阿部サダヲ×サイコキラー
獄中の死刑囚と、大学生。異色のコンビが殺人事件の解明に挑むサスペンス『死刑にいたる病』が、2022年5月6日に劇場公開を迎える。
退屈な日々に嫌気がさしている大学生・雅也(岡田健史)のもとに、24件の殺人容疑で逮捕され服役中の榛村(阿部サダヲ)から手紙が届く。榛村は、かつて雅也の地元でパン屋を営んでおり、二人には面識があったのだ。その手紙に記されていたのは、「最後の事件は自分が犯したものではない。真犯人を探してほしい」という衝撃的な依頼だった……。
櫛木理宇による小説を、『孤狼の血』(2017年/2021年)『凶悪』(2013年)の白石和彌監督が映画化した本作。『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)に続く“白石組”で、阿部はこれまでにないキャラクターにどう挑んだのか。阿部の気さくな性格が覗くインタビューをお届けする。
白石和彌監督の「痛み」のアイデアに感嘆
―様々な挑戦が詰まった役どころだったかと思いますが、演じてみて得た発見などはありますか?
今回、初めてサイコキラーを演じてみて、僕は人をいたぶったりするのが好きじゃないんだなとつくづく思いました。ただその中で勉強になったのは、白石監督の「こうすると痛そうに見えるよ」というアイデアの豊富さ。人を殴ったり痛めつける演技ってすごく難しいので、監督のアドバイスを聞きながら「なるほどなぁ、確かになぁ」と思うことの連続でした。
―共演者の皆さんとの掛け合いの中で生まれてくるものもありますね。
そうですね。今回だと、面会室のシーンは岡田健史くんとふたりきりでシーン自体も長かったので、お互い引き出されたものがあったと思います。面白かったですね。セットの構造上、待機場所がそれぞれ別だったので空き時間に雑談とかはできませんでしたが。僕は看守さん役の方とばかり話していました(笑)。
―そのおふたりの対話、カメラが回っていないと微笑ましいですが、劇中ではぞっとするシーンとして登場しますね。
そうですね(笑)。看守さんをいつの間にか手なずけているシーンも自然と出来上がっていきました。ちなみに「赤毛のアン」を勧める部分に関しては、監督がアドリブ的に「それを話しながら、こっちに来て下さい」と提案してくれたんです。
役作りでシリアルキラーの映画を観賞するも……
―そうだったのですね! 白石監督とは、事前にはどのような話をされたのでしょう。
たとえば「こういう映画を観ておいてほしい」とかは特になく、自分で『テッド・バンディ』(2019年)と『ハンニバル』(2001年)を観ました。喋り方を参考にしようかなと思っていたのですが、『ハンニバル』に関しては英語だからどういう芝居かなかなかわからず、吹き替え版にしたらすごくいい声の声優さんが当てていて、あまり参考にならず普通に観て終わっちゃいました(笑)。
それで、『彼女がその名を知らない鳥たち』のときに蒼井優さんが「YouTubeで“クレーマー”と検索して出てきた動画を参考にした」とおっしゃっていたのを思い出し、「サイコキラー」で検索してみました。ただなかなかヒットせず、実在のサイコキラーがどういう人物だったかを紹介する動画を観たくらいでしたね。見た目的なところだと「歯を真っ白にしましょう」とは言われました。
―『彼女がその名を知らない鳥たち』とは真逆ですね。
そうなんですよ。あっちは歯が汚くていい奴、こっちは歯が綺麗で悪い奴(笑)。
―いまお話しいただいたように、役をつかむことに苦労されることも多いのでしょうか。
いや、結局苦労しても活用されていないことの方が多いから、現場で生まれるものがほとんどですね(笑)。衣装を着てその場に立って、相手がいてやっと出てくる気がします。
失敗を経てたどり着いた「準備をし過ぎない」という方法論
―阿部さんが演じられた榛村は動作や表情など、視覚的な情報を極力削いだ部分に怖さがあると思います。この得体の知れなさは、どのように纏っていったのでしょう?
原作を読んで、榛村の生い立ちなどは頭に入れたうえで演じましたが、説明する芝居は面白くないと思うんです。フラットに見えた方が怖さが増しますよね。パン屋さんのときが親しみやすいほど、刑務所にいるときが怖いと思いますし、逆に言えば刑務所にいる方が本当だとすると、パン屋さんのときは嘘くさく見えるといい。
―気持ち、普段より声が高いようにも感じました。
それは面白いですね! 僕自身は全く意識していなかったです。ひょっとしたら、その部分にも警戒心を解くための何かを無意識で一個入れていたのかもしれません。自分のやり方として、ガチガチに固めていくより、現場で自然と生まれるものの方が多いんです。
―その方法論は、これまでの活動の中で自然と培われていったものなのでしょうか。
そうですね。若いときなどに台本を読んで「こう動いて、こうやってやろう」みたいなものを考えて現場に持っていくじゃないですか。でも着いたら、そんなセットがない場合もあるんです(笑)。自分で勝手に座って演じるつもりでいたら立つことになったり、失敗も増えてしまう。だったら家では何もせず、現場で臨機応変に対応できる方が無駄も省けるし効率的なんですよね。
―白石作品といえば、美術の今村力さん。とにかく役の生活や人物像を美術に入れ込まれる方だからこそ、阿部さんの「現場で吸い上げる」スタイルはよりハマりますね。
そうなんです。「こんなところにまで!?」という仕掛けが無数にあるし、おふたりやスタッフの皆さんが考えてこだわり抜いた場所がもう既にあって、カット割りもできている中に、僕が余計なものを持ちこむと時間がかかってしまう。演技を助けてくれる空間だからこそ、そのまま飛び込んでいけるんです。
取材・文:SYO
撮影:町田千秋
『死刑にいたる病』は2022年5月6日(金)より全国公開
『死刑にいたる病』
ある大学生・雅也のもとに届いた一通の手紙。それは世間を震撼させた稀代の連続殺人鬼・榛村からだった。
「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」。
過去に地元のパン屋で店主をしていた頃には信頼を寄せていた榛村の願いを聞き入れ、事件を独自に調べ始めた雅也。しかし、そこには想像を超える残酷な事件の真相があった―。
監督:白石和彌
脚本:高田亮
原作:櫛木理宇
出演:阿部サダヲ 岡田健史
岩田剛典 / 宮崎優 鈴木卓爾
佐藤玲 赤ペン瀧川 大下ヒロト
吉澤健 音尾琢真
/ 中山美穂
制作年: | 2022 |
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2022年5月6日(金)より全国公開