俳優・監督・観客、柄本佑
2021年は主演作『痛くない死に方』や『心の傷を癒すということ≪劇場版≫』、 黒木華とのダブル主演作『先生、私の隣に座って頂けませんか?』などが公開された俳優・柄本佑。
2022年も、さっそく『殺すな』(1月28日より一部劇場上映、2月1日よる7時より時代劇専門チャンネルで放送)と『真夜中乙女戦争』(1月21日より公開)の出演2作が控え、初夏以降は『ハケンアニメ!』と『川っぺりムコリッタ』、さらに1月14日から公開中のアニメ『シチリアを征服したクマ王国の物語』や初夏公開の『犬王』では声の出演を務めるなど、その唯一無二の魅力を持ち味に飛ぶ鳥を落とす勢いで大活躍している。
藤沢周平による時代小説が原作の『殺すな』でメガホンをとったのは、日本映画の黄金時代を支えたレジェンド・井上昭。時代劇専門チャンネルでも放送される本作品は52分と映画としては短いものの、柄本佑、中村梅雀、安藤サクラ3人が演じる江戸の人々の暖かくも切ない交錯が細やかに描かれている。
2022年1月22日(金)公開の『真夜中乙女戦争』は、10~20代を中心に支持を集める小説家・F原作の青春・恋愛・犯罪映画。弱冠29歳にしてスタイリッシュな映像スタイルで注目を集める二宮健が監督を務めた本作で柄本は、“ある恐ろしい計画”の首謀者であり主人公を翻弄する謎多きキーマン“黒服”を演じる。
俳優、監督、そして観客として映画と常に向き合い続ける柄本佑が“映画”に託す想いとは? 全3回にわたるロングインタビュー第1回目となる本稿では、全ての要素が対照的な両作品への想い、夫婦共演の裏側から出演作品へのこだわりまでを、じっくり語っていただいた。
※編集部より:井上昭監督ご逝去の報に接し、心からご冥福をお祈り申し上げます。
―井上昭監督の『殺すな』が2022年1月から公開となりますが、ジャンルとしては時代劇ですし、監督は大ベテランという点で出演のお話は特別なケースとして受け取ったんじゃないでしょうか。
そうですね。僕は井上(昭)組は2回目なんですが、2015年に檀れいさんが主演されたドラマ『遅いしあわせ』という作品で、初めて(井上)昭さんとご一緒させていただだきました。その当時、昭さんは87歳くらいで、現在は93歳ですね。
『遅いしあわせ』も時代劇専門チャンネルの同じシリーズでした。それで昭さんの現場にはまた参加させていただきたいなと思っていたところ、3年くらい前に『殺すな』のオファーを脚本家の中村努先生の生原稿のコピーでいただいたんです。そうしたら昭さんが監督ということで、是非ともやりたいです! とお返事した感じですね。
撮影の間、昭さんが溝口健二監督の助監督をされていたというお話を聞いていく中で、脚本家の依田義賢さんやカメラマンの宮川一夫など、出てくるお名前が凄すぎて、ちょっとタイムスリップした気持ちになりました。昭さんは演出に関して声高に「こういうことやってくれ」とおっしゃる方ではないんです。理想は「よーいスタート」でテストをかけて、監督と役者の目があった時に“俳優が顔を横に振ればテストをもう一回、相手が縦に頷けば本番”という関係性だとおっしゃってました。
―阿吽の呼吸という感じですね。
はい。明らかな演出をあまり言われないその中で、しっかりと根付いた演出がある、という感じがします。とにかく演出的なことで昭さんが言うのは、「喋りたくないセリフがあったら喋らないでくれ」ということだけなんです。セリフをとにかく省きたい方なので、セリフが増えることは全くないですが、減ることは多々ありますね。
―珍しいですね。今は説明台詞を多用する映画が多いですから。
そうなんです。説明を省きたい、とにかく喋らせたくないらしいです。どういう編集になっているか分からないのですが、『殺すな』では、ひとりの呟きみたいなセリフなどは省かれました。“心の声”にする、という。
あとは、セリフのないト書きだけが書いてあるシーンにすごく時間をかけて、丁寧に撮られていました。昭さんは、つながりとか理屈が通っているといったことよりも、多少しっちゃかめっちゃかでもそこにテーマさえ映ってればいい、というお考えなんです。
以前、撮影時に伺ったんですが、昭さんは究極、男と女が向かい合って座り喋ることなしに、どちらからともなく頷く……という、なぜ頷いたのか説明はないし分からない、でも何か胸に迫ってくるものがある作品がやりたい、とおっしゃっていました。そういう意味では『殺すな』もかなり究極的で、ワンテーマをぎゅーっと見つめる作業でした。
―“男女”というところで、安藤サクラさんと実のご夫婦として本格的な共演は本作が初めてですよね。井上監督の作品に出演する際に、お二人でお話はあったのでしょうか?
普段は夫婦という関係性ではあるけれど、井上昭を前にしてそれは関係ないよね、という話はしました。(井上)昭組をやりたい。昭組をやれるということは今、どの組に出ることよりも幸せな気がするので、それは断る方がナンセンスだなという感じで。もちろん緊張しましたが、かなり恵まれた豊かな組でした。日数こそ京都で2週間と長期間ではなかったものの、52分の作品なので贅沢だと思います。
―当然ながら柄本さんご自身が映画好きで、自ら撮られたりもされているからこそ、井上組に出たことが財産になるんでしょうね。
本当ですね、宝物です。
「レジェンドたちの現場に行けるんだったら内容は関係ない」
―『真夜中乙女戦争』は、『殺すな』とはたいぶ対照的です。二宮健監督はお若いですし、座組みもガラッと。
かなり。『真夜中乙女戦争』の二宮(健)監督は“こういう方向性でいきたい”というビジョンがしっかりしてらっしゃる方でした。二宮さん、俺より4つも年下なんです。よくこれだけのカットを撮って、見事な形でまとめられるなと。
だから、この映画は東京爆発だったり、黒服だったり、一見すると寒いことになりがちな雰囲気はあるんですが、それは最初から“二宮監督が撮る”ということであれば大丈夫だな、と思って参加させてもらった感じです。
―若手監督からベテラン監督まで、様々な現場で振れ幅のある作品が多い中、出演する決め手はありますか?
僕は、まず監督です。もし監督が高橋伴明さんだったり根岸吉太郎さんだったり、それこそ『殺すな』の(井上)昭さんだったりしたら、もう脚本の内容は関係ないですよね(笑)。僕は映画が好きで、映画作りへのミーハー心を持ってこの業界に入ってきたので、レジェンドたちの現場に行けるんだったら内容は関係ないかな。
あとは共演者ですね。シーン数は少なくても(岸部)一徳さんとガッツリ共演できるとか、(石橋)蓮司さんとご一緒できるとか……。そういった“手がかり”みたいなものがない場合は、監督と一度お話させてもらいます。『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021年)の堀江(貴大)監督などは、そうでしたね。フィーリングというか、お会いしてみて「この人の映画に出たいな」とか、肌触りみたいなことも大事にしています。
取材・文:稲田浩
撮影:大場潤也
スタイリング:望月唯
ヘアメイク:星野加奈子
ロケコーディネート:
ジャケット¥107,800(KENZO/KENZO Paris Japan TEL:03-5410-7153)、スウェット¥25,300、パンツ¥36,300、ソックス¥5,500(AURALEE)、サンダル¥83,600(AURALEE MADE BY FOOT THE COACHER)全てAURALEE TEL:03-6427-7141
室内コーディネート:
ジャケット¥52,800、Tシャツ¥15,400、パンツ¥36,300、ソックス¥5,500(AURALEE TEL:03-6427-7141)
『殺すな』は2022年1月28日(金)より全国のイオンシネマ89館にて劇場上映、2月1日(火)よる7時より時代劇専門チャンネルでTV初放送
『真夜中乙女戦争』は2022年1月21日(金)より全国公開
『殺すな』
裏店の長屋で筆づくりの内職をして糊口をしのぐ浪人・小谷善左エ門は、同じ長屋に住む船頭の吉蔵から、一緒に暮らすお峯の様子を見張るように頼まれていた。
元は船宿の女将と抱え船頭だった2人は、密通のうえ駆け落ちして、ここで隠れるように暮らし始めたものの、やがてお峯は退屈な日々に虚しさを感じ始める。
気晴らしのため川向こうへと架かる橋を渡ってみたい⋯との思いに駆られるお峯と、居場所が露見することを危惧して「橋を渡るな」と厳命する吉蔵。すきま風が吹き始めた2人の様子を、善左エ門はかつての自分と、自らの手に掛けてしまった妻の姿に重ねあわせて見守っていたのだが⋯⋯。
覚悟を決めたお峯、暴走する吉蔵、心の叫びを上げる善左エ門。橋の袂で3人の切ない思いが交錯する。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
脚本: | |
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2022年1月28日(金)より全国のイオンシネマ89館にて劇場上映、2月1日(火)よる7時より時代劇専門チャンネルでTV初放送