志(こころざし)の映画
アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国各国から集められた精鋭で編成された特殊部隊がイスラム・テロと戦う『オペレーション・ローグ』『オペレーション・ローグ2/ザ・ハント』『オペレーション・ローグ3/デス・オブ・ア・ネーション』(2019~2020年)は、三部作というより1本の長編を3つに分割したような構造のアクション映画です。
ただ、残念ながらストーリー展開がユルいうえにギクシャクしていて、アクション(銃撃戦)の迫力もパッとしません。脚本・監督、そして製作陣にも名を列ねているマイク・ガンサーは、『ワイルドスピード』シリーズ(2009年『MAX』ほか)や『トランスフォーマー』シリーズ(2017年ほか)などの大作でスタントコーディネーターとして活躍している人物で、「自分もアクション映画を作りたい!」と資金を掻き集め、脚本を書き、スタッフ・キャストを集め、アメリカ映画としては驚異的なわずか45日間で3本を撮影したとのことです。
そのあたりを勘案すると、営業的な理由(コンテンツ維持とか事務所との関係)で製作される大作よりも、よっぽど“志(こころざし)”のある映画とは言えるでしょう。
極悪テロリスト「ブラックマスク」
『オペレーション・ローグ』
暴力渦巻く中東某国で、世界秩序破壊を目論むテロ組織が勢力を拡大していた。首領は極悪非道なテロリスト、<ブラックマスク>。その脅威を排除するためにアメリカ大統領が発案したのが、米英仏露中~つまり国連常任理事国~の精鋭7人を集めた「プロジェクト・ローグ(ならず者)作戦」である。
ブラックマスクが計画する化学兵器サリンを使ったテロを阻止せんと行動を開始するローグ部隊だが、最初の作戦で1名が戦死。やがて隊長のダニエル(『ウルヴァリン:SAMURAI』[2013年]などのウィル・ユン・リー)が捕らえられてしまう――。
登場人物が喋り始めると延々と喋り続けるという、この映画の特徴(短所)がいきなり始まります。もうちょっと脚本をブラッシュアップした方が良かったんじゃ……という感は、やはり否めません。
また予算と時間の制約により、撮影はカリフォルニアにある2つの映画撮影所でのみ。それも基本セットにほとんど手を加えることなしに行なわれたので、3作品とも同じような絵が続くのも特徴のひとつです。
『オペレーション・ローグ2/ザ・ハント』
ブラックマスクに虐待され続けるダニエルは、心身ともに限界に追い込まれていた。隊長不在の事態に混乱し内部対立が続くローグ部隊。だが、ついにロシアFSB(連邦保安庁:KGBの後身)の女性狙撃兵ガリーナが、ダニエルの監禁場所を突き止める。団結したローグ部隊は奪還作戦に向かう――。
『オペレーション・ローグ3/デス・オブ・ア・ネーション』
苛酷な捕虜生活で精神的にもボロボロのダニエルだったが、強引に最前線に復帰。時あたかも、サリン・テロは実行段階に移行しつつあった。ローグ部隊はブラックマスクを倒し、テロを阻止できるのか――。
ブルパップ型ライフル「AUG」
基本的にM16系のアサルトライフル(あるいはMP5サブマシンガン)を装備するローグ部隊ですが、フランス特殊部隊から出向してきたジャックだけがステイアーAUGを使っています。このオーストリア製のアサルトライフルは、ブルパップ型と呼ばれる形態のライフルです。
通常形態のアサルトライフルが前方から銃身・マガジン(弾倉)・機関部・ピストル型グリップ・ショルダーストックと構成されているのに対し、ブルパップ型はピストル型グリップを前に出し、マガジンと機関部をショルダーストック内に収めています。このためブルパップ型は全長を大幅に短縮することができ、これは車両やヘリに乗って機動する現代歩兵にとっては大きな利点となるのです。
AUGがオーストリア軍正式となったのが1977年、その後、ニュージーランド軍やオーストラリア軍などが制式化、さらにフランスやドイツなどの特殊部隊が一部的に採用しています。
ちなみに読者諸兄姉も御存じの、新素材(プラスチック)を大胆に取り入れた自動式拳銃「グロック」も80年代のオーストリアで誕生した拳銃で、銃器開発において彼の国は侮れない存在なのです。
ユニークな外見のAUGは映画に登場することも多く、例えば『ニキータ』(1990年)におけるバスルームからの狙撃シーンで使われています。
“La Femme Nikita” (1990) de Luc Besson, una cinta para ver en @NetflixLAT https://t.co/clJlreFe9F pic.twitter.com/MvQKuVCoYA
— Cultura Colectiva (@CulturaColectiv) September 23, 2016
ドリームチーム
第二次世界大戦期にファシズム勢力打倒を旗印に連合した米英仏とソ連、中国(当時は中華民国)が再び結集して対テロ戦争を戦う、というのが本シリーズの肝です。
けれども、実は大戦期からこの5か国はてんでバラバラで、自分勝手な方向を向いていました。近年ではロシアと中国の強兵政策によって国連常任理事国間で対立が先鋭化してるのも、御存じの通りです。
そんな今日においては、ここで描かれるローグ部隊は現実には有り得ない、まさに“ドリームチーム”と言えるでしょう。
文:大久保義信
『オペレーション・ローグ』トリロジーはCS映画専門チャンネル ムービープラス「オペレーション・ローグ イッキ観!」で2022年2月放送
『オペレーション・ローグ』トリロジー
未だ紛争が絶えず、混乱が続く中東某国。そこでは世界の均衡を破壊しようとする謎の男、ブラックマスク率いるテロ組織が暗躍していた。新たなテロ計画を察知した国連常任理事国は、米国、英国、フランス、ロシア、中国軍の精鋭7人による特殊部隊を結成、“プロジェクト・ローグ”作戦を発動する。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラス「オペレーション・ローグ イッキ観!」で2022年2月放送