グラミー賞受賞経験もある監督が新旧バランスよく楽曲をセレクト!
映画のサントラ、とりわけ劇中で使われた既存の楽曲を収録したソングコンピレーション盤の面白さは、バラエティ豊かな音楽をまとめて聴けることだろう。それによって今まで自分が知らなかった曲と出会ったり、興味がなかったジャンルに関心を持つようになったり、新しい音楽と出会う楽しさがある。そして年代もジャンルもバラバラな曲をサウンドトラックとして統一感のあるものに仕上げることになった場合、ミュージック・スーパーバイザー(音楽監修者)や映画監督自身の選曲の腕の見せ所ということになる。
それでは今回ご紹介する『ジーサンズ はじめての強盗』(2017)の場合はどうだろうか?
本作の監督を務めたザック・ブラフは、監督・脚本・主演をこなした低予算映画『終わりで始まりの4日間』(2004)でエグゼクティブ・サウンドトラック・プロデューサーも兼任し、同作でグラミー賞のベスト・コンピレーション・サウンドトラック・アルバム賞を受賞した多才な人物。自身の作品で使う音楽にこだわりのあるブラフは、今回もサウンドトラック・アルバム・プロデューサーを兼任。ソウル、R&B、ジャズ、ヒップホップなど、新旧アーティストによる多彩な楽曲をバランスよくセレクトした良質なサウンドトラックを作り上げている。
本作の音楽は、まず「主人公のジーサンたちが若い頃に聴いていたであろう往年の名曲」のチョイスが面白い。
作品の舞台やジーサンたちの歴史・心情も感じさせる楽曲たち
例えばディーン・マーティンの<想い出はかくの如く>は、ジョー(マイケル・ケイン)、ウィリー(モーガン・フリーマン)、アル(アラン・アーキン)にとって、シナトラ一家(ラット・パック)が若い頃の憧れのスターだったことが何となく想像出来るし、彼らがのちに“ラット・パック”のマスクを被って銀行強盗を行う伏線にもなっている。ソニー・ロリンズの<セント・トーマス>はサックス奏者のアルが日頃聴いていそうな曲だし、アルとアニー(アン=マーグレット)がカーニバルのステージで歌うレイ・チャールズの<ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー>も、老人クラブ主催のイベントで歌うのにピッタリな曲と言えるだろう。
アルとアニーが“厄介な関係”になる場面ではオーティス・レディングのシャウトが冴え渡る<ハード・トゥ・ハンドル>が笑いを誘い、「何だかよく分からないが、気がついたら相手に押し切られて結婚していた」という感じのアルの結婚式では、ダイナ・ワシントンの名曲<縁は異なもの>がロマンティックな彩りを添えている。
そして本作の選曲のもうひとつのテーマは「ニューヨークらしさを感じさせる曲」。例えば<キャン・アイ・キック・イット?>を歌うア・トライブ・コールド・クエストは、クイーンズ出身のヒップホップ・グループ。そしてジェイミー・カラムが洒脱に歌う<ヘイ・ルック・ミー・オーヴァー>は、ブロードウェイ・ミュージカル「Wildcat」の劇中歌のカヴァーである。
「酔ってご機嫌なジーサンたちが口ずさみそうな歌」ということで、ウィリー役のモーガン・フリーマンが知っていたこの曲が選ばれたという。懐メロ多めの選曲の中でひときわ異彩を放つのが、“ジーサンズ はじめての万引き”のシーンで流れるマーク・ロンソンの<フィール・ライト>。
ファンキーなグルーヴとミスティカルのダミ声ラップが、チームを組んで強盗を行うケイパームービー史上に残るスローなチェイス・シーンになけなしの(?)スピード感を与えている。
ことほどさように痛快な“ご長寿銀行強盗コメディ”に仕上がっている本作だが、物語の根底には老後の年金、住宅ローン、社会福祉といったテーマがある。サム・クックが<ミーン・オールド・ワールド>で「ここはひどい世界さ/ひとりで生きて行くには」と切なく歌い上げるが、言い換えればそれは「愛する家族や友達がいれば、この世界もそれほど悪くはない」ということでもある。この曲は劇中でも「世の中捨てたものではないな」と思わせるシーンで使われている。
本作の原題は“GOING IN STYLE”。往年の名曲から近年のファンク/ヒップホップ、ロブ・シモンセン(『gifted/ギフテッド』(2017)や『(500)日のサマー』(2009)などの音楽で知られる作曲家)のスコアまで、酸いも甘いも噛み分けたジーサンたちの“スタイル”が伝わってくるサウンドトラックと言えるだろう。
文:森本康治
『ジーサンズ はじめての強盗』
未来はいらない、年金を返せ!80歳オーバーの3人の仲間たち、人生最後の賭けはなんと銀行強盗!?元気と勇気をもらえる、破天荒なジーサンたちによる、一発逆転コメディ。
制作年: | 2017 |
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監督: | |
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