マイケル・ベイとジェイソン・ブラムがプロデュースを手掛ける超ヒットスリラー『パージ』シリーズの最新作、『フォーエバー・パージ』が2022年5月20日(金)より公開となる。
一年に一晩(12時間)だけ殺人を含むあらゆる犯罪が合法になる法律<パージ法>が施行された狂気のアメリカを舞台に、市民たちが犯罪者から逃げ惑うという斬新な設定が衝撃を呼んだ『パージ』(2013年)の公開以降、続々シリーズ化され世界中で社会現象を巻き起こしている人気シリーズだ。
そんな『パージ』シリーズの待望の最新作『フォーエバー・パージ』では、絶対のルールであったタイムリミット=12時間がついに破られ、最終形態<無限パージ>が解禁される。今回は、シリーズ初となる“エクストリーム・サバイバル・アクション”を手掛けたエヴェラルド・ヴァレリオ・ゴウト監督のロングインタビューを前後編でお届けする。
「どんな夢も悪夢に変わり得る」
―トランプ政権以後、「移民はみんなアメリカに来たがる。来るな」という風潮がアメリカでは強まりました。でも、この映画ではアメリカ人が必死になってメキシコに行こうとしています。すごくクールですよね。
僕もそこはすごく好きだよ。ジェームズが最初に持っていたそのアイデアを、僕はすごく気に入った。どういう事情があるのかを人々に見せられるんだからね。アメリカ人は「バイオレントな奴らがやってくる!」と言うが、その背景にある事情を知らない。その人たちは“人間”なんだ。反対の立場に立ってみれば、自分にも同じことが起こり得るとわかるはず。そうなったら、あなたが移民になるのだと。そうしたら、あなたはどうするか?
これはメキシコ人への問いかけでもある。自分たちがアメリカ人にされたようなことをアメリカ人にしてやるのか、それとも優しくしてあげるのか。すぐに国籍を与えて、社会に迎え入れてあげるのか。わからないよね。これらは重要で知的な問いかけだ。でも、僕らは講義をしているわけでもモラルを語っているわけでもない。これは純粋なエンターテインメントだ(笑)。そこが大事だね。
―テノッチ・ウエルタの演じるホアンが、このためにアメリカに来たのかと葛藤するところもリアルです。彼が思い描いていたものと現実は違った。そこも興味深いところですよね。
その通り。それが彼らの間でも違うんだ、というところも僕は気に入っている。ホアンとアデラ(アナ・デ・ラ・レゲラ)が“なぜ自分たちはアメリカにいるのか”を語り合うシーンがとても好きだ。そこにはニュアンスがある。移民はみんな同じで、同じビジョンを持っていると考えられがちだけど、それは違う。みんなそれぞれなんだ。
―それと同じ流れですが、この映画は“アメリカンドリームは言われている通りのものなのか?”とも問いかけてきますね。
そうだね。僕は、どんな夢も悪夢に変わり得ると信じている。弱いものなんだよ。この国はとてもユニークだ。世界一の経済国で、多くの人たちを受け入れ、多くの人たちにやって来てほしいと呼びかけるチャンスがある。世界から違ったブレインパワーが集まってくるから、アメリカは素晴らしい国になる。それによって、より良くなり、より明るくなる。それを取り払ってしまったらホワイトトラッシュだけが残って、そこからどこにもいけないよ(笑)。
アイデアを拡大していくこと(が大事)。この国はもっと(移民というコンセプトを)受け入れるべき。それはアメリカという国の基本でもあるのだから。
「スケールを大きく見せるために『ジョーズ』の頃のスピルバーグを思い出した」
―この映画を作る上で、一番大変だったことは何でしたか?
予算だね(笑)。紙に書いたものを読んで、次に予算を聞いて、「エキストラは何人? えっ25人? どうするの!?」となる(笑)。大きなスケールの映画に見せるためには知恵が必要だったよ。
僕はスティーヴン・スピルバーグを思い出した。1億ドル使える現在のスピルバーグではなくて、『JAWS/ジョーズ』(1975年)の頃のスピルバーグをね。あの映画は“サメが見えない”から良いんだ。見えない方がもっと怖いんだよ。僕らも、どこで見せるかをよく考えた。どこにでもいるかのように見えて、窓からちらっと見えるだけ、とかね。
―その甲斐あって、映画はずっと緊張感に満ちていますね。
実際には3人しかいないエキストラがぐるぐる走り回ってるだけなんだけどね(笑)。なかなか大変だったよ。
―頭を使わないと、ということですね。
そう。だからルイス(・サンサンズ:撮影監督)に来てもらって、この冒険を一緒にやってもらわないとダメだったんだ。存在するトリックは全部使わないといけなかったから。そして時には、ドキュメンタリーかと思えるほどリアルなものにするために。
―あなたとルイスはとても長いこと一緒に仕事をしてきているのですよね?
ああ。僕らはバズ・ラーマン監督の『ロミオ+ジュリエット』(1996年)の現場で出会ったんだ。あの映画はメキシコで撮影されたんだよ。僕は2番目の助監督で、彼はビデオアシスタントだった。そこで仲良くなって、それからずっとコラボレーションしている。
―お互いのやり方がわかっている仲の良い人が一緒にいてくれるのは良いことですね。
ああ、断然そうだね。僕は長期にわたるコラボレーションをして前進していくことを信じるよ。
―この映画で一番誇りに感じていることは何ですか?
僕はトリックが好きで、カメラにストーリーを語らせるのが好きだ。だけど一番好きなのは俳優と、俳優との関係。シーンの中に真実がある時、人はモニターを見つめるのをやめる。そのキャラクターの感情が伝わってくる時、それが僕の一番好きな瞬間だ。僕は(この映画の)俳優たちを最も誇りに感じる。彼らの演技はホラー映画のレベルではなく、最高級の演技だとこの映画は感じさせる。それは、このシリーズにとってすごく良いことだと思う。
「この1年はクレイジーだった。僕は愛する人をたくさん失った」
―本作はバイオレンスもたっぷりあり、緊張感あふれる映画ですが、現場の雰囲気はどんな感じだったのでしょうか?
良い雰囲気だったよ。僕はハッピーな現場が好き。叫ぶ人は嫌いだ。叫ぶよりも、話す方が良いコミュニケーションが取れると思う。それに監督の仕事というのは……みんな他の人がやってくれるんだよ。僕は演技をしないし照明もやらない。僕の仕事は、みんなが最高の仕事をしようと思ってくれるようにすること。それが僕にできる最高のことだ。
だから僕は現場で音楽をかけるし、キャラクターの心の奥底に入っていこうとするし、俳優たちがもっと探索できるよう彼らからの質問に答えたりする。僕はいつもルイスに、「俳優が何かをする。カメラはそれを追いかける」と言うんだ。俳優に自由をあげよう、と。小さな箱に入れるよりも、その方がずっと良いものが生まれるんだ。
―あなたは俳優に自由を与えるタイプの監督なのですね。
そう。僕はいつも彼らと一緒に探索をする。完全にキャラクターを信じてね。良い人なのか悪い人なのか決めつけることはせず、モチベーションとか、その人はどうしてそういうことをするのかを探索するんだ。それを俳優と一緒にやる。それはいつも楽しいね。
―ここ1年4ヶ月ほどは(パンデミックによって)誰にとっても大変で、この映画も公開が延期になりました。そのことでフラストレーションを感じましたか? あなたはこの一連の状況にどう対処したのでしょうか?
この1年はクレイジーだった。僕は愛する人をたくさん失った。コロナのせいではなく、歳をとったからという理由だけれどね。撮影のはじめに母を亡くし、終わる頃に義理の父を亡くした。そして父がコロナに感染したので、彼を家に連れ帰って世話をしないといけなかった。世界の問題の現実に直面したので、映画の公開が遅れたなどという小さな問題は、より良くするためのチャンスだと受け止めるようになったよ。いつ公開されたいのか、映画が選んでいるのだと僕は見るようになったんだ。
1年前より今の方がずっと良い。今の方が1年前より心を打つだろう。僕はこれを、映画のためにもっと努力する機会を得られたんだと受け止めている。VFXや音楽などを、いろいろ試したりできる時間を得られて良かった、と。だからチャンスだったと捉えているよ。
―ロックダウンの間にポストプロダクションをやっていたのですね。
そう。僕は一度もストップしていない。いや、スローダウンしなきゃいけなくなって、最低のことしかできなくなって、またできるようになったんだ。
「僕らの子供たちの世代は、昔の僕たちよりずっとオープンだよ」
―一番影響を受けた映画監督は誰ですか?
たくさんいるよ。僕は古いタイプ。黒澤、ウォン・カーウァイが好き。彼らは僕に大きなインスピレーションを与えてくれる。僕はタランティーノとかの世界より、そっちの世代だね。彼らも素晴らしいと思うけど、同じくらい強烈に好きとは感じない。
―映画作り以外で情熱を持っていることはありますか?
ああ、あるよ。何よりも、まず僕の娘。彼女は僕の北極星(ポラリス:生きる指針/道標)だ。どんなプロジェクトをやる時も、この世界を彼らにとってより良いものにしたいと思っている。人類としてはそのことに失敗しているけれど、僕の家の中ならば、違いを生み出すことができる。
僕はどんなメッセージを持つかで作品を選ぶことにしている。お金や派手さではなく、メッセージでね。それが僕を興味旺盛にするんだ。いろんなものを読むのが好きだし、娘との関係に関するものは全部好き。さらに拡大して、今、僕には美しいフランス人の婚約者もいる。その意味では人間中心主義者だ。他人に対して好奇心を持つ性格は母ゆずりだと思う。僕はいつもそこを探索している。
今、婚約者とポッドキャストを始めようとしているところなんだ。いろんな規模の話を自由に語れる場をね。それを一緒にとても楽しくやっているよ。
―ここ5年ほどハリウッドでは、インクルージョン、ダイバーシティが叫ばれてきました。状況は改善していると思いますか?
そう思うよ。2年ほど前だったら、ハリウッドの大作にメキシコ人の主人公が出るなんてあり得なかったよね。でも、今はある。だからアナをキャストするのは大事だったんだ。彼女は成熟した女性で、美しいだけではない。
良い方向に変わっていることを願うよ。僕は自分の娘にもそれを見る。娘は15歳。彼女や彼女のいとこは、僕らが若い時よりずっとオープンだ。彼女らにはゲイやトランス、ほかの人種の友達がいる。そこに僕は希望を見る。流れは変わったんだ。子供たちは昔の僕たちよりずっとオープンだよ。
―今、何か新しいことに取り掛かっていますか? 何か書かれていますか?
常にね。僕はいつも自分の兄弟(レオポルド・ゴウト)と一緒に仕事をする。彼はプロデューサーだ。この映画には関わっていないけれど、他はいつも彼と一緒だ。今ふたつくらい一緒に書いているものがあるし、この後いくつもあるよ。
『フォーエバー・パージ』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
『フォーエバー・パージ』
移民増加が深刻な社会問題となったアメリカ。政府は対策として、12時間だけ殺人を含むすべての犯罪が合法になる“パージ”を復活させる。命からがら恐怖の一夜をやり過ごした人々だったが、“パージ”に乗じて人種差別主義の過激派組織が暴走。終わりのない“無限パージ”へ突入し、アメリカ全土が無法地帯と化してしまう。崩壊寸前のアメリカを援助するため、メキシコ政府は6時間に限り国境解放を宣言。メキシコからの移民のアデラとホアン夫婦は雇い主の一家と国境を目指すが、道中で出くわした過激派の一団に追われてしまう。果たして彼らは極限の恐怖から生き延び、タイムリミットまでにアメリカを脱出することができるのか―!?
監督:エヴェラルド・ヴァレリオ・ゴウト
脚本:ジェームズ・デモナコ
出演:アナ・デ・ラ・レゲラ テノッチ・ウエルタ
キャシディ・フリーマン レヴェン・ランビン
ジョッシュ・ルーカス ウィル・パットン
制作年: | 2021 |
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2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開