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年の差58歳、共通点は「BL」が好き!『メタモルフォーゼの縁側』 少女と老婦人の友情物語

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ライター:#野中モモ
年の差58歳、共通点は「BL」が好き!『メタモルフォーゼの縁側』 少女と老婦人の友情物語
『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

「BL」が繋いだ17歳と75歳

17歳の女子高校生と75歳の老婦人が、思いがけず知り合い、友情を育む。年の離れたふたりを繋いだのはBL、すなわちボーイズラブ漫画だった。芦田愛菜と宮本信子がダブル主演を務める『メタモルフォーゼの縁側』は、鶴谷香央理による漫画を映画化した作品だ。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

原作漫画は2017年にウェブ連載を開始し、2020年に全5巻で完結。繊細な日常描写を積み重ね、優しくあたたかい人々の心のふれあいと創作の力を描き出した人気作である。<このマンガがすごい!2019>オンナ編1位、第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞に選出されるなど、漫画好きに愛される漫画だ。

何年か前に夫に先立たれた雪は、自宅の一軒家で近所の子供たちに書道を教えながらひとり暮らしをしている。ある日、ふと立ち寄った書店で「きれいな絵」の漫画に目を止め、気まぐれに購入してみると、それは男子高校生が主人公のボーイズラブ作品だった。続きが気になってふたたび書店に向かった雪は、そこでアルバイトする高校生うららと出会うのだった。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

芦田愛菜と宮本信子の魅力的なキャラクター造形

20世紀の昔に比べれば、現在はアニメや漫画やゲーム、それにBLに熱中するのも、「よくある一般的な趣味」として社会に受け入れられている。タレントやモデルなど華やかな世界で活躍している女性にも、BL好きを広言する人がだいぶ増えてきた。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

しかし、うららはテンション高く自己主張したりはしゃいだりするのは気が引けてしまう、いわば古風なオタクである。きれいな女の子たちを眺めて「自分はキラキラできない」と思ってしまうし、学校では趣味の合う友達を作れないでいる。だが、そんなうららも、雪と出会い、好きなBL漫画について語り合ったり、同人誌即売会に出かけたり、さまざまな経験を重ねるうちに少しずつ変わってゆく。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

うららを演じるのは芦田愛菜。聡明なスーパー優等生というイメージの強い彼女だが、この映画ではまだ小さな世界でおずおずと日々を生きている平凡な少女に見えるからさすがである。見た目に無頓着で髪はぼさぼさ、それでも若いエネルギーがはちきれんばかりで、中高年からしたら愛おしくてたまらない生命体として目を引きつける。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

雪役の宮本信子も、軽やかに楽しげなところをたくさん見せて笑顔を誘う。臙脂色に白のドット柄のシャツなど、時代を超えてかわいらしいスタイリングがお似合いだ。「漫画の続きが楽しみで生活にハリが出る」という経験が映画になるのは、そういうことは確かにあると知っている人間として素直に嬉しい。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

2022年の映画として“もっとできた”気になるポイント

池袋のジュンク堂や、その並びの今では閉店してしまったマルゼンカフェ、高円寺の文禄堂など実在の書店でのロケ、にぎやかな同人誌即売会場の風景など、東京の書店および同人誌周辺の文化を紹介する観光映画的な楽しさもある。また、作中に登場するBL漫画を、原作者の鶴谷に加え、「黄昏アウトフォーカス」シリーズなどで人気のBL漫画家、じゃのめが描き下ろしているのも見どころだ。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

だが、特に同人文化に関しては、「察してね」という部分が多いわりに、察せる人は違和感を覚えてしまうであろう描写が目につくのも事実。主に原作から変更された部分における登場人物の行動が、押しが強く不自然になってしまっているのだ。映画鑑賞後に原作を再読して、人との距離を縮めるのが得意ではない、周りに気を遣って萎縮しがちな人が一歩を踏み出すまでの過程が、漫画ではたいへん周到にきめ細かく描写されていることに改めて感銘を受けた。そういった原作のディティールの豊かさや群像劇としての味わいを考えると、2時間の映画でなく30分8話ぐらいの連続ドラマで見たかった気もする。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

監督は狩山俊輔、脚本は岡田惠和。両者とも多数のドラマを手掛け映画の仕事もしてきた、それぞれ40代と60代の男性のようだ。『メタモルフォーゼの縁側』は心あたたまる作品に仕上がっているが、2022年公開でこの題材ならば、やはり女性の監督と脚本家を起用してほしかったと思ってしまう。それができる日本映画界であってほしかった。いつかもっと若い世代の女性クリエイターが、現代の漫画および同人文化を扱った鋭い映画を撮って世界を驚かせたりする日が訪れることを願わずにはいられない。

『メタモルフォーゼの縁側』©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

文:野中モモ

『メタモルフォーゼの縁側』は2022年6月17日(金)より全国公開

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『メタモルフォーゼの縁側』

うらら、17歳。毎晩こっそりBL漫画を楽しむ女子高生。
雪、75歳。夫に先立たれたひとり暮らしの老婦人。

ある日、ふたりは同じ本屋にいた。
うららはレジでバイト。
雪はきれいな表紙に惹かれて漫画を手にとっていた。それがBLだった。

初めての世界に驚きつつも、男子たちが繰り広げる恋物語にすっかり魅了されてしまう雪。
そんなふたりがBLコーナーで出会ったとき、それぞれ閉じ込めていたBL愛が次から次へと湧き出した。

それからは雪の家の縁側にあつまり、読んでは語りを繰り返すことに。
そして二人はある挑戦を決意する。

監督:狩山俊輔
脚本:岡田惠和
原作:鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」(KADOKAWA) 

出演:芦田愛菜 宮本信子
   高橋恭平(なにわ男子) 古川琴音
   生田智子 光石研
   汐谷友希 伊東妙子
   菊池和澄 大岡周太朗

制作年: 2022