ジャン=ポール・ベルモンドを映画史的に語るとしたら、ジャン・リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1960年)や『気狂いピエロ』(1965年)を無視するわけにはいかないのだろう。しかし、四捨五入すれば70歳になってしまう私がベルモンドの名前を初めて認識したのは60年代の『ダンケルク』(1964年)や『パリは燃えているか』(1966年)といった戦争映画の出演者としてであり、当時からそれなりに戦争映画を見せてもらっていた私でも、その二作は劇場では見ていなかった。ましてヌーベルバーグなんて全く知らなかった。
ベルモンドのスタントに見惚れる『華麗なる大泥棒』
初めてベルモンドをスクリーンで見たのは、1971年公開の『華麗なる大泥棒』(1971年)だったと思う。当時中学生だった筆者は映画雑誌を愛読していて、ベルモンドのことはひたすら活字で知識を深めていた。だからアクションを前面に押し出した『華麗なる大泥棒』は公開を心待ちにしていた。同じアンリ・ヴェルヌイユ監督の『シシリアン』(1969年)は既に見ており、伝統的なイタリアン・マフィアの世界とハイジャックを取り入れた当時としては斬新な泥棒映画だったので『華麗なる大泥棒』に対する期待も大きかった。
金庫破りというと繊細な感覚が必要な職業であり、ベルモンドのキャラクターとは一致しないように思うが、映画を見ればその心配は吹っ飛ぶ。主人公はまるで『007』シリーズのQが開発したようなハイテク金庫破りマシーンを持っていて、ほとんどそれにお任せなのだ。そして主人公が本当に得意なのはアクション、それも軽業的なアクションであり、もちろんベルモンド自身がかなりの部分を演じている。とりわけ後半の警察から逃れて走るバスの外側にしがみついたり、砂利山の上から転がり落ちたりという得意技の連打が楽しい。
前半のオマー・シャリフ演じる悪徳刑事とのかなり長いカーチェイスは流石にベルモンドではなく、スタントドライバーがやっている。担当したのは『ミニミニ大作戦』(1969年)や『007/美しき獲物たち』(1985年)、日本のいすゞ・ジェミニのCMで知られるレミー・ジュリアンのスタントチームだ。車が階段を降りて地下道を走るといったスタントは、今の目で見ても十分に驚かされる。
どう見ても「ルパン」なベルモンド
それにしてもこの映画、どうしても我々日本人には『ルパン三世』を思い出させる。ルパンの原型の一人はベルモンドだとよく言われる。しかしそれだけでなく、終始黒っぽいスーツとコートにソフト帽のロベール・オッセンはまるで次元大介のようだし、ベルモンドを翻弄する若いニコール・カルファンと謎のアメリカ人女性ダイアン・キャノンは峰不二子的な要素を持ち、トレンチコートにソフトをかぶった悪徳刑事のオマー・シャリフは銭形的執念深さを見せる。
A few more from LE CASSE (1971), which features Omar Sharif, a terrific score by Ennio Morricone, and one of the most edge-of-your-seat car chases (with a dash of humor) on film.
— Museum of the Moving Image (@MovingImageNYC) September 6, 2021
Watch the opening: https://t.co/ZQkk2ol5Ru https://t.co/h0iltEjyyU pic.twitter.com/n2SKAct13M
ところがこの映画は日本もフランスも1971年の公開で、『ルパン三世』の最初のTVシリーズと同じ年だ。だからお互いに参考にすることは不可能。同じ頃に似たようなものが出来上がったと考えるのが最も妥当だろう。この頃は特定の役柄の基準となるスタイルの幅がまだ狭かったとも言える。
『オー!』が後の「ルパン」に影響を与えた?
しかし1969年日本公開の『オー!』は、アニメの『ルパン三世』に若干影響を与えているかもしれない。主人公はレーサーだが事故でライセンスを失いチンピラに成り下がるも、いずれ大物になる夢を抱く。前半ではレースが描かれるが『ルパン三世』の第一話もF1レース絡みだった。
恋人役のジョアンナ・シムカスはシアタ・スプリング850というクラシックカータイプの車に乗っているし、投獄されたオーは小説のアルセーヌ・ルパンのように変装を駆使して脱獄を図る。これらのイメージは、その後制作された『ルパン三世』の見た目にある程度影響を与えている可能性はあると思う。
『リオの男』の元ネタは「タンタンの冒険」!?
『華麗なる大泥棒』の軽業スタントの原点は、やはり1964年日本公開の『リオの男』だろう。ブラジルの古代美術絡みで誘拐された恋人を追ってフランスからリオに向かい、あらゆる手段で彼女を救出しようとする休暇中の空軍兵士をベルモンドが演じる。
あらためて見ると、この作品のフットワークの軽さには驚くばかりだ。彼女が飛行機で海外に連れ去られたと知るや、他人の航空券を奪ってなりすましで旅客機に搭乗するなど明らかに犯罪行為だけれど、そんなことを気にする感覚は一切ない。一見『勝手にしやがれ』の無軌道なチンピラと同じように見えるが、更にそれよりも純粋な、まるで行動するための機械のようなキャラクターなのだ。
それでも、あの人懐っこい表情と仕草があるから機械といってもロボット的に無機質になるような心配はない。要するに漫画のキャラクターのような行動力なのだが、この映画の元ネタがベルギーの人気コミック「タンタンの冒険」だというから当然なのかも知れない。
Adiós a Jean Paul Belmondo (9 abril 1933-6 sept 2021), el hombre que casi fue #Tintín.
— Harrock & Roll (@HarrocknRoll) September 6, 2021
RIP Jean Paul Belmondo maybe the best #Tintin seen on the big screen.
"L'Homme de Rio" ('That Man From Rio'), directed by Philippe de Broca in 1964. pic.twitter.com/hmG92mfUmN
ベルモンドといえば山田康雄
この『リオの男』が日本語吹き替えでTV放映されたのは1973年で、ベルモンドをあてたのは山田康雄だった。我々がルパン三世のモデルをベルモンドと考えやすいのは声優が同じということもあると思うが、実はルパン的なベルモンド映画が山田康雄の吹き替えで放映されるのは、最初の『ルパン三世』が放送された後だったのだ。
ベルモンドは『リオの男』のブロカ監督と6本の映画で組んでいる。1973年の『おかしなおかしな大冒険』はスパイ・アクション小説作家の妄想と現実が交錯する、ちょっと毛色の変わった作品。ベルモンドは作家と彼が書く小説の主人公であるスーパースパイの両方を演じていて、『007』シリーズのパロディ的な派手なアクションを演じサブマシンガンを乱射したりモーゼル・ミリタリーで敵を狙撃する。
初期のベルモンドのアクション映画はあまり銃を使わなかったが、アメリカの『ダーティハリー』(1971年)の大ヒットなどもあって、この頃は世界的にアクション映画での銃撃シーンが目立つようになっていた。
元ヤクザ監督による銃撃戦に注目!『ラ・スクムーン』
ベルモンドのガンファイトといえば、忘れられないのは『おかしなおかしな大冒険』の前年に公開された、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の『ラ・スクムーン』(1972年)だろう。この映画はジョヴァンニ監督が書いた小説をベルモンド主演で映画化した『勝負(かた)をつけろ』(1961年)を再映画化したもの。ジョヴァンニは他人の演出が気に入らないようで、自ら監督までするようになった。
本作でマルセイユの暗黒街で勢力を拡大していくヤクザ者に扮したベルモンドは、中折式のウェブリーMk.IVリボルバーの二丁拳銃で派手な立ち回りを見せる。これは最近の映画で見られるプロ・シューター的な技ではなく、ヤクザ同士の命のやり取りの雰囲気が濃厚な泥臭い銃撃戦で、ちゃんと弾切れするし、その補給のタイミングが緊張感を醸し出す。さすが元ヤクザのジョヴァンニ監督らしいアクションシーンだ。
これ以降、70年代のベルモンドは主にリボルバーを使ったガンアクションを得意とするようになるが、現実的なコンバットシューティング・スタイルに傾倒するようなことはなく、あくまでもスタントアクションの延長的なスタイルを崩すことはなかった。身体を動かすことそのものが彼のアクションの基本だったのだ。
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文:青井邦夫
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CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:黄金のベスト・ムービー ジャン=ポール・ベルモンド」は2022年9月放送