南沙良×大西流星(なにわ男子)インタビュー
ある種の家族愛を描く『この子は邪悪』は、大きな交通事故に遭い、それぞれ心身どこかしらに傷を抱える窪家の物語。窪家の長女・花は心に、心理療法士の父・司朗は脚に、妹の月は顔に、そして母の繭子は植物状態になっていた。そんな家族にかすかな違和感を抱く花、そしてその違和感の元となるゆがみを捉え、鍵を握る花の家族に近づく少年・四井純――。
窪花を演じるのは、映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018年)の演技で高い評価を得、『ドラゴン桜』(2021年:TBS)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人」(2022年:NHK)など話題作でも注目される南沙良。四井純を演じるのは、現在放送中のドラマ『彼女、お借りします』(朝日放送テレビ・テレビ朝日)にも主演中の人気グループ「なにわ男子」の大西流星。ホラーのような深い家族愛を繊細に演じた新進気鋭の2人に話を聞いた。
「個人的に“似ている”と感じた部分を引き出しながらお芝居しました」
―恋愛、心理的ホラー、家族ドラマなどさまざまな要素がある分、演じる加減が難しい作品だったのではないかと思います。特に花は、1人だけ軽症で済んだにも関わらず、自分が遊園地に行きたいとねだったために、家族が事故に遭ったと悔やみ続けています。窪花役にはどんな印象を持ちましたか?
南:花は、心に傷を負っている女の子なので難しい部分はありました。その反面、自分と似ている部分もあったので、その部分を手がかりにしながら頑張りました。
―似ていると感じたのはどんなどころですか?
南:いろいろな感情を抱え込んでしまうところというか、さまざまなことを自分の中で処理しようとするところが、個人的には似ているなと感じました。そういう部分を引き出しながらお芝居したという感じです。
―大西さんはいかがですか? ドラマ『彼女、お借りします』では冴えない大学生という意外な役を演じていますが、これまでは総じてポップな作品が多い印象です。
大西:そうですね。僕の演じた四井純は、名前にも「純」がつくくらい純粋で探究心の強い高校生。彼みたいな役は初挑戦でした。年齢よりも大人っぽく見えて、正義感も強く、思い立ったら即行動するし、行動に嘘がないというか、隠しごとができない。本当に人間として、一人の男の子として、すごく自立していて、尊敬できる部分もたくさんありました。
―似ているところはありましたか?
大西:あまりない、かな(笑)。強いて挙げると、家族のことが大好きなところですね(笑)。母の奇病の原因を探る中で、思い立ったらすぐ行動する度胸は生半可じゃないなと思いますし、それによってちょっと怖い世界に足を踏み入れたりしてしまいますが、本気でお母さんを助けたいからこその行動力。お母さんへの愛が原動力になっているんだなと感じました。
「もし悩みごとがあったら、楽しいことで悩みを上書きするタイプ」
―謎を解明しようと純が花に近づいたことで、それぞれ止まっていた2人の時間は動き出します。花と純同様、初めてお会いしたときの第一印象はいかがでしたか?
南:撮影中、大西さんとあまりお話しする機会はありませんでしたが、真面目な方なのかなという印象です。
大西:(いやいや、と首を振りながら)南さんの印象は、すごく多忙なはずなのに、疲れを見せずにいつもめちゃくちゃ笑顔な人。でもお芝居になったら、花としての空気感をしっかり切り替えて出す。すごく上手な方だなと思いました。
―花と純は、人には言い難い秘密を抱えています。ある時点でそれを相談したことで、事態は核心へと近づいていきます。そんなふうに悩みを持っている時、お二人ならどうしますか?
南:私は、基本的に相談はしないですね。自分で解決できるのならそうしたいし、巻き込んでしまいたくないなという気持ちがあるので。
大西:僕は、普段はなにわ男子として仕事をしていますが、メンバー個人の思いもありますし、メンバーにはそこまで相談はしないですね。もしちょっとやっかいな感じの悩みごとがあったとしたら……、仲のいい友だちに電話します。でも、それはめちゃくちゃ話して悩みを解決するとかではなく、悩みも話しますが、むしろ悩んでいたことを忘れるくらい楽しいことをするため。楽しいことで悩みを上書きするという感じです。だいたいは、いつの間にかその男友だちの悩みや恋バナを聞かされてます(笑)。
―アドバイスよりも、自分が前向きな気持ちになるほうが効果的ということですね?
大西:そこまで的確なアドバイスではなく、「大丈夫っしょ!」「イケる、イケる」くらいなのが、意外と「そっか」となって僕の場合は効果的なんです。チョロい人なので(笑)。第三者の客観的な目で見えたことを、カジュアルな感じで教えてくれるのはありがたいですね。
南:たまに人の意見が欲しいと思うときは、例えば母に「どう思う?」というふうに聞いたりすることはありますね。
「クランクアップの2日後が、なにわ男子のデビュー発表だったんです!」
―お二人ともいろいろな映像作品やお芝居の現場を経験されていますが、今回トライしてみたこと、逆にやってみたけれどうまくいかなかったことなどはありますか?
南:こういったジャンルの映画に出させていただくこと自体初めてでしたので、お芝居のやりとりなどとても新鮮でした。「トライしてみたこと」ではありませんが、そこは楽しかったです。
大西:僕はメンバーと離れて、単独で映画に出ること自体がまず初トライでした。内容的なことでは、スケジュールの都合もあって撮影がストーリー順ではなかったので、気持ちの流れを台本に書き込んだり、毎回しっかり落とし込みながらお芝居することに挑戦しました。台本に書き込んだのは、ここではどのくらいの気持ちなのか? とか、この前にこんなことがあって……みたいな出来事で、迷っても台本を見ればすぐ分かるようにしてみました。
―「スケジュールの都合」とおっしゃいましたが、撮影当時は大西さんもとても忙しい最中でしたよね?
大西:はい。実はクランクアップの2日後が、デビュー発表だったんです!
―関西ジャニーズJr.として初の全国アリーナツアーを行っている最中、なにわの日(7月28日)にサプライズ発表されましたね。
大西:はい。だから、これは関西ジャニーズJr.として最後の作品なんです。ターニングポイントとなる節目で、すごい作品に出会えたことに感謝しています。ライブのリハーサルと映画の撮影が並行してあったんですが、「つらい」なんて気持ちは全然なくて、純の気持ちをライブに持ち込むことなく、しっかり分けて仕事ができたことは1つの自信になりました。それはたぶん映画のキャストさん、スタッフさんが、素晴らしい世界観を作ってくださっていたおかげ。その世界に身を委ねて、お芝居させていただけたからだと思います。
「つらいことがあった時は、その部分の記憶だけ消すようにしています(笑)」
―作品中、心理療法士の窪司朗は治療に退行催眠を用いますが、目の当たりにしていかがでしたか?
南:今まであまり触れたことがなかったので、そこまで興味があるわけではないんですけど(笑)、こういうこともあるのかと思いながらも、人の心が簡単に操れるのはちょっと怖いかもしれませんね。
大西:眠くなる催眠術なんかは、昔からあまり信じていないんですが(笑)、この映画を通して、お芝居ですけどちょっとリアルに経験することができて楽しかったです。退行催眠はいい効果をあげる療法ですが、間違った使い方をすれば逆に人の人生を左右することもあり得る。とてもセンシティブなところや分からない世界すぎることが、却って面白いなと思いました。
―お二人は自分の気持ちが沈んでしまった時、どんなふうに盛り立てるんですか?
南:私は嫌なことやつらいことがあった時は、その部分の記憶だけ消すようにしています(笑)。夜眠る時とか、どうしても考えちゃうので、それを断ち切るというか。
大西:すごい能力! 僕はどうやろな……。『この子は邪悪』の時の髪色は地毛の黒でしたが、最近は役柄上、金髪や赤茶とかに髪を染めることが多くてめちゃくちゃ心配だったんですよ。「あー、似合わない。早く黒に染めたい」って。でもみんなが「いいやん、いいやん」って言ってくれるので、「似合ってるんだ!」と自分の気持ちにしっかり落とし込みました。でもやっぱり耐えられなくて、その作品がクランクアップした翌日の朝一番に美容院を予約して黒に染めました。自己催眠が解けたのかもしれません(笑)。
「ファンのみなさんと創り上げるコンサートは格別」
―本作を観ていると、人はそれぞれ幸せの形が異なることを実感します。お二人の場合、普段幸せだと感じることはなんですか?
大西:シュールな幸せですよね。怖っ! て思うくらい。
南:幸せだと感じるのは、私はアニメを見ているときです。休みの日などはよく見ていますが、そういう時間ですかね(笑)。アニメは大好きなので、コミケやアニメのイベントにも行っています!
大西:意外! 僕は、なんかめちゃくちゃアイドル優等生な答えですけど、それが本職だからというか、コンサートですかね。もちろんお芝居も好きだけど、ファンのみなさんと創り上げるコンサートは格別です。バラエティなどいろいろなお仕事をさせていただいていることが、結局コンサートに返っていくというか。
僕は、10歳の時にSexy Zoneさんのコンサートを見て、佐藤勝利くんに憧れてジャニーズ事務所に入所したので、コンサートはすべてのきっかけなんです。ファンの方と直接会話できたり、歌や踊りを通じてコミュニケーションが取れる、その空間が好き。新型コロナウイルスの影響でコンサートができなかった間は、以前のコンサートの映像やYouTubeに上がっている映像を見ながら、その空気感を味わったりしていました。
―なるほど。どんなきっかけで女優さんになったのか、南さんにもお聞きしていいですか?
南:小さい頃からずっと女優になりたい、自分じゃない誰か違う人になりたいと思っていました。それを周りに繰り返し言っていたら叔父が雑誌のオーディションを見つけてきてくれて、それを受けたのが始まりです。女優デビュー作『幼な子われらに生まれ』(2017年)の時に三島有紀子監督からいただいた「お芝居をしようとしないで。相手からもらったものに対して、役を通して思ったことや、感じたことをぶつけなさい」という言葉は、今でも大切にしています。
「先の展開を予想しながら観るのもすごく楽しい作品」
―素のお二人はとてもキラキラしていますが、こうして演出家や映画ファンを惹きつける“闇”を演じることもできる。たくさん引き出しをお持ちなことに驚嘆しました。
大西:今回はキラキラ、隠すように頑張りました(笑)。ギャップがありすぎて、帰りの車の中で「あ、自分ってどっちやっけ?」みたいに分からなくなることすらありました。でもそこまで引きずるわけでなく、いい具合で新しい自分を体験できたのはプラスだったと思います。
南:引き出しというよりも、大切にしていることはあまり深く考えず、現場の雰囲気を大切にしてお芝居に向き合うようにしています。
―そんな二人が演じた花と純だからこそ、心理的に厚みのある、予想のつかないキャラクターになったのだと思います。この映画がどんなふうに終わるのか、途中で予想するのをやめようと思うぐらいに(笑)。
大西:本当にひと言で表すのが難しい世界観で、僕もこれまで観たことのないタイプの作品だったので、いち観客としても楽しみました。寄せたり引いたり、波のような映画で、一瞬も目をそらすことができない。愛や家族を思う気持ちがテーマですが、観終わった後は「そこにはいろいろな形があるんだな」と気づいてもらえればいいのかなと。ぜひいろいろな方に見ていただきたいと思います。
南:予想、裏切られますよね。でも個人的には、先の展開を予想しながら観るのもすごく楽しい作品だと思うんです。何回でも観ていただき、家族や愛の形についても感じていただきたけると嬉しいです。
取材・文:関口裕子
撮影:落合由夏
『この子は邪悪』は2022年9月1日(木)より全国公開
『この子は邪悪』
かつて一家で交通事故に遭い、心に傷を負った少女・窪花。心理療法室を営む父・司朗は脚に障害が残り、母・繭子は植物状態に、妹・月は顔に火傷を負った。そんな花のもとに、自分の母の奇病の原因を探る少年・四井純が訪れる。やがて花は純と心を通わせていくが、ある日突然、司朗が5年ぶりに目を覚ました繭子を連れて家に帰って来る。司朗は“奇跡が起きた”と久々の家族団らんを喜ぶが、花は“あの人はお母さんじゃない”と違和感を覚える。その時、街では謎の奇病が広がっていた…。
監督・脚本:片岡翔
出演:南沙良
大西流星 桜井ユキ
渡辺さくら 桜木梨奈 稲川実代子 二ノ宮隆太郎
玉木宏
制作年: | 2022 |
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2022年9月1日(木)より全国公開