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A24『X エックス』は70s名作ホラーのオマージュ満載! “真心のこもった”強烈スラッシャー映画

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ライター:#市川夕太郎
A24『X エックス』は70s名作ホラーのオマージュ満載! “真心のこもった”強烈スラッシャー映画
『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

冒頭から『悪魔のいけにえ』の匂いが充満

3組のカップルがポルノ映画を撮るためにテキサスに行ったら殺人老夫婦に出会った! シンプルにも程があるあらすじと、『X エックス』なる不吉なタイトル、そして『ムーンライト』(2016年)や『ミッドサマー』(2019年)などで知られるA24製作というだけで、情報解禁の瞬間からホラー映画好きの間で話題沸騰だった作品がついに日本公開! ひとまず結論から言うと、どうかしてるほど面白い!!

『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

舞台は1979年。テキサスの田舎道を小汚いバンが走っている。車中にはポルノ女優のマキシーンと、そのパートナーであるマネージャー兼プロデューサーのウェイン、ブロンドが自慢のボビー・リンとベトナム帰還兵のジャクソンからなる俳優カップル、そしてカメラマン兼監督である映画オタクのRJと録音担当の控え目な女学生ロレイン。3組のカップルは、オリジナルポルノ映画「農場の娘たち」を撮影するために借りた農場へ向かっていた。もちろん、この手の映画のお約束であるガソリンスタンドにもちゃんと立ち寄る。開始数分で『悪魔のいけにえ』(1974年)の匂いが充満!

撮影隊が現場となる農場に着いたら着いたで、いきなり農場の持ち主である老爺ハワードが「お前ら全員気に食わん!」と先制パンチ。追い打ちをかけるようにハワードの妻である老婆パールはジ〜っと撮影隊を見つめている。度を超えた不気味さで撮影隊を萎えさせる夫婦こそが本作のキラー。餌食となるのは当然ポルノ撮影隊だ。

『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

夢見る映画クルーvs不気味な老夫婦

本作はシンプルなプロットながら、殺るほうも殺られるほうも等しく丁寧に描写する、『悪魔のいけにえ』スタイル。撮影隊6人のバックボーンはもちろん、ポルノ映画で一旗あげたいと一丸となって真剣に取り組んでいるので、青春映画のような空気感さえ漂っている。実際、アメリカでは60年代後半から70年代にかけてはポルノが黄金期を迎えており、3日ほどで撮った低予算ポルノ映画のヒットで一攫千金も夢ではなかった。

『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

本作のマキシーンとウェインのキャラクター造形にも影響が濃い『ディープ・スロート』(1972年)のリンダ・ラヴレースと、マネージャーにして夫であったチャック・トレイナーのように、一躍時の人となれる時代だったのだ。

いっぽうの殺人夫婦は、進歩的で人生を謳歌している若者に心かき乱されてしまうから大変だ。とくに老婆パールは、何もない農場でただただ老いを重ねてきた人生を悔やんでおり、その状態で若者の元気ハツラツなセックスを目の当たりにしてしまってスイッチオン。孤独感と欲望をくすぐられてしまって、色んな意味で体がうずいてうずいてしょうがない。そうして近年稀に見る、切なくおぞましい殺人鬼が夜の農場を跋扈するのだった。

『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

とはいえ、被害者と加害者を、老いと若さ、保守と革新、抑圧と自由といった単純な対立構造にしていないところが本作の秀逸な点だったりする。すべては表裏一体で、若者は老人にあったかもしれない未来を見て、老人は若者にありし日を見る。だからなんとも切ない。このあたりが真に迫るのは、老婆を演じた“あるキャスト”のおかげだろうか。

『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

アナログ表現にこだわったゴア描写など70年代ホラー映画っぷりを再現

監督は、いまや大御所となったイーライ・ロスの商業デビュー作『キャビン・フィーバー』(2002年)の続編『キャビン・フィーバー2』(2009年)で台頭したタイ・ウエスト。80年代ホラー映画のオマージュだらけだった『The House of the Devil』(原題:2009年)や、あえてもっさりした往年のマカロニ・ウエスタンを再現した『バレー・オブ・バイオレンス』(2016年)などは本作の予行練習だったのではと思うほど、70年代ホラー映画っぷりが見事に再現されている。

ゴア描写はアナログ表現にこだわっていて、血飛沫は豪快。聖典『サイコ』(1960年)や『悪魔のいけにえ』をベースに、『悪魔の沼』(1976年)も『サンゲリア』(1979年)も照れなく堂々オマージュしてしまう面の皮の厚さに胸を打たれる。ここまで真心のこもったスラッシャー映画、なかなかない!

『X エックス』©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

ちなみに本作は3部作の1作目という予定で、老婆パールを主人公にした2作目『パール』と同時に撮影が行われたんだとか。A24製作映画で初のシリーズものということで、期待のされ方もハンパない。

文:市川夕太郎

『X エックス』は2022年7月8日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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『X エックス』

1979年、テキサス。女優のマキシーンとそのマネージャーで敏腕プロデューサーのウェイン、ブロンド女優のボビー・リンとベトナム帰還兵で俳優のジャクソン、そして自主映画監督の学生RJと、その彼女で録音担当の学生ロレインの3組のカップルは、映画撮影のために借りた田舎の農場へ向かう。彼らが撮影する映画のタイトルは「農場の娘たち」。この映画でドル箱を狙う――。6人の野心はむきだしだ。
そんな彼らを農場で待ち受けたのは、みすぼらしい老人のハワードだった。彼らを宿泊場所として提供した納屋へ案内する。一方、マキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見つめるハワードの妻である老婆パールと目があってしまう……。
そう、3組のカップルが踏み入れたのは、史上最高齢の殺人夫婦が棲む家だった――

監督・脚本:タイ・ウェスト

出演:ミア・ゴス
   マーティン・ヘンダーソン ブリタニー・スノウ
   ジェナ・オルテガ オーウェン・キャンベル
   スコット・メスカディ スティーヴン・ユーア

制作年: 2022