伝説的ホラーのフランチャイズ最新作
テキサスに行ったら、人間の顔の皮を被った大男がチェーンソーを持って追っかけてきたんです……。
「ホラー映画」という枠を超えて映画史に燦然と君臨する『悪魔のいけにえ』、そのフランチャイズに新作が登場。『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』は1974年の1作目から数えること9本目の作品であり、今回は今までの続編をすべて取っ払って、現代を舞台にした1作目の続編という位置付け。2018年からはじまった『ハロウィン』シリーズ(1978年~)と同じようなスタイルだ。
物語はもちろんいたってシンプルで、テキサスの寂れた田舎町に先進的な価値観を持った若者集団が新規ビジネス発足のために乗り込むと、そこにはレザーフェイスがいた、というもの。
本作で描かれるテキサスの田舎町には、人種差別と白人至上主義の象徴であるアメリカ連合国のレベル・フラッグがいまだに垂れ下がっている。そこで暮らす老人は、黒人青年を目の前にして平気で蔑称を使う。本作の監督であるデヴィッド・ブルー・ガルシアは、コカイン密輸のためにわざわざ腕を骨折してギプス姿になりメキシコとの国境を越えようとする男の運命を描く長編『Tejano』(原題:読みは「テハーノ」。スペイン語で“テキサス人”という意味)で長編監督デビューしたテキサス育ち。いまだにテキサス在住らしく「私はオリジナルの監督トビー・フーパーと共同脚本家キム・ヘンケル以来、生粋のテキサンだ。スタジオは最適な男だと思ったのでしょう」と胸を張る。
相変わらずの健脚ぶりを披露するレザーフェイス
しかしまぁ正直なことを書くと、『悪魔のいけにえ』の続編としての本作の出来は決して良くはない。始祖トビー・フーパー監督が手がけた1、2本目以外と比べても、例えば2003年のリメイク1作目『テキサス・チェーンソー』とその続編『テキサス・チェーンソー ビギニング』(2006年)にも劣ってしまっている。
1作目の撮影で使われたあのチェーンソーが再び使われていても、仏造って魂入れず。訪問者にびっくりしたり親父に怒られちゃったりする人間レザーフェイスではなく、相変わらずの健脚っぷりで突進してくるレザーフェイス。それにシリーズ本来の持ち味である陰惨な雰囲気はじゅうぶんだったが、同時に併せ持っていた突き抜けたユーモアも少なかった。
しかも50年前は“生活”であった“殺し”が、本作では“復讐”に成り下がってしまった。そして、1作目『悪魔のいけにえ』の生き残りであるサリーの再登場と、サバイバーズ・ギルト(事件や事故から生還しながらも自分だけが助かってしまったことによる罪悪感)を抱えながら、さらに運悪くレザーフェイスに追っかけられることになってしまった若者の邂逅は、せっかくならもう一歩踏み込んでほしかった。
撮影1週間で当初監督であったライアン・トヒルとアンディ・トヒルの兄弟がレジェンダリーピクチャーズから「クリエイティブ上の意見の相違」によって解雇され、現在のデヴィッド・ブルー・ガルシアに代わったというトラブルのせいなのかもしれない。
復活したホラーアイコンは今後どう進化する?
ただ、これがもし、『悪魔のいけにえ』に関するすべての記憶が消えて1本の映画として観た時は、スカッと楽しいバイオレンス・ホラーとして一見の価値がある作品として映っていたのかもしれないとも思う。本作のプロデューサーは、かのサム・ライミに見出されリメイク版『死霊のはらわた』(2013年)や『ドント・ブリーズ』(2016年)の監督を務めたフェデ・アルバレスで、「もっと! 血をもっとだ!」と言い続けていたらしく、オリジナル版にはほぼ皆無だった直接的なスプラッター描写は満載だ。
ひまわり畑からひょっこり顔を出すレザーフェイスとか、なかなかブルージーで印象的なショットもいくつかある。主人公ライラ役のエルシー・フィッシャーが気になった方は、気鋭のスタジオA24が作り出した傑作青春映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(2018年)をどうぞ。
ちなみに、本作のレザーフェイスは設定上おそらく75歳ぐらい。海外でも「70過ぎてあんなに動けるのか?」と議論になっていて、別人説も浮上したりとちょっとした騒ぎになっているが、ほぼ同い年でいまだアクション映画に出続けているシルヴェスター・スタローンがいるので、よけい混乱を招いている。
しかし、『13日の金曜日』シリーズ(1980年~)のジェイソン・ボーヒーズが、シリーズ中盤以降はただのモンスターとなっていったのと同じ歴史を繰り返していくのならば、レザーフェイスもそのうち宇宙に行ったりするかもしれない。それはそれで悔しいけど観てみたい気もする。それこそ本当の意味での「怖いもの見たさ」だったりするのだけれど。
文:市川夕太郎
『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』はNetflixで独占配信中
『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』
メロディとそのティーンの妹ライラ、友人のダンテとルースは、理想的な新しいビジネスを始めるため、テキサス州の人里離れた町ハーロウに向かいます。しかし、夢も束の間。地域の住民たちを悩ませてきた血まみれの狂った連続殺人犯、レザーフェイスの棲家に土足で踏み込んでしまい、悪夢のような世界へと一転します。住民の中には、1973年に起きた悪名高き殺人事件の唯一の生存者であり、復讐の鬼と化したサリー・ハーデスティの姿もありました。
制作年: | 2022 |
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監督: | |
脚本: | |
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