よくある密室モノと思いきや
『TUBE チューブ 死の脱出』は、タイトルとメインビジュアルの雰囲気からして「はいはい、出ました。きっと『CUBE』みたいな映画なんでしょ」程度の気持ちで観ていた。しかし、まったくノーマークだったうえにハードルを低く見積もっていたこともあって、かなり“ヤラレタ感”があった。
監督はフランス人のマチュー・テュリ。フランス映画と聞けば、優雅でお洒落なラブストーリーなんかをベタに思い浮かべてしまいがちだ。ところが2000年を過ぎたあたりから、この国ではホラー映画がものすごいことになっている。『ハイテンション』(2003年)、『屋敷女』(2007年)、『マーターズ』(2008年)などなど、名作フレンチホラーと称される作品が次々と出てきたのだ。そしてこの『TUBE チューブ 死の脱出』は、またフランス映画が間口を広げてきたな! と感じさせる作品だった。
――子供を亡くし絶望している主人公(ガイア・ワイス)が、色々あってエアダクトみたいな暗くて狭い空間に監禁される。近未来的なコスチュームを着せられ、手首には光る腕輪。そこにはカウントダウンのような謎の数字が表示されている。なぜこんな場所にいるのか軽くパニックになりながらも、ブレスレットの光を照明がわりにダクトを進んでいくと、そこが無数のチューブをつなげた迷路のような空間だったことが分かってくる。
もとは人間だったと思しき腐臭を放つ肉塊、じわじわと押し迫ってくる天井、火炎放射、洪水のような水責め……彼女はそれらを必死にクリアしながら出口を探していく。
こういう映画の何が好きかって、退屈な前説段階をすっ飛ばして、いきなり本命シチュエーションからお話が始まるところ。登場人物が限られているから情報量もシンプルだ。テュリ監督は過去のインタビューで、『CUBE』(1997年)や『[リミット]』(2010年)のように閉鎖空間の恐怖をうまく使いながら物語を展開したかった、と語っている。“TUBE”だけに本作の舞台もすさまじく閉鎖的な空間なのだが、監督の言葉通り視点=カメラワークに工夫が凝らされていて、最後まで観客を飽きさせない。
シチュエーション“SFアクション”ホラー!?
いわゆるシチュエーションスリラー/ホラー映画は近年、様々な形に進化している。お馴染みの『CUBE』や『ソウ』シリーズ(2004年~)、最近だと『プラットフォーム』(2019年 ※異論は承知だが、僕はシチュエーションホラーだと思っている)なんて作品もあった。この『TUBE チューブ 死の脱出』が新鮮なのは、実はSFアクションホラーだから。SFなのかよ!? とツッコまれるかもしれないが、ほんとにSFだったんですよ!!
状況説明いっさいナシの“謎が謎を呼ぶ”展開でありながら、最後まで観ていれば解決……したりしなかったりする。ただ、その解決できなかった部分も物語の余白として、観終わった後にああでもないこうでもないと話し合える含みをもたらしている。
と言いたいところだが、テュリ監督いわく「その疑問や謎は全て脚本に書かれている」そうで、劇中でしっかり表現されているし説明もしているとのこと……。が、中には誰も見つけられないんじゃないかと思うくらいがっつり隠されているものもあるんだとか(どないやねん!)。
僕はこの映画を観ていて、なぜか『プレデター2』(1990年)を思い出した。そして、人生観や死生観を問いかけているようにも感じた。映画終盤、主人公の“ある選択”は予想できていても胸熱だったが、正直シチュエーションものとしてはもう少し凝ったトラップがあってもいいのでは、とも思った。でもテュリ監督は、トラップに原始的なエレメントを入れたかったからシンプルにした、ということを後で知って納得できた。
話は変わるが、バンドマンの多くがツアー中は車で移動することがほとんどで、僕が住んでいる兵庫の西宮から秋田まで12時間近くかけて向かった時は、車内の閉塞感が相当キツかった。だから主人公の心情を考えるとめちゃくちゃ共感するし、きっと混乱と恐怖で頭が真っ白になるんじゃないかと思う。彼女、よく立ち向かってるなぁと。
なので本作は、過去に自分が経験した“閉鎖空間エピソード”を思い出しながら観ると恐怖がマシマシになります! そして「これ系は観飽きたよ~」という人でも新鮮に楽しめる映画だと思いますよ!!
文:ゾニー(KING BROTHERS)
『TUBE チューブ 死の脱出』は2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、2月24日(木)よりシネ・リーブル梅田で開催「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて上映
『TUBE チューブ 死の脱出』
暗く狭いチューブの中で目覚めた女。腕にはカウントダウンの表示が光るブレスレットが取り付けられていた。理由もわからずチューブ内を移動すると、別のチューブに辿り着く。チューブはまた別の空間に繋がり、まるで迷路のよう。しかも、各チューブには天井が下がってきて押しつぶされそうになったり、大量の水や火炎が噴き出すなど様々トラップが仕掛けれられていた! それぞれの仕掛けにタイムリミットが課せられ、考える間もなく次々と恐怖が襲い掛かる! 延々と続く死のチューブ。命懸けの脱出劇に出口はあるのか!?
制作年: | 2020 |
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監督: | |
脚本: | |
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2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、2月24日(木)よりシネ・リーブル梅田で開催「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて上映