ステイサムの魅力が爆発
『トランスポーター』(2002年)のスマッシュヒットから20年。今もなおアクション映画界で圧倒的な存在感を放つ男、ジェイソン・ステイサム。CS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年7月放送の『メカニック』(2011年)では、チャールズ・ブロンソン主演の1972年作品のリメイクに挑み、現代的にアップデートされた凄腕の殺し屋=“メカニック”像を作り上げた。
そしてブロンソン版では実現不可能だった続編『メカニック:ワールドミッション』(2016年)も製作され、主人公アーサー・ビショップのキャラクターを完全に自らのものとした。
ブロンソン主演作をステイサム色に染め上げたキリング・アクションの秀作
『メカニック』シリーズは一騎当千のステイサム無双だけでなく、入念な下調べと緻密な計画でターゲットを事故に見せかけて殺す過程が細かく描かれているのが大きな特徴である。「プールで溺死」「薬物中毒死」「獄死」「天空プール転落死」など、“周到な準備が勝利を招く”という劇中で登場するフレーズに裏打ちされた職人芸の殺し技が次々と披露される。
そして人間ドラマも見逃せない。第1作ではビショップが恩師を自ら手に掛ける事態に陥り、その後、彼の粗暴な息子スティーブ(ベン・フォスター)を弟子に雇うという危険な師弟関係が物語に緊張感を生む。
一方、第2作ではワケあり人道主義活動家ジーナ(ジェシカ・アルバ)とのロマンスが描かれ、音楽の趣味もシューベルトのピアノ三重奏曲からブラック・ピストル・ファイヤーのロックを聴くようになるなど、ビショップの内面にも変化が現れている。「ぶっきらぼうで無表情、しかし人間味のあるタフな男」というステイサムの魅力が楽しめるシリーズと言えるだろう。
ちなみに『デッドプール2』(2018年)のデヴィッド・リーチと、『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)のチャド・スタエルスキの両監督が、それぞれ殺し屋セバスチャン役とカルト宗教家ヴォーンのボディガード役で出演しているので、こちらも要チェック。
アカデミー賞ノミネート作曲家によるソリッドな音楽
リメイク版『メカニック』のスコア作曲を手掛けたのは、『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)でアカデミー作曲賞にノミネートされたマーク・アイシャム。ヒューマンドラマ作品のイメージが強い作曲家だが、『ハートブルー』(1991年)、『タイムコップ』(1994年)、『ブレイド』(1998年)などアクション作品の音楽にも定評がある。アイシャムは『バトルフロント』(2013年)と『メカニック:ワールドミッション』でステイサム主演作の音楽を3回担当している。
アイシャムは第1作のサイモン・ウエスト監督から「フックのあるテーマ曲」「モダンなエレクトロニック・サウンド」「エモーショナルなオーケストラ」の3つをリクエストされたという。そこで彼はギターサウンドのコラージュに重厚なストリングス、『ヒッチャー』(1986年)や『ミスト』(2007年)でも聴かれた激しいリズムと電子音を駆使した、ハイブリッドでソリッドな音楽を完成させた。エレクトリックギターで奏でられる危険な雰囲気のテーマ曲と、「オーケストラ+電子音」というサウンドの方向性は、監督がデニス・ガンゼルに交代した続編にも継承されている。
『ワールドミッション』のレコーディングに参加したミュージシャンに独占インタビュー
『メカニック:ワールドミッション』では、筆者と数年来の交流がある作曲家/ギタリストのブライス・ジェイコブスが追加音楽の作曲とギター演奏を担当しているので、アイシャムとの仕事の感想やテーマ曲のコンセプトなど、今回のBANGER!!!コラムのために少し話を聞かせてもらった。
―『メカニック:ワールドミッション』のレコーディングにはどのような経緯で参加したのでしょうか?
マークとは何年も前からの知り合いなんだ。僕はオーケストラとエレクトロニカの折衷的な音楽を作る時に、ちょっと特殊なギター演奏をするんだけど、それが彼の目に留まったらしい。マークは『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)での僕の仕事が特に気に入っているみたいだよ。
―追加音楽(Additional Music)の作曲とはどういったものなのでしょう?
マークの『メカニック』のスコアは、メインテーマとその周辺の曲でギターに焦点が当てられている。彼は続編でこのテーマ曲を、いかに創造的かつ音響的に発展させることが出来るかを探求していた。追加音楽作曲家としての僕の役割は、彼のテーマに沿ったキューの作成と演奏、制作、そして彼自身が書いた特定のキューのレコーディングを仕上げるといったものだった。
―『メカニック』のメインテーマはギターの音がとても印象的ですね。
マークが作曲したテーマ曲には「ジェームズ・ボンドのテーマ」への目配せみたいなものがあるよね。でもジェイソンのキャラクターはもっと粗削りで、手段を選ばない乱暴なスパイのイメージだ。だから続編ではテーマ曲をもう少しガレージロックのような方向に近づけてみた。そしてシンセサイザーの音を引き立たせて、オーケストラに磨きをかけるために、質感のあるサウンドを多く取り入れたんだ。例えば、ペダルスティールのような音処理をしたシンセに対して、エッジの効いたロックギターの音をぶつけてみたりね。
―あなたはハンス・ジマーやジェフ・ザネリ、ダニー・エルフマンなど錚々たる作曲家と仕事をしています。最近『ファイナル・プラン』(2020年)で再びアイシャムと仕事していましたが、彼との共同作業はいかがでしたか?
彼らは作曲家としても、ひとりの人間としても全くタイプの異なる人たちで、それは映画音楽に対するアプローチの仕方についても言えることなんだ。マークは自分のサウンドの独自性を維持することに認知的であると同時に、様々なアイデアをオープンに受け入れてくれる。同じ作曲家としてすごく励まされるし、彼との仕事はいつも楽しいよ。
▼ブライス・ジェイコブス
オーストラリア出身の作曲家/ギタリスト/音楽プロデューサー。『ラッシュ/プライドと友情』、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015年)、『プーと大人になった僕』(2018年)などで追加音楽の作曲やギター演奏を手掛ける。彼自身の代表作には『バッド・ガンズ』(2012年)や『ドライブ・ハード』(2014年)などがある。
文:森本康治
『メカニック』『メカニック:ワールドミッション』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年7月放送