マイケル・ベイとジェイソン・ブラムがプロデュースを手掛ける超ヒットスリラー『パージ』シリーズの最新作、『フォーエバー・パージ』が2022年5月20日(金)より公開となる。
一年に一晩(12時間)だけ殺人を含むあらゆる犯罪が合法になる法律<パージ法>が施行された狂気のアメリカを舞台に、市民たちが犯罪者から逃げ惑うという斬新な設定が衝撃を呼んだ『パージ』(2013年)は、公開されるや全米初登場No.1の大ヒットを記録。その後、パージ法が施行された街で極限状態に陥った人々の群像劇を描いた『パージ:アナーキー』(2014年)、パージ法を廃止しようとする大統領候補がパージに乗じて殺害を目論む政府の刺客からの逃走劇を描いた『パージ:大統領令』(2016年)、パージ法の“はじまり”を描いた『パージ:エクスペリメント』(2018年)と続々シリーズ化され、さらにテレビシリーズも制作されるなど世界中で社会現象を巻き起こしている。
そんな『パージ』シリーズの待望の最新作『フォーエバー・パージ』では、絶対のルールであったタイムリミット=12時間がついに破られ、最終形態<無限パージ>が解禁されてしまう。マスク姿の過激派集団による終わることのない破壊と殺戮に支配され、崩壊寸前の危機を迎えるアメリカ。突如として安全地帯を失った人々は6時間に限り国境を解放することを発表したメキシコへと向かうことになるが……。
今回は、シリーズ初となる“エクストリーム・サバイバル・アクション”を手掛けたエヴェラルド・ヴァレリオ・ゴウト監督のロングインタビューを前後編でお届けする。
「黒澤明は僕にとって最高の巨匠のひとり」
―監督は現在どちらにいらっしゃるのでしょうか?
ニューヨークだよ。僕は日本に大切な友達がいるんだ。日本は大好きだよ。
―日本に行かれたことはありますか?
ああ、幸運にもね。僕の最初の映画で、日本人の優れた作曲家・梅林茂さんとコラボレーションをしたんだ。彼はウォン・カーウァイのためにも曲を書いている巨匠で、僕の友達でもある。
―好きな日本の映画監督はいますか?
たくさんいるよ。黒澤明の大ファンで、彼は僕にとって最高の巨匠のひとり。良いと思った監督はほかにもいるよ。日本にはすばらしい映画があって、とても正確で緻密。僕は『ザ・テラー』(2018~2019年)というテレビシリーズを2話くらい監督したことがある。キャストは日本人/日系アメリカ人メインで、セリフも日本語。僕は日本語が喋れないけれど、日本語で監督しなければいけなかったんだ。彼らのテクニックを見るのは面白かったよ。彼らはとても精密で、こうやると決まったら俳優はきっちりと同じ動きをして、顔も同じ角度で見せるんだ。セリフもね。だから、そのうち彼らが何を言っているのか僕もわかるようになった。時計のように正確なんだ。
「違う文化に触れたことがないから、シャットアウトしてしまう人たちもいる」
―『フォーエバー・パージ』も素晴らしい作品でした。
ありがとう。
―この人気シリーズに、新鮮で画期的な方向からアプローチしていますね。
その通り。声をかけてもらった時、僕もそこに惹かれたんだ。それに、これは『パージ』シリーズの最後の作品になるということだった。僕はただの『パージ』シリーズのひとつだったら興味はなかったけれど、最終章ということで強い興味を感じたんだよ(※注)。ジェームズ(・デモナコ:シリーズ3作の監督、本作の脚本を手掛ける)はビジョンのある人。大胆な発想を持つ人で、自分が作ったルールを壊すことも恐れない。そこから何が起こるのかを見ようとするんだ。僕はそんな大胆さ、粗野な感じが好きだった。(※注:全米公開前直前にデモナコ氏が続編の可能性を示唆している)
『パージ』はシリーズが成功するにつれて少しずつハリウッドっぽくなっていったから、彼は『フォーエバー・パージ』は原点に戻したいと言っていた。そこにも共感したよ。その新鮮さが気に入ったんだ。主人公がアメリカ人でなくメキシコ人というところにもね。だけど、これはスリルたっぷりのホラー映画だ。ウエスタンもちょっと混じっている。そこの部分はしっかりしているから、がっかりさせることはないよ。
そんな中でも、政治的なことや人種問題などに触れる自由がある。これらのキャラクターにとって、それは自然なことだから。「ああ、政治的なこと言ってるよ」なんてシラケることはない。映画の流れの中でもすごく自然だから。そしてもっと効果的で、もっと怖い。
―そこは注意してバランスを取られたのでしょうか? あなたもおっしゃったように、映画を観に行って説教をされたような気分にはなりたくない人もいます。
「僕たちはスリラーを、ホラー映画を作っているんだ。政治的なメッセージを持つドラマを作っているのではない」というのは、最初から僕らのマントラ(真言)だったよ。そこは明確にしていた。その上で、あちらこちらでちょっと試してみたんだ。
僕がジェームズに提案したシーンがある。アメリカ人の農場経営者が「家の中でスペイン語を聞きたくない」と言うシーンだ。僕は以前、実際にそういうのを聞いたことがあったんだよ。でも、それを言ったのは“悪い人たち”じゃあない。違う文化に触れたことがないから、シャットアウトしてしまうんだ。だから僕はちょっとだけ窓を開けて、あちら側にいるのも人間なんだよと見せてあげたかった。そこからアメリカでは何か変わるかもしれない。それは楽しいことになるかもしれない。だからこのシリーズは成功してきたんだ。
とくに今作では、とてもリアリスティックなものを求めた。自然なものをね。キャスティングもリアルにしたかった。テノッチ(・ウエルタ)を雇ってもらうために相当、戦ったよ。彼は最高の役者だ。彼こそが正しい男。スタジオも、みんなもそれに納得してくれた。僕はジェームズに「彼(テノッチ)に訛りがあることも、さらに信憑性を高めるんだ」と言った。観客からもっと同情してもらえるようになる、そこから逃げるのはやめようとね。
それを利用して別のシーンも作ろうと言ったよ。彼の訛りのせいで、アメリカ人が、彼が何を言っているのか理解できないシーン。それも実際に起こることだよね(笑)。絆を作っていく過程を見せる上で、それらがより本物らしくする。それに、このホラーの中にちょっと楽しさを出すこともできる。
「ホラー映画だけれど、美しいショットを入れたかった」
―ジェームズ・デモナコいわく、あなたは脚本に多くの意見を提案したそうですね。二人とも情熱的だとも言っていました。あなたは主にどんなことを提案したのですか?
この映画にリアリティを持ち込むためのことだよ。不自然なセリフを入れたりして、アメリカ的バージョンの映画にしないようにすること。シリーズ過去作はややフィクションっぽくなってきた気がするから、もっと地に足がついたところに戻したかった。その方がもっと怖くなると思ったしね。キャラクターに共感できれば、観客はその旅路に付いていくことができる。そのためには観客が、“このキャラクターは自分だ”と思えないといけない。かけ離れていたら、観客の心も離れてしまう。主にそんなところだね。
さっきも言ったように、あちらこちらに何かを入れた。先住民族についてもよく話したよ。(先住民の)トホノ族についてのリサーチもたっぷりした。この民族はアメリカ人でありメキシコ人でもある。彼らは壁によって分断されているんだ。それは実際に起きていることなのだから、使おうと言った。彼らを名前で呼ばなくてもいいけれど、実際にあるそのコンセプトを使おうと。この映画をより良いものにするためにね。
僕もジェームズも映画を作るのが好き。それに、この映画はフィルムメーカーのための映画だとも言える。楽しめる映画で、理解できる映画。僕らは退屈な映画を作っているんじゃない。人々にシネマティックでグラフィックな体験を提供しようとしているんだ。それが実現できたことを願うよ。
―グラフィックといえば、ビジュアル面ではどんなことを追求しようとしたのでしょうか?
リアリティだね。僕はこの映画に撮影監督で友人でもあるルイス・サンサンスを連れてきた。彼はすばらしい仕事をしてくれたよ。ジェームズがルールを破ろうとしているのだから、僕らも過去作の撮り方のルールを破ろうと思った。今回は完全に違うことをやろうと。もっと本能的で、肌触りを感じられるようなことをね。俳優にもっと近寄って、風景にはウエスタンのようなフィーリングを与えようと思った。ホラー映画だけれど、美しいショットを入れたかったんだ。ホラーの中にも美はあるんだよ(笑)。
―テノッチとは過去にお仕事をしたことがあったそうですが、アナ・デ・ラ・レゲラは?
アナとは初仕事だったけれど、彼女は最も優れた役者のひとりだと思うし、以前から僕の友達でもある。彼女はほかの多くの人にはできない、幅広いことをやれる。コメディをやらせても、アクションをやらせても、シリアスなことをやらせてもうまい。彼女の幅は広いんだ。そこが良いね。それに僕は、40代の強い女性のキャラクターを持ち込むこともしたかった。ハリウッドがやるような、若く美しい女性ではなく、逆におばあちゃんでもなく、美しく強い女性だ。
僕と3人のきょうだいは母に育てられた。彼女は強かったよ(笑)。だから、そういう女性をどう描けばいいか知っているんだ。そういう人たちをもっとビッグスクリーンに出してくるべきだよね。
『フォーエバー・パージ』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
『フォーエバー・パージ』
移民増加が深刻な社会問題となったアメリカ。政府は対策として、12時間だけ殺人を含むすべての犯罪が合法になる“パージ”を復活させる。命からがら恐怖の一夜をやり過ごした人々だったが、“パージ”に乗じて人種差別主義の過激派組織が暴走。終わりのない“無限パージ”へ突入し、アメリカ全土が無法地帯と化してしまう。崩壊寸前のアメリカを援助するため、メキシコ政府は6時間に限り国境解放を宣言。メキシコからの移民のアデラとホアン夫婦は雇い主の一家と国境を目指すが、道中で出くわした過激派の一団に追われてしまう。果たして彼らは極限の恐怖から生き延び、タイムリミットまでにアメリカを脱出することができるのか―!?
監督:エヴェラルド・ヴァレリオ・ゴウト
脚本:ジェームズ・デモナコ
出演:アナ・デ・ラ・レゲラ テノッチ・ウエルタ
キャシディ・フリーマン レヴェン・ランビン
ジョッシュ・ルーカス ウィル・パットン
制作年: | 2021 |
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2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開