映画と舞台が連動! ムビ×ステ第3弾
ひとつの作品世界を、映画(ムービー)と舞台(ステージ)それぞれの手法で表現するプロジェクト「ムビ×ステ」。両者はそれぞれに独立した作品でありながら、物語自体は連動する表現方法はこれまでにない新しい感覚を見る者にもたらしてきた。
2019年に『GOZEN -純恋の剣-』で始まったムビ×ステは、2020年から第2弾『死神遣いの事件帖』(「傀儡夜曲」「鎮魂侠曲」)を製作。そして2022年、第3弾となる『漆黒天』がいよいよ公開&上映される。ぼろをまとい、記憶を失くした主人公・名無しが江戸の町に現れるところから始まる映画『漆黒天 -終の語り-』。彼はいったい何者なのか、手がかりを探る先に待っていたものとは――。
6月24日の公開に先駆け、主演の荒木宏文と脚本を手掛ける末満健一に話を聞いた。
『漆黒天』の“羅針盤”となった荒木宏文
―独立した映画と舞台の物語を連動させたプロジェクト「ムビ×ステ」の第3弾となる作品『漆黒天』。末満さんは映画と舞台、両方で脚本を担当されています。
末満:ムビ×ステの企画で、映画と舞台の両方をひとりの脚本家が担当するのは初めてということだったので、「自分でいいのかな?」というのが率直な感想でした。お話をいただいて、ムビ×ステについて考えたなかで……作品ごとに俳優やクリエイターが変わろうとも“映画と舞台の連動企画”であることが肝なんだろうなと思ったので、その点を最も大事にしなければならないと感じました。
―まず、何をとっかかりとして作っていったのでしょうか?
末満:荒木くんとご一緒することは決まっていて、そこからスタートしていたんです。それはとてもありがたかったですね。というのも、これまで航海したことのないムビ×ステという海にポンと放り出された僕にとっては、羅針盤となるのが“荒木宏文という俳優”だったんです。ですから、荒木くんが主演する前提で「面白い題材はなんだ?」と考えるところから始まりました。
―当て書き、ということでしょうか?
末満:そうですね。当て書きというか“当て企画”です。
荒木:僕も「ムビ×ステで末満さんとのタッグでやりますよ」という説明を受けて一番楽しみにしていたのは、末満さんが脚本を書いて、映画の監督は坂本浩一さんだということ。「え!? 末満さんは監督をやらないの?」と驚きましたし、ドキドキしました。
末満:脚本を書くのはすごくエネルギーがいるんですが、そのエネルギーを得るために僕は、いつも「〇〇のためにこの作品を作るんだ」というモチベーションを自分のなかに見つけるようにしているんです。
―今回はその〇〇となるのが、荒木さんだった?
末満:そうですね。僕は荒木くんが出演されている作品をそんなに多くは見たことがないので、「荒木くんがやったことのないような役を作る」というのではなく、題材と荒木くんがきちんと親和性があるなかで進んでいく作品になればいいなとシンプルに思っていたんです。
2019年に「COCOON 月の翳り星ひとつ」(TRUMPシリーズ)でご一緒させていただいたときに、自分なりに感じた荒木くんの人となりを手がかりとして、作品と荒木くんが二人三脚で進んでいけるようにしたいと思いました。
とはいっても、荒木くんに都度リサーチしながら書いたわけではなくて。「こうしたら、きっと面白がってくれるんじゃないかな?」とか「自分自身の人生観を作品と共鳴させながら、荒木くんが関わっていけるんじゃないかな?」といった感じで、想像力を働かせて書いていきました。
「荒木くんは“感度をさらけ出す”ことができる」
―そうして書かれた脚本について荒木さんは、どのように感じましたか?
荒木:読んですぐに「演じるのがすごく楽しみです」と末満さんに一報を入れるぐらい、面白い脚本でした。エンタメを作って世に出していくうえで、パンデミックと向き合わなければならない環境がずっと続いているなかで、いろいろと考えることが多いなと思っていて。でも、この脚本を読んで「僕ひとりがそう思っていたわけじゃないんだ」とすごく救われたような気がしたんです。それは僕にとって、とても大きなことでした。そんな本作で表現したいと思ったのは……物事の見え方についてです。
―物事の見え方、というのは?
荒木:物事って均等に、平等に見えていたとしても、実は結構偏っている気がしていて。だから僕は比重が軽いほうというか、大きな割合を占めていないほうに重点を置いて、両方が50%になるようにしたいなと常日頃から思って生きているふしがあるんです。
この作品は、そういった僕のスタンスをそのまま投影できる内容だったのでとても演じやすかったですし、自分の価値観を持ったまま、普段の自分がやっているアプローチで役を演じることができる題材に出会ったのも初めてでした。もともと持っている感性のまま役づくりができたので、物語にも役にもスムーズに入ることができました。
―そこがまさに、先ほど末満さんがおっしゃった「荒木さんの人となりを手がかりにした」というお話に繋がるのでしょうか。
末満:そうですね。『COCOON 月の翳り星ひとつ』でご一緒した際に感じたのは、物事に対する感度が高いこと。そして、現場でそれをさらけ出すことができる人であるということです。
感度が高い人はたくさんいると思いますが、それをさらけ出すのって勇気がいることなんです。でも、荒木くんはそこを一歩踏み込んで「自分はこういう感度なんです」と見せることができる。腹をくくって表現というものに取り組んでいるんだな、というのが僕が感じた荒木くんの印象だったんです。
それを具体的に作品に反映させたわけではないんですが、脚本を書きながら「荒木くんの感度だったら、このシーンはどんなふうに見えるんだろう?」と……いまこうして振り返ると、無意識のなかで意識していたのかなと思いますね。脚本を書いている隣に荒木くんがいる、みたいな(笑)。感覚的な部分で書いていたと思います。
―おふたりの感度が似たところにあるからこそ、そういったことができたのでしょうか?
荒木:似ているというよりも、末満さんが知っている範囲が広いんだと思います。きっと僕の感性も理解できるぐらい、知識が豊富なんだと感じます。僕は感覚でしか生きていないし、それを言語化できるほど頭が良いわけでもないから、伝え方も難しくて。そんな僕の感性を……どれだけの視野が、許容範囲が、知識の豊富さがあるかによって、受け手の汲み取り方が変わってくるという話だと思います。
そういう意味で、末満さんはすごく広くて……感覚的に言うと、末満さんが持っている土地に僕が家を建てているような感じですかね(笑)。末満さんの手中にあるというか。
末満:ははは(笑)。
「闇鍋パーティーに来るような気分で(笑)」
―そんな末満さんと再びご一緒して感じたことは?
荒木:作品づくりをしていくなかで、「これまで荒木くんが見せたことのないような荒木宏文を見せたい」とおっしゃっていただくことも多くて。それはたしかに新鮮さはあると思いますが、僕としては表現として武器となるほど作りきれていない。だから見せていないだけなんです。
そういう思いを抱いていた僕にとって、今作での末満さんのアプローチは「一般的ではない考えすらも理解してくれる人はいるんだな」と救いになりましたし、だからこそ脚本が面白いものになったんだと思います。
―おっしゃる通り、映画『漆黒天 -終の語り-』には「大きな割合を占めていないほうに重点を置いて、両方が50%になるようにしたい」という荒木さんのスタンスが強く表れていたように思います。だからこそ、見ている側も「自分という人間は表裏一体なのかもしれない」と気づかされるというか。
荒木:そうですね。「自分は一面でしか物事を見ていないのかもしれない」ということに気づいていただけたら、僕の中での及第点は超えられたと思います。
もっと言えば、表裏一体だし、表と裏が反転する可能性もある。どちらが正しくてどちらが悪いのかもわからないぐらい両方をきちんと50%にした場合、ちょっとした力加減で反転もするし、パワーバランスが崩れてしまう。この作品の「人間ってそれぐらい不確かなものなんだよ」というスタンスに、僕はすごく魅力を感じているんです。
でも実際に生きているなかで、そうやって視野を広く持ってパワーバランスを把握することなんてなかなかできないですよね。だから「自分が視野を広く持てていない」と自覚することがとても重要な気がしますし、それが伝わると嬉しいなと思います。
―映画『漆黒天 -終の語り-』を経て、8月には舞台『漆黒天 -始の語り-』が控えています。どんな舞台になりそうですか?
末満:物語を作るにあたって、起承転結がきちんとあって、最後は盛り上がりながらハッピーエンドかバッドエンドで終わる。「ハッピーエンドでよかったね」とか「このバッドエンドはキツかったね」といった相比のされ方に、最近ストレスが大きくなってきているんです(苦笑)。
僕はよく「悲劇的な作品が多い作家」と思われていて、「今回はどんな最悪な物語が見られるんだろう?」と……期待していただけるのはとてもありがたいんですが、例えばそれが今後エスカレートしていって、一面的に物事を捉えられたり、ルーズに消費され始めたら、エンターテインメントって死んでいくと思うんです。
そんななかで、この『漆黒天』は一言でいうと青春群像劇ではあるんですが、善悪が綯交ぜになった作品ですから、見てくださる方それぞれがどこに目盛りを合わせるかで捉え方の違った作品になればいいなと思っています。舞台『漆黒天 -始の語り-』も、闇鍋パーティーに来るような気分で見に来ていただければと思います(笑)。
荒木:僕自身も楽しみです。
取材・文:とみたまい
撮影:芝山健太
映画『漆黒天 -終の語り-』は2022年6月24日(金)より新宿バルト9ほかにて公開
舞台『漆黒天 -始の語り-』東京公演は2022年8月5日(金)~ 21日(日)までサンシャイン劇場にて、大阪公演は8月31日(水)~9月4日(日)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演
映画『漆黒天 -終の語り-』
「この町で……俺を見たことはないか?」
ぼろを纏った男が江戸の町に現れた。
男はなりゆきから喜多というコソ泥女を助ける。喜多は「助けてくれた」お礼にと、記憶を失くした男に<名無し>の名を与えて、狂言作者の玄馬、ごろつきの邑麻兄弟らを巻き込み、その素性の手がかりを求めはじめる。
現状で名無しについてわかっている事実は、どうやら自分は謎の剣客たちに命を狙われている、ということ。しかもその度に圧倒的な剣技で返り討ちにしてきたらしい。なぜ自分がこれほどまでに強いのかも思い出せない。だが、町で悪事の限りを尽くしてきたという<日陰党>の名を聞いた時、記憶の中にただひとつ残る<愛する者の死に際>が思い出される。
同じ頃、与力である玖良間士道や皿月壬午は、ある計画を実行に移そうとしていた。愛する者の死の記憶、尋常ならざる剣の腕、その命をつけ狙う謎の刺客たち……どうやらこの男には、何かある。
監督・アクション監督:坂本浩一
脚本:末満健一
音楽:和田俊輔
出演:荒木宏文
小宮有紗 松田凌 長妻怜央(7ORDER)
橋本祥平 松本寛也 小島藤子
梅津瑞樹 小澤雄太 鈴木裕樹
唐橋充 宇梶剛士
制作年: | 2022 |
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2022年6月24日(金)より新宿バルト9ほかにて公開
舞台『漆黒天 -始の語り-』
東京公演は2022年8月5日(金)~ 21日(日)までサンシャイン劇場にて、大阪公演は8月31日(水)~9月4日(日)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演