ケイジの怪・傑作、ついに日本公開
唯一無二のオーラで規模を問わず無数の映画に出演しているニコラス・ケイジ。節操のない作品選びのせいで「最近のニコケイはどうも……」と思っている人にこそ観てほしいのが、新宿シネマカリテで開催<カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2022>で上映中の『PIG/ピッグ』だ。
ケイジが演じるのは、米オレゴン州の森の奥でトリュフハンターとしてブタと暮らす孤独な男、ロブ。ある日、何者かによって愛するブタが誘拐されてしまい、ロブは唯一の家族を奪還すべく、ビジネスパートナーの若者と共に市街地に出て黒幕の手掛かりを探す。しかし、ブタの行方を辿る過程で自身の壮絶な過去と向き合うことになり……。
ケイジ×アレックス・ウルフのバディサスペンス
本作の舞台であるオレゴン州ポートランドにはコダワリのコーヒーロースターやブリュワリーが多く、最近ではワイナリーも増えているようだ。もちろん地産地消のオーガニックな食材を使用したレストラン、ヴィーガン対応のフードカートもダウンタウンだけでなく街の至るところに点在していて、意識の高いフードカルチャーによってここ十数年で急発展してきた街である。
ゆえに地価の高騰に伴うホームレスの増加、ジェントリフィケーション問題も深刻になっていて、本作はそういった背景も(さりげなく)取り込んでもいるのがすごい。15年ぶりに外界に降りてきたロブの(予想外の!)過去、文字通りのアンダーグラウンドビジネス、華やかな食文化の裏にある闇……。快作ホラー・コメディ『ウィリーズ・ワンダーランド』(2020年)に引き続き抑えまくった演技のケイジが、ヒップなカルチャーのドロドロな真実を暴き出していく。
ロブのビジネスパートナーのアミールを演じるのは、『ヘレディタリー/継承』(2018年)や『オールド』(2021年)でおなじみのアレックス・ウルフ。倍も歳の離れたケイジとウルフが演じる2人は何から何まで相容れないが、ロブのムチャに付き合ううちに不思議な絆が生まれ、アミール自身も知らなかったごく親しい人間の関与も浮上してくる。豚の窃盗犯自体はあっけなく判明するものの、中盤以降の展開はかなり緊張感が増してきて、些細なセリフひとつ、さりげないカットの一つも見逃せなくなる。
近年トップクラスの名演を見せる寡黙なケイジ
グチャドロの汚いケイジが風呂に入ってサッパリ! さあ過去を明かして悪党に復讐だ!! みたいなわかりやすいカタルシスはなく、序盤はイヤイヤなアレックス・ウルフとのやり取りはバディコメディのようでもあり、ほとんどの観客が終始翻弄されながら鑑賞することになるだろう。最後には全てスッキリ! というわけにもいかない怪作だが、近ケイジ作品では間違いなくトップクラスの演技を見せているし、お話自体は小難しいものではないので誰にでもおすすめできるタイプの映画だったりする。
改めてポートランドに行きたくなったりはしないものの、野菜も肉も酒もうまくて住民たちも気さくな、あの魅力的な街を舞台にする意義がはっきりとある映画はそう多くない。ちなみに、開始早々に血と泥で汚れてしまう衣装のことが気になりすぎる人もいるかと思うので先に言っておくと、ケイジ、最後まで着替えません。
ともあれ2020年製作の本作、日本公開を諦めていたファンも多いと思うが、この貴重な機会に寡黙なケイジの名演をスクリーンで目に焼き付けよう。
『PIG/ピッグ』は新宿シネマカリテで開催中<カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2022>で2022年7月15日(金)より上映中
『PIG/ピッグ』
オレゴン州の森の奥でトリュフハンターとしてブタと暮らす孤独な男、ロブ。ある日ブタが何者かに強奪される。愛するブタを奪還すべく、ビジネスパートナーの男とポートランドの街に降り、手掛かりを探す。ブタの行方を辿る過程で、ロブは自身の壮絶な過去と向き合うことになる。
監督:マイケル・サルノスキ
脚本:マイケル・サルノスキ ヴァネッサ・ブロック
出演:ニコラス・ケイジ アレックス・ウルフ
アダム・アーキン
制作年: | 2020 |
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新宿シネマカリテで開催中<カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2022>で2022年7月15日(金)より上映中