ブラッド・ピット×伊坂幸太郎 『ブレット・トレイン』の魔訶不思議ニッポン! キャラ設定や劇中の昭和名曲を解説

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ライター:#森直人
ブラッド・ピット×伊坂幸太郎 『ブレット・トレイン』の魔訶不思議ニッポン! キャラ設定や劇中の昭和名曲を解説
『ブレット・トレイン』

伊坂幸太郎×ハリウッドの化学反応

これ、えっらく面白い! 正直びっくりした。まさか「伊坂幸太郎×ハリウッド」という公式から、こんなに愉快で絶妙な化学反応が起きようとは!

『ブレット・トレイン』

舞台は日本。ただし、どこか異国情緒豊かなネオンカラーの東京から映画は始まる。そこに「弾丸列車」(と、漢字のテロップが出る)が飛び込んできて、米映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年/監督:ジョン・バダム)で使われたことでも有名なおなじみのディスコチューン、ビージーズの「ステイン・アライヴ」が流れる……と思ったらカヴァーVer.で、歌っているのはアヴちゃん(女王蜂)だ!

まもなくバケットハットに黒縁めがね姿のブラッド・ピットが歩いてくる。彼が演じるのは、久々に仕事を請け負った殺し屋レディバグ。幸運を運んでくると言われる「てんとう虫」(と、やはりデカデカと日本語のテロップが出る)を意味するコードネームだが、実は“BAD LUCK”(悪運)に取り憑かれており、彼が動けばロクなことが起きない。

『ブレット・トレイン』

そんな彼が司令塔のマリア(サンドラ・ブロック)から電話越しに受けたミッションは、“東京発・京都行”の超高速列車「ゆかり」号(東海道新幹線、のような何か)に乗り込み、ブリーフケースを盗んだら次の品川駅で降りるというシンプルな仕事だ。さっそくお目当てのケースを手に入れ、難なく任務完了といきたいところだが、しかし……降りたくても降りられない! 時速350kmで走る車両の中で、次々とキャラの濃い殺し屋たちがレディバグに襲い掛かってくる――。

『ブレット・トレイン』

ジャッキー映画のようなファイト・コレオグラフィーに注目

本作『ブレット・トレイン』の原作は、ベストセラー作家・伊坂幸太郎のミステリー小説〈殺し屋シリーズ〉の第2作「マリアビートル」(角川文庫刊)だ。同シリーズ第1作の「グラスホッパー」は、2015年に瀧本智行監督、生田斗真、浅野忠信、山田涼介(Hey! Say! JUMP)らの競演により映画化されている。

マリアビートル (角川文庫)

対して『ブレット・トレイン』の監督はスタントマン出身のデヴィッド・リーチ。もともと『ファイト・クラブ』(1999年/監督:デヴィッド・フィンチャ-)や『Mr.&Mrs.スミス』(2005年/監督:ダグ・リーマン)などでブラッド・ピットのスタントダブルを何度も務めたことのある旧知の仲で、監督としてはブラピが「コーヒー1杯のギャラ」で一瞬だけカメオ出演した『デッドプール2』(2018年)や、メガヒットシリーズの『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019年)などを手掛けた。特にパワフルでコミカルなアクション演出には定評のある監督だ。また彼が共同設立した会社<87ノース・プロダクションズ>では、『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)など人気作品を多数展開している。

『ブレット・トレイン』デヴィッド・リーチ監督

日本が誇る往年の名作『新幹線大爆破』(1975年/監督:佐藤純彌)や、あるいは『スノーピアサー』(2013年/監督:ポン・ジュノ)ではないが、舞台のほとんどは「走り続ける密室」というべき高速列車の中となる本作。だが閉鎖的な空間の窮屈さを逆利用して、むしろ密度の高い活劇装置にする、デヴィッド・リーチ監督のアクション設計が本当に素晴らしい。彼が今回、参考にしたのはバスター・キートンやジャッキー・チェンの映画作法らしい。確かに、加速する列車の外側も含めてダイナミックに活用するのは『キートンの大列車追跡』(1926年)の系譜だし、蛇、炭酸水のボトル、ラップトップパソコンなど身近にあるモノを何でも格闘の道具に使うあたりなど、まさにジャッキー的なアクションのコレオグラフィー(振り付け)だ。

『ブレット・トレイン』

もちろん視覚効果の工夫も見事なもの。12両編成という設定の<ゆかり>号は、実際には2つの車両セットで撮影しているらしいが、スケール感は申し分ない。東京駅とその周辺は、ロサンゼルス・コンベンションセンターを駅に見立てて装飾し、列車の窓の外の風景は、LEDスクリーンを使って車窓に実際の東京~京都間の田園風景を投影した。

原作「マリアビートル」からの改変点は? タランティーノ要素もプラス

とはいえ、本作に映し出された日本は、決してリアルな世界像を目指したものではなく、あくまで「デフォルメされた摩訶不思議なニッポン」である。それでもストーリーラインや基本的な内容に関して、小説「マリアビートル」を読んでいる人は、意外にちゃんと原作に沿っているんだな、と思うのではないか。もちろん細かい脚色を挙げればキリがないのだが、特に目立つ大きな変更点を以下にざっくり挙げてみよう。

・原作「マリアビートル」の列車は“東京発・盛岡行”の東北新幹線<はやて>。

・小説では邪悪で狡猾な男子中学生の「王子慧」が、映画では悪魔のように残虐なサイコパスのスクールガール「プリンス」(ジョーイ・キング、怪演!)へと変更。

実はこんなものではないか。あと一応、小説の主人公は「木村」――映画ではアンドリュー・小路が演じるキムラとなっているが、そもそも三組の殺し屋たち(「木村」と、レディバグに当たる「七尾」と、「蜜柑」&「檸檬」のコンビ)や、「王子慧」らをめぐって大勢のキャラクターがわちゃわちゃと入り乱れていく群像劇なので、お話の構造が根本的に変わったという印象はない。

『ブレット・トレイン』

例えば殺し屋コンビ「蜜柑」&「檸檬」のレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)が、日本でもおなじみの英国製キッズ番組『きかんしゃトーマス』の熱心な信者=オタクで、「俺はトーマスから人生を学んだ」と豪語し、いちいちトーマスやらパーシーやら同番組のキャラクターを当て嵌めてうんちくを垂れる愉快な設定も、原作を踏襲したもの。彼と、相棒の「蜜柑」に当たるタンジェリン(アーロン・テイラー=ジョンソン)で交わされる饒舌な会話(無駄話)のグルーヴ感などは、クエンティン・タランティーノ監督作のノリを彷彿とさせる。

『ブレット・トレイン』

タランティーノといえば、まさにブラピが『イングロリアス・バスターズ』(2009年)と『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)で組んだ監督だが、『ブレット・トレイン』の「デフォルメされた摩訶不思議なニッポン」は、同監督の『キル・ビルVol.1』(2003年)&『キル・ビルVol.2』(2004年)に通じるものとも言えよう。

『ブレット・トレイン』

劇中曲も必聴!「デフォルメされた摩訶不思議なニッポン」が楽しい

伊坂幸太郎の原作自体もタランティーノからの影響がうかがえるが、そもそも伊坂ワールドは通常のリアリズムから少し浮遊した“半ファンタジー”的な色合いなので、アメリカ映画として料理するくらいが結構ぴったりなのかもしれない――。思わずそう言いたくもなるくらい(もちろん中村義洋監督による『アヒルと鴨のコインロッカー』[2006年]や『ゴールデンスランバー』[2009年]など日本の見事な伊坂原作の映画化もあるが)、今回の『ブレット・トレイン』は“キッチュ・ジャパン・ムービー”の歴史的な成功例だと思う。

『ブレット・トレイン』

殺し屋のキャストにも、楽曲「Yonaguni」(与那国)が超話題になったプエルトリコ系ラッパー/シンガーのバッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ:ウルフ役)だったり、『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年/監督:ジェームズ・マンゴールド)などまさしくハリウッドと日本を股に掛けて活躍する我らが真田広之(キムラの父、エルダー役)や、『スーサイド・スクワッド』(2016年/監督:デヴィッド・エアー)のカタナ役などで知られる福原かれん(「ゆかり」号の乗務員)など、本作の世界像にふさわしい最高の面々が揃っているのだ。

『ブレット・トレイン』

そして、さらなる卓越点は音楽。「ほとんど洋楽」にしか聞こえない奥田民生の「Kill Me Pretty」も流れるが、なんといっても白眉はキムラがレモンに撃たれるシーンで流れる、カルメン・マキの「時には母のない子のように」(作詞:寺山修司、作曲:田中未知)! 加えて、ボニー・タイラーの「Holding Out for a Hero」……ではなく、その日本語カヴァーである麻倉未稀の「ヒーロー」という驚き!(TBS系ドラマ『スクール☆ウォーズ』の主題歌だった)。とどめの一発には、坂本九の全米ビルボードNo.1ソング「スキヤキ(上を向いて歩こう)」(作詞:永六輔、作曲:中村八大)――かつてRCサクセションも「日本の有名なロックンロール!」と紹介した究極のジャパニーズ・アンセムで締める。まさか昭和の名曲群がこれほど高らかに鳴り響くハリウッド映画が登場するとは!

「デフォルメされた摩訶不思議なニッポン」は、小粋な無国籍アクションと言い換えてもいいかもしれない。A級のオールスター超大作でありながら、とことん肩の力を抜いて楽しめる、ポップコーンムービーとしてのB級スピリットを失っていないのもシビれるところだ。ハリウッドならではの明るくゴージャスな“馬鹿力”に乾杯! そして「あの人」のカメオ出演にも要注目!

文:森直人

『ブレット・トレイン』は2022年9月1日(木)より全国公開

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『ブレット・トレイン』

世界で最も運の悪い殺し屋レディバグ。謎の女性から電話越しにブリーフケースを奪うよう指令を受けたレディバグは、気合たっぷりに<東京発・京都行>の超高速列車に乗り込む。しかし、それは彼にとって人生最悪な120分の始まりだった。次々と乗りこんでくるキャラ濃すぎの殺し屋たちが、全く身に覚えのないレディバグに襲い掛かる。簡単な指令を果たしてすぐ降りるだけの任務のはずだったのに…… 時速350kmの車内で繰り広げられる、決死のバトル! 予期せぬ最悪が折り重なり、終着点・京都に向けて<絶望>が加速する――

原作:伊坂幸太郎「マリアビートル」(角川文庫刊)
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:ザック・オルケウィッツ

出演:ブラッド・ピット
   ジョーイ・キング アーロン・テイラー=ジョンソン
   ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路
   真田広之 マイケル・シャノン ベニート・A・マルティネス・オカシオ
   サンドラ・ブロック ローガン・ラーマン ザジー・ビーツ
   マシ・オカ 福原かれん

制作年: 2022