三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE(以下、三代目JSB)のツインヴォーカル今市隆二が、2022年6月から2年ぶりに全国を回る待望のソロツアー「RYUJI IMAICHI CONCEPT LIVE 2022 “RILY’S NIGHT”」をスタートさせた。
ツアー開催に先がけてデジタルリリースされたシングル第1弾「辛」(5月13日リリース)が提示する音楽的ルーツの深化が、アーティスト今市隆二の存在感をより一層強固に際立たせている。では、彼の存在感と魅力をダイレクトに伝える映像作品に目を向けるとどうだろう?
ということで今回は、今市唯一の主演映画作品を取り上げつつ、そこから浮かび上がる“唯一無二の音像”に迫る。
ワン・アンド・オンリーな存在感
今市隆二は、画になる人だ。開催中のソロツアーで全国各地を回る彼の、Instagramのストーリーに目を通してみる。客席の観客をバックにした一枚でも、パネルを背景にしたワンショットでも、今市隆二の存在感が不思議と浮き上がってくる。それは孤高で、絶対的な、ワン・アンド・オンリーな存在感である。
特に驚いたのは、京都公演の合間に撮られた投稿。白の甚平を着て路地に立ち、やや煽りのアングルのカメラを涼やかな視線でみつめる。「#夏男」のハッシュタグが示すように、特に猛暑日が続く今年の夏は、この投稿から涼を取ることができた。
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あるいは、「RILY’S RUNNIG」と題されたTikTok動画。田園風景が広がる三重県市内の歩道をただただ走っているだけのショートムービーだが、鍛え上げられた上半身を露にし、汗粒が滲む背中が映る――今市の涼やかな佇まいに、思わずカメラが寄っていたのが印象的だった。
希少度が高い今市主演作品
映像的なイメージの中で稀有の存在感を披露している今市だが、彼が主演した映画作品が『その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project-』(2019年)の一篇、『On The Way』しかないというのが信じられない。それこそ、この一作が放つ孤高の輝き自体がワン・アンド・オンリーで、象徴的である。同じく三代目JSBのツインヴォーカル登坂広臣も映画主演作品は多くないが、筆者が「登坂トリロジー」と名付ける三作品(『ホットロード』[2014年]『HiGH&LOW THE RED RAIN』[2016年]『雪の華』[2018年])よりも、今市主演作品はさらに希少度が高いということになる。
『CINEMA FIGHTERS project』は、LDHには欠かせない作詞家・小竹正人の歌詞世界を映像で表現するもの。同作の公開は、今市がソロ・プロジェクトを始動し、24万人を動員した初のソロツアー「RYUJI IMAICHI LIVE TOUR 2018 “LIGHT>DARKNESS”」を成功させた直後の時期にあたる。小竹作詞による主題歌「Church by the sea」を歌唱し、主演した今市。ソロ活動が起動に乗り、また誰よりも歌詞を読み込むことに意識的な彼には、またとない機会と挑戦であったはずだ。
映画初出演&主演にして、まぎれもない映画的瞬間を生きた今市
だが、本作は冒頭場面から肩透かしを食うことになる。当然のことながら、唯一無二の輝きに満ちた今市を期待していた。それなのに、母親の代わりに移民を支援するためにメキシコにやってきた主人公・健太の態度はふてぶてしく、とても魅力的な人物とは言いがたかったからだ。とはいえ今のところ唯一の主演作品であり、希少価値が高く、純度も高い作品なのだから、少し辛抱して続きを観てみた。
すると、健太がアメリカとの国境を目指す列車めがけて食べ物が詰め込まれたビニール袋を投げるために線路際に近づく瞬間、明らかに何かが動き始めるのが分かる。物語上のターニングポイントであるこの場面で、それまで冷めていた主人公のエモーションが喚起される。無関心だったメキシコに対して、わずかに興味を持った瞬間でもある。本作がなぜメキシコで撮影されなければならなかったのか、その意味も分かってくる。これは遠い異国であるメキシコの地で、ほぼ演技経験がなかった今市から生々しい表情を引き出す実践的なアプローチだったのだろう。
健太が列車に袋を投げ入れる時、もうそれは今市自身が体験するドキュメンタリーのようである。列車が目の前を猛スピードで走り、彼の髪を靡かせ、興奮の表情をのぞかせる瞬間をカメラは捉える。遠ざかろうとする列車に最後の一袋を思い切り投球する姿は、主人公のエモーションと俳優の気持ちが一致したようで感動的に映る。もはやフィクションなのか、ドキュメンタリーなのか定かではない。とにかく、映画初出演・初主演にして、紛れもない映画的瞬間を生きた今市が、そこにはいたと思う。
俳優としての今市の姿がエンドロールに焼き付く
列車から降りてきたメキシコ人を見て、健太はやけに率先的になる。彼らを国境近くまで車で乗せて行こう、と提案するのだ。最初は渋る現地の運転手だったが、健太の勢いに気圧される。メキシコからアメリカまでの一本道が俯瞰で捉えられ、助手席に乗る健太が、髪を上で結ぶ姿がこれまた生々しく背景の車窓風景に浮き上がる。「ありがとう」と言う運転手の一言に対して、はじめて健太が笑顔をこぼしたのも清々しいショットだった。松永大司監督が紡ぐこの一連の流れが、俳優としての今市の魅力をつぶさに拾い上げている。
ところが健太の一案虚しく、武装した男に銃を突きつけられ、結んだ髪はあっという間にだらりと下ろされてしまう。直後に彼は理不尽な銃声を聞くことにもなる。ワゴン車の中には、妻と娘を想うメキシコ人の手帳が残されていた。それを読んだ健太は夕日に照らされながら涙する。彼の潤みきった瞳が物語るものとは……。
「この想いのすべてを 言葉で伝えたい でもどんな言葉がいいのか まるでわからない」と、平易な言葉によって紡がれた小竹の歌詞は、サビで「I sing this song just only for you」と韻が踏まれる。「just only」を繰り返し諳んじると、俳優としての今市の姿がエンドロールに焼き付くような気がする。彼にとっても、「for you」であるリスナーにとっても、かけがえのない響きを持ったのが、この主題歌「Church by the sea」だった。
“唯一無二の音像”世界
SNSでのフォトジェニックなイメージや、唯一の主演映画作品に刻まれた孤高の存在感。そして、かけがえのない響きを持った主題歌「Church by the sea」が浮かび上がらせたものとはなんだろう?
ソロデビュー前の今市が、三代目JSBの他メンバー全員が出演する『HiGH&LOW』シリーズに俳優としては参加せず、あくまで裏方に回っていた潔さも見逃せなかった。今市は、『ROAD TO HiGH&LOW』(2016年)で主題歌「FOREVER YOUNG AT HEART」(作詞は小竹正人)を担当し、この名バラードの歌唱によってメンバーへのエールを込めた。この時も、やはり今市の存在が音像として画面の外にせり出してきていたように思う。
今市がリスナー(あるいは観客)に感じさせる音像は、いま日本の音楽シーンで得がたいものを提示している。ボーイズⅡメンやブライアン・マックナイトなどの90sR&Bを音楽的ルーツとするオールドスクール感は、どこか懐かしくもあり、リスナーの心を甘やかに揺さぶる。それでいて、Chaki Zuluをプロデューサーに据えた「辛」には、現行トレンドであるシティポップを志向しながら、R&Bフレイバーを現在の日本の音楽シーンにいかにアダプトさせるかという苦心の跡を感じる。
孤高のソウルシンガーである今市隆二が、映像・音楽作品を通じて浮かび上がらせるのは、言うまでもなく“唯一無二の音像”世界である。
文:加賀谷健
『その瞬間、僕は泣きたくなった-CINEMA FIGHTERS project-』はAmazonプライムほか配信中
今市隆二ソロツアー「RYUJI IMAICHI CONCEPT LIVE 2022 “RILY’S NIGHT”」は全国各都市で開催中
https://www.youtube.com/watch?v=CgP5mnI9KnA