「映画作りの仲間入りがしたい」
その唯一無二の魅力を持ち味に、2021年だけでテレビドラマ2作品、映画3作品に出演した、いま引っ張りだこの実力派俳優・柄本佑へのロングインタビュー第3回。俳優、監督、そして観客として映画と常に向き合い続ける柄本が、映画に託す想いとは? 幼少期の映画体験から現在の映画に対する姿勢まで、俳優・柄本佑を紐解く。
「ケリー・ライカート作品を観て勇気が湧いた」
―小さな頃からたくさん映画をご覧になっていると思いますが、昔はよく観ていたけれど今は卒業した映画、みたいなものはありますか?
そうですね……当時観た記憶と印象が違うな、と感じた映画は『ゾンビ』(1978年)かな。(昔は)もっとスピード感があってビビッドに来るイメージだったんですが、去年か一昨年にディレクターズカット版の4Kリマスター上映がやっていて、観るしかない! と思って映画館に行ったんです。そうしたら「あれ、こんなにのんびりした映画だっけ?」と思っちゃいました。昔ほどスリリングじゃなかったんです。
―ゾンビ映画のスピードがどんどん上がっているので、体感が違ったのかもしれないですね。
それもあります。(『ゾンビ』の)内容としては、人間は隠れて息を潜めているか、大胆な行動に出るかの二択じゃないですか。昔は「息を潜めてる時にゾンビ来たらどうするんだろう!」と思いながら観ていたんですが、今になって観ると「平和だな〜」というシーンが多くて、サバイバル感が全然なかった。面白いは面白いんですけど、のんびりしすぎじゃないかって。
―最近、4Kリマスター版の再上映が多いですよね。
そうですね。昔見た記憶と印象が違うものって結構あって、『ゾンビ』はその最たるものだったなと思います。あとは、ケリー・ライカート監督特集で『ウェンディー&ルーシー』(2008年)を観ました。他に『リバー・オブ・グラス』(1994年)、『ミークス・カットオフ』(2010年)を観たかな。
【1/22(土)・24(月)・26(水)・28(金)上映作品】
— 早稲田松竹 (@wasedashochiku) January 17, 2022
『ミークス・カットオフ』
1845年のオレゴン。広大な砂漠を西部へと向かう白人の三家族は、近道を知っているというミークを雇うが、一向に目的地に近づく様子はなく、次第に不信感が漂い始める…。西部開拓神話を現代の寓話として再構築した歴史的一作。 pic.twitter.com/fiVQpFrD7N
『ミークス・カットオフ』は西部劇なんですが、作中に出てくる「ミークス」っていう荒野を歩かせるガイド役が、現実でも本当にそういうガイドをやっているらしくて。馬を連れて、荒野で3つくらいの家族をガイドして遭難したり、インディアンが襲ってくるから武装したり、ただただそれだけの映画なんですが、人の歩き、一挙手一投足、ひいては馬の尻尾の動きひとつすら見逃さない“みなぎり”がすごいんです。画がバキバキなんですよ。冒頭からわけのわからない緊張感があって、観終わった後に「これ何の話……?」っていう(笑)。でも、良いんです。
こういう作家さんが精力的に撮れているということに、すごく勇気をもらいました。ガンガン一線でハリウッドで撮っているとか、アメコミ映画とかではなく、自分の企画で作品を撮れるというのは、かなり勇気が湧くなと。
#ケリー・ライカート 監督の初期4作品🎬
— U-NEXT (@watch_UNEXT) December 25, 2021
『リバー・オブ・グラス』
『オールド・ジョイ』
『ウェンディ&ルーシー』
『ミークス・カットオフ』
を2022年1月17日(月)より
U-NEXTで独占配信します💁♀️
お楽しみに☺️✨#UNEXTならイチバンあるhttps://t.co/OptIHPIu49
―かなり映画館に行かれていたようですね。
毎年「何本見た」ってメモするんです。それが毎年の楽しみだったんですが、コロナになってから数えなくなりました。コロナ以前で数えていたものだと、最後は年間156作品とかですね。そのあとは映画館が閉まっていたり、家族もいるのでなかなか観に行けず、だいぶ厳選するので30〜40が関の山という感じで。
家では映画、観られないんです。2時間もテレビの前に座っていられないし、画面も小さくてタイムが出るじゃないですか。いつトイレに行こうとか、用事があって止めようと思えばいつでも止められますよね。そういう環境って、ちゃんと映画を観させないと思います。どこか映画を下に見て、自分が上に立ってしまう。その“世界”を掌握できてしまうから。
僕は、映画って“見上げる”ものだと思っていて。あと、他人と観るということも重要で、自分は面白いと思っていても、中にはつまらないと思ってる人や寝てる人もいるし、別の考えごとをしてる人もいる。だから、他人同士で限定された時間に“人生を共有する”ということが映画の第一にあるんじゃないか、そういうことが映画にとって大事なんじゃないかと思っています。DVDもたくさん持っているんですが、観ないんですよね。好きな映画を手元に置いておきたい、という感じでコレクションしています。
非常に分かりづらいがDVDやらBlu-rayの元祖的な?神的な位置に配置してみた。
— 柄本佑 (@tasakueats) May 9, 2020
彼ら(モチロンVHSのことよ?)の喜コンドルが羽ばたいていることを願う! pic.twitter.com/LPjWQJO3Bd
「映画とかドラマって、実はそんなに自由じゃない」
―ではコロナ禍で外出を自粛していた期間に、自宅で映画は観なかった?
多分、自分の取材をしていただく前に確認するとき以外、家では一本も観ていないと思います、特にコロナ禍では。最初は「あの映画でも観直そうかな」なんて思ったりもしたんですが、結局観なかったですね。観る気しなかった。ただ『トマホーク ガンマンvs食人族』(2015年)っていう映画、それも西部劇なんですけど、周りで話題になっていたので「たぶん映画館でやらないよな、いよいよ家で見ちゃうか!」と思っていたら、新文芸坐で一晩だけレイトショーでかかったんです。それを観に行って、本当に自宅で観なくてよかったと思いました。家で観ようと思っても無理でしたよ。
『トマホーク ガンマンvs食人族』応援上映で例の音声を発したい(しません) pic.twitter.com/cUpEDi5S6D
— V8J絶叫上映企画チーム (@V8Japan) October 1, 2020
―そういえば佑さん、TikTokやられてますよね。
僕、コロナ禍でずっとTikTok見てました。みんなよく面白いこと考えるよなと。女子高生とかギャルの文化が好きなんですよね。期間限定というか、一生ギャルではい続けられないからこそ、セミみたいにその間は鳴き続けろ! という感じで、最強なんです。ギャルというものに哲学を感じるし、天才集団だなって、リスペクトしています。ひさしぶりに『きみの鳥はうたえる』(2018年)の三宅(唱)監督に会った時に「自分が高校の時にTikTokあったらな~」って言ったら、「佑は変わらないよ。(TikTokが)あったとしても陰で仲間と一緒にいて、やってないよ」って言われて、ちょっと傷つきました(笑)。
―今後TikTokなどのツールはどうなっていくでしょうか。
無くすってわけにはいかないですもんね。これだけ自分の意見や表現をスマホで出せちゃう時代なので。映画はスマホでも撮れますけど、誰でも撮れるというのと同時に、誰にでもできることではないと感じるわけです。どっちが本物でしょう? と。それはどっちも本物なんですが、映画にも一線があって、“目”を鍛えなければいけないんですよね。
映画とかドラマって実はそんなに自由ではなくて、“絶対にこれ”という枠組みは明らかにあるんです。でも、今はその枠組みが見つけにくい環境にある。じゃあどこからが映画なのか? それを自分なりに見つける目が今、問われるところなのかなと危機感を覚えています。
「いつか映画というものに、少しでも触れられる体験ができれば」
―そんな“映画”は、柄本佑さんにとってどんな存在ですか?
うーん、難しいな……。「憧れ」ですかね。初めて映画づくりに参加したのは13歳の時、『美しい夏キリシマ』(2002年)でした。宮崎県えびの市での2ヶ月間の撮影で、ホームシックで毎日泣いていましたね。親元を離れたことがなかったので、とにかく必死で毎日つらかったんですが、普通の日常に戻った時、それが楽しいものだったことに気づいたんです。
学校の授業は、決まった時間に始まって決まった時間に帰るのがつまらなくて。撮影期間は大人とばかり関わっていたし、同級生たちが子どもっぽく感じてしまったんですよね。だから“俳優になりたい”というよりも、映画作りの仲間入りがしたいというのが一番の動機で、この世界に入りました。
でも、こうやって今も映画に関わりながら、いまだに(映画が)わからないですし、知れば知るほど、観れば観るほどわからなくなっていくから、いつか映画というものに少しでも触れられる体験ができれば、と思っています。『美しい夏キリシマ』の時は確実に“触れて”いました。
―特別に感じられる映画は、めったにないということですよね。
その感覚に近いものだと、『きみの鳥はうたえる』の撮影も、映画というものの角(かど)に触れられたかなと。13歳から映画をやっていて、常に大人たちの場所にお邪魔させてもらっているという感覚がある中で、『きみの鳥はうたえる』の撮影は僕が30か31歳になる年だったんですが、初めての作り方を経験した映画でした。
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— 映画『きみの鳥はうたえる』 (@kiminotori) September 10, 2020
『きみの鳥はうたえる』
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いちばん最初は、三宅監督と松井(宏)プロデューサーに直接誘われたんです。「映画作りませんか」と。そこから1年半くらい(プライベートで)お付き合いして、台本や準備稿を用意しました。そこから1年ほど延期になったりしつつ、その期間も頻繁に飲みに行って、そういった関係性の中からいよいよクランクインして、撮り終わってからも編集に1年くらいかかったんです。自分もこういうやり方で映画を作る年齢にさしかかったんだなと思いましたね。
撮影もかなり時間をかけて粘って、寄り道しながら1本の映画ができあがることもあるんだ、と。当たり前のことなんですけど、特別な感じがしましたね。より自分の人生と関わった、僕にとっては新しい経験だったんです。
取材・文:稲田浩
撮影:大場潤也
スタイリング:望月唯
ヘアメイク:星野加奈子
ロケコーディネート:
ジャケット¥107,800(KENZO/KENZO Paris Japan TEL:03-5410-7153)、スウェット¥25,300、パンツ¥36,300、ソックス¥5,500(AURALEE)、サンダル¥83,600(AURALEE MADE BY FOOT THE COACHER)全てAURALEE TEL:03-6427-7141
室内コーディネート:
ジャケット¥52,800、Tシャツ¥15,400、パンツ¥36,300、ソックス¥5,500(AURALEE TEL:03-6427-7141)
『殺すな』は2022年1月28日(金)より全国のイオンシネマ89館にて劇場上映、2月1日(火)よる7時より時代劇専門チャンネルでTV初放送
『真夜中乙女戦争』は2022年1月21日(金)より全国公開
『殺すな』
裏店の長屋で筆づくりの内職をして糊口をしのぐ浪人・小谷善左エ門は、同じ長屋に住む船頭の吉蔵から、一緒に暮らすお峯の様子を見張るように頼まれていた。
元は船宿の女将と抱え船頭だった2人は、密通のうえ駆け落ちして、ここで隠れるように暮らし始めたものの、やがてお峯は退屈な日々に虚しさを感じ始める。
気晴らしのため川向こうへと架かる橋を渡ってみたい⋯との思いに駆られるお峯と、居場所が露見することを危惧して「橋を渡るな」と厳命する吉蔵。すきま風が吹き始めた2人の様子を、善左エ門はかつての自分と、自らの手に掛けてしまった妻の姿に重ねあわせて見守っていたのだが⋯⋯。
覚悟を決めたお峯、暴走する吉蔵、心の叫びを上げる善左エ門。橋の袂で3人の切ない思いが交錯する。
制作年: | 2021 |
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脚本: | |
出演: |
2022年1月28日(金)より全国のイオンシネマ89館にて劇場上映、2月1日(火)よる7時より時代劇専門チャンネルでTV初放送