ニコラス・ケイジのクレイジーさが爆発してる映画5選
『オレの獲物はビンラディン』(2016年)
まずは近年の作品から一本。本作は、アメリカ同時多発テロ事件の首謀者とされた、かのオサマ・ビンラディン生け捕りを、たったひとりで企てたアメリカ人男性ゲイリー・フォークナーの実話を基にした作品。というわけで、ゲイリー・フォークナーその人をニコラス・ケイジが演じているのですが、もはや全編ニコラス・ケイジのひとりコント。
すごいのはそのなりきり具合で、本来声がこもって低めの声のニコラス・ケイジですが、わざわざ全編にわたり甲高い声で押し通すという無茶苦茶な演技プラン。しかもただ喋るのではなく、普通の人の5倍ぐらいおしゃべり。なぜか日本刀をぶら下げてパキスタンの街中を「オサマはいねが~」と、なまはげチックにウロウロしている様は目が離せません。盲目的な愛国心を笑う作品でありながら、どこかチャーミングなゲイリーに肩入れもしてしまうという一筋縄ではいかない作品になってます。
『バッド・ルーテナント』(2009年)
https://www.youtube.com/watch?v=ytfa0j6EurM
『アギーレ/神の怒り』や、『フィッツカラルド』などで知られるクレイジーな映画監督ヴェルナー・ヘルツォークとのタッグ。舞台は2005年にアメリカを襲ったハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズ。ハリケーンで街の8割が水没し、治安も当然悪化。そこで起きた一家惨殺事件を追うのがニコラス・ケイジ扮するマクドノー警部補。
しかしこのマクドノー、刑事としての腕はピカイチなのに、捜査前にシュッと鼻からコカインを吸引しちゃう麻薬中毒者。おまけにギャンブル狂で、警察署にまで取り立て屋がくるほどの借金まみれ。クスリで異様にハイになったかと思えば、ダウナーに入ってチーンと静まり返ったりと大忙し。
そんなマクドノーですが、人助けもするし捜査もちゃんとする。リタイアした元刑事の父親も、娼婦の恋人も大事にするし、決して悪人というわけではない。でもヤク中……。この絶妙なさじ加減がケイジの持ち味である大仰な演技にぴったりフィット! ちなみにケイジは「撮影で使ったのはベビーパウダーで、本物のコカインは使ってない」とわざわざ正式にコメントを出しました。
『ハートにびんびん火をつけて』(1989年)
頭の悪すぎる邦題がイカしてる本作は、童貞男二人組がオハイオ州の片田舎から常夏の美女軍団を求めて車で夢のカリフォルニアを目指すロードムービー……という感じで幕を開けるものの、童貞二人が車内で髪型のディスり合いをしたものだから、わずか数分で衝突事故! しかもそこはなんにもない荒野のド真ん中! しかし事故った相手はまさにとびっきりのカリフォルニア美女だった! という、近年のソリッドシチュエーションスリラーブームをはるか先取りしたかのような作品(言い過ぎ)。
そんな本作でのニコラス・ケイジの出演時間はわずか数秒! 真っ赤なスポーツカーで颯爽と現れ、なぜかわかりやすいほどのつけ鼻を装着して登場! かと思いきや、体をのけぞらせてゲラゲラ笑って去っていく。登場人物同様、見ているコッチも「一体なんだったんだアイツは……」と脳にこびりつく数秒間。さすが。
『ワイルド・アット・ハート』(1990年)
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』は復讐劇というシンプルでありきたりなお話を、めくるめくドラッギーな映像と語り口でこれでもか! というほどの新食感に仕上げていたわけですが、そういう意味ではデヴィッド・リンチ監督による本作に近いかも。
こちらはセックス&バイオレンスな逃避行もので、「オズの魔法使い」モチーフをちりばめた作品。ケイジ扮する主人公セイラーは、ヘビ皮のジャケットを愛用するヤンチャだけどエラい誠実な男で、恋人ルーラ(ローラ・ダーン)をただひたすら愛する男。クリスピン・グローヴァー、ウィレム・デフォー、ダイアン・ラッドといった、クレイジーなキャラを演じる俳優たちも総出演だが、ケイジも負けじとキメッキメ演技で突っ走る! 特にケイジ自身が大ファンだというエルヴィス・プレスリーの楽曲を高らかに歌い上げる場面はただならぬ感動を巻き起こす特濃ロマンチック具合。
ちなみに2002年にはプレスリーの娘であるリサ・マリー・プレスリーと結婚し、たった3ヶ月で離婚! さすがケイジ。めちゃくちゃだ!
『バンパイア・キッス』(1988年)
ケイジのベスト・アクトといえばコレ! 平たくいうとバンパイア映画なのだけれど、本作でバンパイアとなるケイジは一味違う。なんせ普通の男がある日を境に「俺バンパイアなんじゃないか?」から「おいおいマジかよ俺ってバンパイアだろ……」となり、「そうだ! 俺はバンパイアだ!」と勘違いしながらも徐々にバンパイアとして覚醒していく!
そしてバンパイア魂に火がついてからのエスカレートっぷりは甚だしく、急に太陽が眩しくなってサングラスを着用したり、おもちゃのバンパイア歯をつけたり、ハトを捕まえて生き血をすすったりと勘違いのくせに完全にバンパイア。極めつけは、生きたままのゴキブリを貪り食うバンパイア・ケイジ! ちなみに撮影に使われたゴキブリは本物……。本作によっていろんな意味で限界突破したケイジ。というわけで、ケイジを語るならまずはこれを観てから!
文:市川力夫