何これ、絶対かっこいいやつじゃん!
本当に卑怯な映画だ! とにかくダサかっこいい! ラスベガスからそう遠くないネバダ州の砂漠地帯。若く細身のアフリカ系アメリカ人の女性警官ヴァレリー(アレクシス・ラウダー)がシングルアクションの44口径リボルバーをクルクルと回して遊んでいる。そんな彼女にチーズバーガー片手に話しかけてくるのは、でっぷりと太った署長。
「これは娘へのプレゼントだ!」
署長は得意げに笑いながら、白い箱にラッピングされた銃を見せる。ヴァレリーは半笑いで言う。
「愛娘へのプレゼントが銃? それにチーズバーガー? 人殺しの道具ばっかりね!」
なんなの、この何処かでみたような会話!? と考える暇もなく緊急連絡が入り、二人はパトカーで夜のハイウェイを駆ける。流れる音楽は、渋いベースラインにコーラスが乗る『ダーティハリー2』(1973年)のオープニングテーマ! 80年代リファレンス映画ブームが一段落した今、あえて70年代スタイルでひた走る冒頭。何コレ? ずるい! 絶対かっこいいやつじゃん!!
とにかくメンツが濃い! 濃すぎる!!
いまだコロナ禍が続いているが、ジョー・カーナハン監督と俳優兼プロデューサーのフランク・グリロは絶好調のようだ。2人が組んだ前作『コンティニュー』(2021年)では、幾度となく殺される男を演じたグリロ。今回も命を狙われる役だ。しかし、設定は全く異なる。グリロ演じるテディは手練れの詐欺師。ヤクザな連中を敵に回して、殺し屋に追われる身なのだ。そこで彼は考えた。「警察に捕まって、留置所にいれば安全じゃね?」
ところがどっこい。そう上手くいかないのが世の中だ。酔っ払いのフリをして隣の房に収監されたのは、ジェラルド・バトラー演じる殺し屋のボブ。「どうせお前は死ぬ、逃げられはしない」。こんなことをジェラルド・バトラーに言われたら、無理無理! 死ぬしかない!!
警察署員も銃マニアのヴァレリーをはじめ、怠け者、ビビり、太っちょ、悪徳警官と一通り取り揃えており、メンツが濃い! 濃すぎる!!
なんとか警官たちを騙してテディを始末しようとするボブ、翻弄されるヴァレリー。好き勝手やり放題の署員たち。広げた風呂敷がデカすぎて収拾つくのかな? と思っていたところにやってくるのが、サイコパスな殺し屋――いや殺人鬼、トビー・ハス演じるアンソニー! まだまだ使い出のあるキャラを容赦なくバンバン殺して殺して殺しまくる! 広げたはずの風呂敷はあっという間に小さくなっていく。これではまるで『要塞警察』(1976年)みたいじゃないですか! さあ、生き残るのは誰なのか!?
ジョー・カーナハン監督の才能は成熟期へ
前半は、ジョー・カーナハンの映画にしては控えめな印象を受ける。スローペースな会話劇と小道具を使ったジワジワとしたサスペンスは、最近の彼の作品では見られなかったものだ。
しかし、トビー・ハスが登場してからは、いつもの狂った映画一直線。とはいえ、突如としてサブマシンガンをバンバン打ちまくる様は前半とのギャップも相まって「おお!」と拳を握りしめるに違いない。また「誰が死ぬのかわからない」のも非常にサスペンスフル。一人殺られるごとに「え?」と思わず声が出るだろう。
さらにスタイリッシュな女性キャラクターを、ジェラルド・バトラーとフランク・グリロという“ムサいマッチョ野郎アイコン”と対峙させるというのも、素晴らしいアイディアだ。ここまで熱く、自然で、面白い対決の構図を生み出したジョー・カーナハンの手腕は見事だ。
派手なアクションと予測不能な結末が彼の持ち味だ。しかし、本作は初期作品である激渋クライムサスペンス『NARC ナーク』(2002年)の雰囲気も持ち合わせている。こうしたアクションとジワジワとしたサスペンスの両立をみると、ジョー・カーナハンの才能はいよいよ成熟期に入ったと言えよう。惜しむらくは、成長目覚ましいジョー・カーナハンと初期作品の常連だった故レイ・リオッタとのタッグをもう一度見たいが、それは叶わぬ夢……。しばらくフランク・グリロとの蜜月の作品を心から楽しむことにしよう。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『炎のデス・ポリス』は2022年7月15日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
Presented by キノフィルムズ
『炎のデス・ポリス』
ある夜、砂漠地帯にたたずむ警察署に、暴力沙汰を起こした詐欺師テディが連行されてくる。マフィアのボスに命を狙われているテディは、避難場所を求めてわざと逮捕されたのだ。留置場に放り込まれひと息ついたのも束の間、マフィアに雇われた殺し屋ボブが泥酔男に成りすまし留置場のお向かいさんとなったから、さぁ大変。新人警官ヴァレリーの活躍によってボブのテディ抹殺計画は阻止されるが、マフィアが放った新たな刺客、サイコパスのアンソニーが現れて署員を皆殺し、小さな警察署は大惨事に……。孤立無援の危機に陥ったヴァレリー、裏社会に生きる同じ穴のムジナでありながら激しくいがみ合うテディ、ボブ、アンソニー。はたして4人のうち、この一夜限りの壮絶な殺し合いを生き抜き、朝を迎えられるのは誰だ!?
監督:ジョー・カーナハン
脚本:クルト・マクラウド ジョー・カーナハン
出演:ジェラルド・バトラー フランク・グリロ
アレクシス・ラウダー トビー・ハス
制作年: | 2021 |
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2022年7月15日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開