夢の甲子園、あの日に戻れたら……
誰しも“過去に戻ってやり直したい”と思うことが一つや二つあると思うのだが、私の場合は迷うことなく高校3年生の最後の夏、甲子園を目指した県大会の1回戦に戻ってやり直したい。
今思い起こせばあの時は、前日の夜からおかしかった。当時、我々高校球児は試合の前日にユニフォームを用意し、お袋に背番号を綺麗に縫ってもらい、翌日使うグローブにドロースというオイルを塗って手入れをし、スパイクには靴墨を塗って綺麗に仕上げる等の準備をしたものだが、あの夜は高校生活最後の大会ということもあり、緊張からか気持がふわふわしていた。ユニフォームを用意しスパイクも磨いたのだが、大事なグローブの手入れをコロッと忘れてしまっていたのだ。
そして試合当日の朝、家を出る時になってグローブが見当たらない。そこら中を探したが見つからず、朝から軽いパニックになった。すると、なぜかリビングのソファーの下から大事なグローブが出てきた。誰がこんなところに隠したのか!? それは謎のまま急いで家を出ると、球場に向かうバスの中で監督に見られないように急いでグローブを手入れした。
久保田スラッガーは湯もみ???桐畑トール野球グラブを語る https://t.co/evBKcdzldE @YouTubeより
— 桐畑トール (桐畑ダボ男) (@KiriHemo) April 28, 2020
やる事が無いこんな時期にクローブのお手入れなんてどうでしょう😁 pic.twitter.com/t1pGKjo3nq
球場に着きユニフォームに着替え、アップからキャッチボールと始めるのだが、どうもまだふわふわしている。スタンドにはクラスの友達も応援に来てくれて、応援団やチアガールと盛り上がっている。その光景を見て、さらにふわふわしてきた。そして試合前のノックが始まる。しかし、ボールがグローブに収まらない。これから試合だというのに、グローブからポロポロとボールがこぼれる。やっぱり前の夜、大事なグローブに「明日は難しい打球もしっかりキャッチしてくれよ~」と話しかけながら手入れをしなかったことが頭から離れず、どんどん浮き足立ってくる。
そうこうしているうちにプレイボール! 私は8番サードでスタメンに名を連ねた。初回の相手の攻撃、先頭バッターはバントの構えからヒッティングに変わるバスターで、内野の頭を越されヒットで出塁。すかさず盗塁で、ノーアウト2塁とピンチを迎える。するとウチのエースの牽制球でランナーが飛び出してくれた。これはチャンス! とショートがランナーにタッチをしようと追いかける。すると飛び出したランナーが私のいる3塁へ逃げて来たので、3塁ベース上でショートに向かって「早くボールを投げろ!」と指示を飛ばす。野球ではランナーを挟んだ場合、3塁から2塁へと戻る方向にランナーを追いかけるのがセオリーで、もしランナーをタッチアウトできなくても元の塁に戻るだけなので普段からこんな練習もやってきていたのだ。
しかし、ウチのショートがなかなかボールをこちらに投げない。ボールを持ってランナーを3塁方向にずっと追いかけてくる。私は何度も「早くボールをこっちによこせ!」と大声を出す。するとランナーが3塁ベースに到達する間際に、ショートが急に私にボールを投げてきた! ボールは私のグラブをかすめ、首の左あたりに!! 慌てた私は右手で取りにいくが、何故そんなことになるのか、ボールは私の首をくるりと一周回って、右肩から地面にポトリ……。その間にランナーはセーフ。そこから私の頭は真っ白になりよく覚えていない。
かすかに覚えているのが、相手チームはすかさず初球をスクイズし、それに対し反応が遅れた私は急いでボールを拾ったがホームベースに投げるのはあきらめ、1塁に投げるもオールセーフとなり1点先制されされたこと。監督はすぐさまベンチから出てきて、呆然としている私の交代を審判に告げた。まだ初回のワンアウトも取れないままの交代。そして試合にも負け、甲子園という目標を掲げた3年間、私の高校野球が終わったのだ――。
確かに、甲子園とビリビリには昔から魔物が住んでるって言いますもんね。
— 桐畑トール (桐畑ダボ男) (@KiriHemo) February 19, 2017
もしあの時に戻れるなら、前の夜に戻ってソファーの下に潜り込んだグローブに、しっかりと手入れをするところからやり直したいと今でも思っている。ということで今回のおすすめ戦国映画は、2016年に公開された“過去に戻る”タイムスリップ時代劇『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』だ。
小栗旬が戦国時代にタイムスリップ!『信長協奏曲』
本作は石井あゆみさんによる漫画が原作で、2014年にフジテレビで実写ドラマ化された作品の劇場版。主演は今、私のイチオシ俳優の小栗旬さんだ。この物語は、小栗さん演じる勉強が苦手な高校生サブローが戦国時代にタイムスリップしてしまい、そこで自分とそっくりな容姿の織田信長と出会うところから始まる。そして病弱な自分に代わって信長として生きてほしいと頼まれ、織田家を引っ張って行くことになり……というストーリー展開がなかなか面白い。
ドラマ版ではあと少しで天下統一というところまで放送され、この映画版では安土城の完成あたりから始まる。この物語の面白いところが、サブローが織田信長に成り代わって織田軍団をまとめていくのだが、顔が瓜二つの本物の信長は、ドラマ版の途中から顔を頭巾で隠して再登場し、なんと明智光秀の名で織田家に仕え始めるのだ。そして、自分よりも上手に織田家を運営していくサブローに対し次第に嫉妬を感じ始めるのである。
さらに、山田孝之さん演じる羽柴秀吉は子供の頃、信長に村を焼かれ家族を殺されたため恨みを抱いている人物として描かれていて、表には出さないが腹の中はかなり黒い男。このあたりも新しい発想で面白い。
そしてもう一つ面白いのが、現代から戦国時代にタイムスリップしてきたのはサブローだけでなく、現代の元警官の男が“美濃のマムシ”と恐れられた斎藤道三に成り代わっていて、ドラマ版では西田敏行さんが演じていた。また、道三と並んで戦国時代の“三大梟雄(きょうゆう)”と呼ばれた松永久秀という武将も同じく現代から来たヤクザで、演じるのは古田新太さん。ドラマ版では、この二人とサブローがタイムスリップしてきたことを打ち明け仲良くなっていくあたりも面白かった。また、この作品は決してシリアスな場面ばかりでなくコメディーとして描かれている部分も多いので、歴史に興味が無い方でも楽しめるように仕上がっていて非常に見やすいだろう。
【映画公開まであと42日!】
— 『信長協奏曲』公式アカウント (@nobuconofficial) December 11, 2015
タイムスリップ組の松永さん。
映画ではどんな活躍を見せてくれるのでしょうか!?
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そして映画版の見どころの一つに、柴崎コウさん演じる信長の正室、帰蝶(きちょう)が凛とした気丈な女性に描かれており、ツンとしているのだが次第にサブローとの仲を深め純愛を築いていくあたりも、これまたいい。私も見ていて思わずグッときて、最後には不覚にも頬を濡らしてしまった。
もちろんドラマ版全10話を見てから映画版を見て欲しいが、映画版だけでも楽しめる作品となっている。
【戦国雑学】謎が多い信長の妻と、信長を救った妹
さて今回の戦国雑学は、戦国時代のお姫様について語ろう。
『信長協奏曲』に登場する信長の正室、つまり奥様の帰蝶は、美濃の斎藤道三の娘。美濃から来た姫なので“濃姫”とも呼ばれていて、映画やドラマの作品によっては信長は帰蝶のことを「お濃!」と呼ぶこともある。他にも美濃の鷺山城(さぎやまじょう)から織田家に嫁いできたので“鷺山殿”と呼ばれていたと書かれた記録もあるのだが、元々は信長の父の信秀の代の頃、織田家と斎藤家の同盟を組む証として結ばれた縁組で、いわゆる政略結婚なのだ。
道三の死後、信長は濃姫の実家の斎藤家を攻め滅ぼしている。さらに信長との間に子供がなく、信長の20人前後いる子供たちは全て側室との子なのだ。そして濃姫は、とある寺に父・道三の肖像を寄進したという記録を最後に、歴史から完全に姿を消す。つまり濃姫は信長に嫁いだ後はどうなったのかが全くわからないのだ。研究者の間では15歳で嫁いで20歳で病気で亡くなったという説や、本能寺の変で戦死した説、はたまた本能寺の変の時に安土城にいて、そこから避難し生き延びた説など、様々な説が研究者から出されているが、本当のところは未だに分かっていない。織田信長という戦国時代で最も有名な武将の妻なのに、謎に包まれているのも歴史の面白い所である。
【映画公開まであと58日!】
— 『信長協奏曲』公式アカウント (@nobuconofficial) November 25, 2015
殿と帰蝶の運命は、、、!?
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もう一人有名な戦国時代の姫といえば、信長の妹「お市の方」だ。お市は肖像画も残っているが絶世の美女と言われ、織田家の家臣団の中でも大人気のアイドルのような姫だったという。しかし、やはりお市も戦国時代の慣わしに則って北近江の戦国大名、浅井長政の元へ織田家との同盟の証として嫁いでいく。お市は長政との間に、茶々、初、江という3人の娘(浅井三姉妹)をもうけ、夫婦仲睦まじく織田家の同盟国として暮らした……のだが、時は戦国。織田家が越前(現在の福井県)の朝倉氏を攻めた時、同盟だった浅井長政は義理の兄の信長を裏切り、背後から朝倉氏と挟み撃ちにしようと攻めてくる。この窮地を兄の信長に知らせようと、お市は布袋の中に小豆を入れ、その両端を紐でくくった物を兄の陣に届けさせた。これをすぐさま理解した信長はうまく逃げることができた、という逸話があるのだ。その後、怒った信長に浅井家は攻め滅ぼされ、お市と3人の娘は実家の織田家に保護されるのである。
戦国時代とはいえ、なんとも悲しい別れだ。明日にはどうなるか分からない時代だからこそ、映画やドラマで夫婦の純愛が描かれると、より感動するのではないだろうか。
【映画公開まであと50日!】
— 『信長協奏曲』公式アカウント (@nobuconofficial) December 3, 2015
帰蝶さまとお市っちゃん♡
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文:桐畑トール(ほたるゲンジ)
映画『信長協奏曲』はBlu-ray/DVD発売中、Netflixほか配信中
映画『信長協奏曲』
戦国時代にタイムスリップした高校生・サブローは、奇しくも同じ顔をした織田信長と出会い、信長として生きることになってしまう。はじめは逃げ腰だったサブローであったが、戦の惨状を目の当たりにするにつけ、織田信長として生きる覚悟を決め、戦のない世をつくろうと思い始める。
歴史音痴のサブローは、史実を知らないまま、桶狭間、上洛、金ヶ崎、浅井朝倉との戦い……と歴史通りのことを成して、ついに安土城を完成させた。これで天下統一も間近と思った矢先、ふと手にした歴史の教科書で自分(=織田信長)がもうすぐ死ぬ運命にあることを知る。
信長を狙う敵は多い。彼を怨んで暗殺の機を窺う秀吉や、彼に嫉妬する本物の信長・明智光秀も虎視眈々と彼の寝首をかこうと狙っていた。光秀は、自ら信長の座を手放したにも関わらず、恒興をはじめとする家臣の信頼や妻・帰蝶の愛を勝ち得ているサブローに憎しみを抱くようになっていたのだ。
死が迫りくる中、信長は運命に抗い、生き抜こうと決意。その思いの表れとして、帰蝶との結婚式を企画する。その場所は京都・本能寺。それを知った秀吉は、光秀に本能寺で信長を討つことを提案するのだった……。
刻一刻と戦況は激しくなっていく。信長は歴史を変え、平和な国を築くことができるのか!? 1582年、本能寺で彼を待ち受けるものとは……?
制作年: | 2016 |
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監督: | |
脚本: | |
出演: |
Blu-ray/DVD発売中