自身も病と闘いながら書き上げたという小坂流加さんによる同名小説を映画化した『余命10年』が2022年3月4日より公開。発症率が数万人に一人という不治の病に侵された茉莉と同窓会で再会した和人の、かけがえのない日々をつづった美しくも切ないラブストーリーとなっている。
映画『ヤクザと家族 The Family』(2021年)などで注目を集める藤井道人監督がメガホンを取る本作。生半可では演じられない難しい役柄に挑んだのは、若い世代を中心に絶大な支持を得る小松菜奈と坂口健太郎だ。
今回はCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送中の映画情報番組「映画館へ行こう」のMC小林麗菜が、高林茉莉役の小松菜奈にインタビュー。身を削る役作りや印象的だった撮影エピソードについて語ってくれた。
「茉莉を演じた先に絶対に見えるものがある」
―『余命10年』拝見させていただいたんですが、ハンカチとマスクが搾れるんじゃないかっていうくらい、びっしょびしょになって。
(笑)。
―お家に帰ってふと思い返したときも、ウワーって泣いてしまって……。でも悲しいだけじゃなくて、本当に1日1日を自分がどう生きなければならないかとか、改めて考えさせられる作品でした。本当に素晴らしかったです。
良かったです、ありがとうございます。
―今作のオファーを受けたとき、どういったお気持ちでしたか?
そうですね……作品自体も役もすごく重みがあって、簡単に答えは出せなかったんです。「すぐに入れる」役ではなく、ちゃんと一つ一つの段階を踏みました。小坂さんのご家族に会わせていただいたり、その一瞬でいろんなことが頭の中をかけ巡ったんです。なのでオファーをいただいたときに藤井監督とお話をさせていただいのですが、その時の監督の目や、熱量を見て心をつかまれたというか、これはやらないと後悔するだろうな、茉莉を演じた先に絶対に何か見えるものがあるだろうなと思って、ぜひ私も一緒に戦いたいなと。
―出演作を決める際に躊躇することは今までにもあったんですか?
今まではあまりありませんでした。実際に小坂流加さんが書かれた茉莉という役には、きっと小坂さんご自身の気持ちも入っているんだろうなと思いましたし、リアルとの葛藤の狭間みたいな部分も原作を読んでいてすごく感じました。こんなに重大な役をやらせていただくことになり、ご家族の方もいらっしゃいますし、原作ものでこういう気持ちになるのは初めてでした。
―なるほど……。脚本を読まれたときも、今までの作品とは違った心情になりましたか?
はい。監督と小坂さん(のご家族)とリモートで対談させていただいて、そのとき聞いたことや、ご病気について伺ったことなどを踏まえて藤井監督が加筆をして、その“生きた言葉”によって台本もどんどん変わっていったんです。だから自分が台本を読んでいても、何度もグッときましたし、冷めることがない感情がそこにありました。それはスタッフさんも言っていて、何度読んでも涙が出る……そういう台本ってなかなかないんです。
やっぱり監督がちゃんとリサーチして大事にしている部分だからこそ、セリフに気持ちも入っているし、すごく心が動かされるんだろうなと。本当にいい台本だなぁと、何度読んでも思いました。
「(俳優は)覚めてしまってはできない仕事」
―小松さんの演じる茉莉は本当に魅力的な女の子ですが、演じてみていかがでしたか?
そうですね、受けた言葉をそのまま感情的なもので返すのではなくて、一回自分の中で押し殺して押し潰して、それを言葉にするというか。やっぱり一回「うっ!」って止める瞬間がお芝居の中で常にあって、素直に気持を出せない、いつも「笑顔でいなきゃ、笑顔でいなきゃ」っていう部分なども、撮影に入る前に監督とお話していました。たぶん人前ではすごく明るくて笑顔なんだけど、急に一人になった時、未来のことや現実というものを孤独に考えてしまう時間があると思うから……と。あとは役柄的に1年間ずっと減量していて。
―1年間、ずっとですか?
最初の9月のシーンは楽しくて明るい部分を1週間くらい撮っていたんですが、そこからすごく間が空いて、年明け1月にまた撮り始めて。そこからどんどん減量していかなきゃということで、初めて現場でロケ弁を食べませんでした(笑)。みなさんと一緒にご飯を食べるということがなかったです。
―え~! 何を食べていたんですか? 長丁場の現場なんてロケ弁2個くらい食べないとやってけないですよ(笑)。
しかも差し入れで鰻のお弁当とか頂いたことがあって、「うわっ、食べたい!」って(笑)。いい匂いする……って思いながら、もう“無”ですよね。撮影中もすごいお腹が鳴っちゃって、一番感情的なシーンなのに、静かな時に限って鳴っちゃったり……。でも私は常にお腹が鳴ってるので、もう諦めてくださいっていう感じだったんですけど(笑)。みんなも「お腹鳴ったの誰?」って探そうとするんですよ。でも自分の中でもう慣れてきちゃっていて、ずっと犯人捜しをされてたんですが敢えて言わなくて(笑)。
―心の中で「はい、私です私です」みたいな(笑)。
でもカメラマンさんとかは気づいてましたね(笑)。それでざわざわとしている中、(挙手して)「あの、私のお腹が鳴りました」みたいな。
―察してよ! って。
茉莉は食事制限もあり、運動もできなくて、呼吸が苦しくなって倒れてしまったりするので急に走ったりはできないんです。そういう部分でも「あぁそうだ、いま走れないんだ」「急いで歩けないんだ」っていうことがお芝居の中でもあって、ここは走っていきたい! と思うところで走れない。初めてそういう制限とか、自分から気を付けないといけない注意点はたくさんありました。
―本当に要所要所で意識しながらお芝居をされたかと思いますが、一番大変だったシーンは?
やっぱり減量していると集中力が本当になくなってしまって。そうすると“感情”が一気に出なくなっちゃうんです。それでも粘って撮って、何回も何回も……。例えばキッチンで和人と向かい合うシーンなんかは燃料切れというか、人間って食べてないとこんなに感情もエネルギーも出ないんだ……と思いました。
でもすごく大事なシーンだし頑張らなきゃ! という焦りもあって余計に出なくなってしまったりして、そこはもう何回もテイクを重ねて。あとは二人が再会する橋のシーンは2日間で撮ったんですが、1日目は……すっごい寒かったんですよ。
―本当に寒そうでしたもん。
あと電車の音がすごすぎて、何を言ってるか聞こえなかった(笑)。そういう色んな問題が起こってしまって、監督が判断して違う日にトライしようということになりました。私がわーっていっぱい食べるシーンとかもあったので、自分の感情がいっぱいいっぱいすぎて付いていけない部分もあったりして、「お芝居って大変!」と思いました。お芝居って常に自分じゃない人物を演じなきゃならないので、覚めてしまってはいけない仕事だなと思いました。そうすると一気に感情も出なくなってしまうし、スタッフさんに待ってもらうのも申し訳ないし。
……っていう気持ちと、なにかしら出さないといけないっていう気持ちの葛藤とプレッシャーで大変なシーンもあったんですが、監督も話しかけに来てくださったりとか、坂口くんもそばに来て「いまの茉莉もすごく良かったよ」とか優しい言葉をかけてくれるんです。でも私、そこで負けず嫌いが出ちゃって(笑)。「うーん、分かってるんだけど、まだ良いのが出せない!」みたいな。その葛藤と自分の繊細な部分も出ちゃったりして、多分かなり訳わからないことになってました。
―それでは最後に、みなさんにメッセ―ジをお願いします。
完成した映画を観て「明日から生きよう」と思えました。一瞬一瞬の時間も無駄ではないし、後悔なく生きなきゃと自分でも思いました。この1年間は私にとってかけがえのない時間でしたし、自分の人生にとって「あの時間は大好きな時間だったな」と改めて実感できました。この映画は、いま生きている人たちに、本当に全員に観ていただきたいです。この作品が届いたらいいなと思います。みなさんの目で、ぜひ映画館に行って観てもらえたら嬉しいです。
取材:小林麗菜
撮影:川野結李歌
スタイリスト:二宮ちえ
ヘアメイク:小澤麻衣(mod’s hair)
『余命10年』は2022年3月4日(金)より全国公開
『余命10年』
数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知った二十歳の茉莉。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて生きていた。そんなとき、同窓会で再会したのは、かつて同級生だった和人。別々の人生を歩んでいた二人は、この出会いをきっかけに急接近することに——。
もう会ってはいけないと思いながら、自らが病に侵されていることを隠して、どこにでもいる男女のように和人と楽しい時を重ねてしまう茉莉。——「これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」。
思い出の数が増えるたびに失われていく残された時間。二人が最後に選んだ道とは……?
制作年: | 2021 |
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監督: | |
脚本: | |
音楽: | |
出演: |
2022年3月4日(金)より全国公開