ご存知「きさらぎ駅」ついに映画化
1週間働いて疲れ切ったまま痛飲、デロンデロンになったまま終電に乗って即撃沈。気づけば知らない駅だった……。という経験がある方、いますよね。それだけでもじゅうぶん途方に暮れる大惨事なのに、もしも電車に乗ってたどり着いた場所が異世界だったら……。
というわけで、この度インターネット発の都市伝説の中でも、屈指の知名度を誇る異世界遭難譚『きさらぎ駅』がついに映画化された。
オカルト掲示板発の超有名都市伝説
まずは“きさらぎ駅って何?”という方のために軽く解説すると、発祥は匿名掲示板<2ちゃんねる>のオカルト超常現象板で実況投稿されたもの。2004年1月8日深夜に、“はすみ”という人物が「先程から某私鉄に乗車しているのですが、様子がおかしいのです」と書き込んだことからすべてが始まる。
そして“はすみ”なる人物は、スレッド参加者とのリアルタイムのやりとりの中で、日本には存在しない<きさらぎ駅>に辿り着き、さまざまな怪異に見舞われるが、途中で書き込みが途絶えてしまって強制終了。以後、<きさらぎ駅>とはどこなのか? といった考察や、似たような異世界に迷い込んでしまった体験談の書き込みも増殖し、テレビ、漫画、アニメ、ゲーム、小説でも題材にされ、果てはモデルとされる遠州鉄道・さぎの宮駅が「きさらぎ」行きの切符まで発売するという事態にまで発展。いまや日本を代表する都市伝説にまで成長を遂げてしまった。
そのあたりは「神隠し~現代怪異譚集」(洋泉社)に掲載されたオカルト研究家・吉田悠軌氏による<鉄道神隠し事件>の項に詳しい。
超有名都市伝説を大胆アレンジ
そんな「きさらぎ駅」を題材とした本作だが、まずは映画を観る前に一度「きさらぎ駅」の実際の投稿をまとめ掲示板などで見ておくことを強くオススメしたい。なぜなら本作は、「きさらぎ駅」について卒業論文をまとめている民俗学専攻の大学生・堤春奈(恒松祐里)が、投稿者「はすみ」とされる葉山順子(佐藤江梨子)から直接「きさらぎ駅」での出来事を聞きに行く(!)という、「きさらぎ駅」ありきの世界として描かれ、なおかつ「『きさらぎ駅』の映画化」という言葉から観客が予想した展開をはるかに超える裏切りを見せてくれるからだ。
これ以上はネタバレになってしまうので書けないけど、とにかく「有名な都市伝説を映画化」という単純さではなく、「有名な都市伝説を映画化」という大喜利に、おそらく劇場では笑いが起こるほどのアクロバティックなアレンジ全開で解答。見事「IPPON」を出し、都市伝説の映画化の可能性を広げている。
ちなみに予告編を見ると、POV(一人称視点)の場面が目立つが、長江二朗監督いわく「POVではなくFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)」なのだとか。言われてみればたしかにFPSで、ゲームが好きな方はオカルトFPSゲーム「GhostWire: Tokyo」なんかを連想するだろう。それでも酔うほどの画面ブレはなく、とても安定したカメラワークなので一人称視点に苦手意識がある人でもきっと大丈夫。
文:市川夕太郎
『きさらぎ駅』は2022年6月3日(金)より全国順次公開
『きさらぎ駅』
大学で民俗学を学ぶ堤春奈は、卒業論文で十数年来、ネットで現代版“神隠し”と話題になっている都市伝説「きさらぎ駅」を題材に取り上げることにした。リサーチの結果、「きさらぎ駅」の原点となった書き込みの投稿者『はすみ』ではないかとされる葉山純子という女性の存在を知る。ようやく純子への連絡先を知り、数ヵ月にわたりメールでやり取りした結果、春奈は遂に純子と会う約束を取り付ける。指定された場所は「きさらぎ駅」の舞台となった路線にある一軒家。春奈を出迎えた純子はどこか影のある雰囲気を持つ女性。部屋へ案内され、早速、ネットで噂される『はすみ』本人との真偽を確かめる春奈に対して、純子はどこか謎めいた笑いを浮かべながらも春奈からの問いかけに静かに頷く。続けて、純子から「きさらぎ駅」へたどり着いた経緯、その後の出来事などを聞いた。その内容は春奈には到底信じられるものではなかったが、純子の話の中で春奈はなぜ純子だけが「きさらぎ駅」へたどり着くことができたヒントに気づく。純子の別れた春奈は自然に「きさらぎ駅」の舞台となった遠州鉄道の駅へ向かう。この選択が春奈の運命を大きく狂わせることになってゆく。
監督:永江二朗
脚本:宮本武史
出演:恒松祐里 佐藤江梨子
本田望結 莉子
寺坂頼我 木原瑠生
瀧七海 堰沢結衣
芹澤興人
制作年: | 2022 |
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2022年6月3日(金)より全国順次公開