工くんは“昭和感”があって、ふんどしを普段使いできる男(笑)
―まずは<ベストフンドシストアワード 2018>新人賞受賞、おめでとうございます。
斎藤:ありがとうございます。
白石:おめでとうございます。新人賞(笑)
―授賞式のご感想は?
斎藤:思いのほかマジメな空間だったんですよね、記者の方たちも。
―ふんどし姿にはならなかったんですよね?
斎藤:もうちょっとカジュアルなイベントかなと思いきや、結構マジメな……。これ、ちょっと笑ったら負けだな、という謎の緊張感がありました。でも、面白い称号をいただいたなと思います。
―会場にはたくさんの人がいらしたんですか?
斎藤:受賞者は3人だけでしたが、記者の方はたくさん来ていただきました。正直、何を記事にしに来たんだろうと(笑)。
白石:(受賞者は)工くんと……
斎藤:平成ノブシコブシの吉村さんと、19歳の浅川梨奈さん。『血まみれスケバンチェーンソーRED』で“女子高生でふんどし”という、チェーンソーを持ったキャラクターを演じられています。
―斎藤さんのふんどし姿はいかがでしたか?
白石:いやカッコよかったですよ、本当に! こんなに“昭和感”がある方だと思っていなかったので。ものすごく似合ってたし、バランスも良かったですよね。(ふんどしを)普段使いできるんじゃないかなって。
斎藤:ハハハ(笑)。連日ふんどしを身につけていると、不思議とだんだん自分の良いポイントというか力加減というか、あるんです。やはりある程度“G”がかかっててほしい、みたいな。締め方とか。「自分との対話」みたいなところはありますね(笑)。
人と人が擦れ合う昭和から来た哲に、現代人が失くしたものを教えもらった
―『麻雀放浪記2020』は斎藤さんご自身が「この作品をぜひ映画化したい」と温めていた作品だと聞いています。
斎藤:「ずっと温めていた」というほどでもありませんが、原作者である阿佐田哲也さんの奥様と10年ぐらい前に知り合ったんです。それで今の若い世代の方たち、「麻雀放浪記」を知らない方たちに、どうやってこの不朽の名作を、そのDNAを絶やさないでいられるか? ということを考えてはいたんです。ただ、それを具体的に、僕が中心になって映画化に向けて働きかけることはできませんでしたが。
でもリメイクをすることによって、特にこういう特殊なリメイクの仕方なので、これをきっかけに「麻雀放浪記」の面白さ、麻雀の面白さを知ってもらえる作品にはなったし、時間がかかったことも必要だったと思えました。その間にオリンピックが日本に招致されたり、Jアラートが鳴る時期があったりと、10年前には思ってもいなかった展開を東京自体も……。そういう流れになってきて「今なんだ!」っという。不思議な流れを、この10年間見てきました。
―お二人から、この作品についてご説明いただけますか?
白石:昭和の男“坊や哲”が、あることをきっかけに2020年にタイムスリップしてしまうんですが、その近未来の日本・東京という舞台で、麻雀を武器に最後まで己を曲げず戦い抜く男のお話ですね。
斎藤:哲は昭和の象徴でもあります。その存在がとっても“アナログ”なんです。彼が現代に来たことによって、いかに人との“摩擦”を避けるように世の中ができているか? っということを、哲を通じて僕もたくさん感じました。どっちがいいのか分かりませんが、昭和のその摩擦というか、人同士が擦れ合うというか、ダメージを受けても皮膚がかさぶたでぶ厚くなっていく……みたいな。そういう時代の象徴である哲が現代(近未来)に来ることで、僕らが自然に受け入れているAIの台頭だったり、便利になっていく世の中で気づかないうちに失っているものを、彼に教えてもらったような気がします。
―白石監督は、本作のオファーを受けての第一印象は?
白石:和田誠監督の傑作(『麻雀放浪記』1984年)があったので、本当に無謀な戦いだなと思いましたし、絶対やりたくないと思いました。
(一同笑)
白石:ただ、大胆に設定を変更することによって、和田誠版の名作とはまた別の“戦い方”……って言うとアレですけど、“描き方”があって。しかも、僕らが阿佐田哲也先生が書かかれた「麻雀放浪記」をリスペクトしている部分をそんなに壊さず新解釈でやれば、それはそれでまた別の一手だなぁとは思いながら作りました。
最初のシーンから「新しい斎藤工を見つけた!」と感じた
―白石監督は今もっとも勢いのある監督のひとりだと思います。斎藤さんが監督として白石監督を尊敬する部分や見習いたい部分、撮影前後の印象で変わったことなどはありますか?
斎藤:見習うことだらけですし、それは自分も映画を作るからというよりは、映画ファンとして「観たいものを観せてくれる」監督。そういう監督って、本当に少なくなったなと。時代の流れとかコンプライアンスとか、「仕方ない」って言ったらそれまでですけど、白石さんの描くものは共通して「テレビじゃ観せてくれないもの」なんです。
でも映画の魅力って、それが全てだと、どこかで思っていて。その境界線がなくて、スマホで観るものも含めて映画という時代になってきているのかもしれないんですけど。“映画の中毒”になっていった自分の感覚として、白石さんの作品を観ると「そこに行って、喰らう!」という感覚になれる、そういう監督さんなんですよね。“体感”がそこにあるというか。
―撮影現場はいかがでしたか?
斎藤:たぶん、多くの人が作品のイメージを白石さんご本人に投影して、構えてしまうかもしれないんですけど、本当にマイルドな方で。“共犯関係”を作ってくださる方なので、ただ託されるということでもなく、そこに寄り添ってくれて一緒に何かを仕掛けていく、こっち側に来てくれるというディレクションは本当に心強かったですね。他の役者さんたちに対してもそうでしたし、僕にとっては理想的な現場でした。
―そんな斎藤さんの言葉を聞いてどうですか?
白石:いえいえいえ(笑)、それはこちらも同じで。「麻雀放浪記」を再映画化する際に、設定を変えればいいとはいえ、たぶん怒られることもすごい多いんですよね。そんな中で工くんが「生涯No.1」とまで言い切っているこの映画で“相棒”になってくれるということが、どれだけ救いになったかっということもあったし。ふんどしのときも言いましたけど、想像以上にすごく“昭和のアウトロー”感があって。もう最初のシーンで「“新しい斎藤工”を見つけた!」という感じがあって、ただただ楽しかったですね。
関係者にすら観せない“パワープレイ公開”がヤバい(笑)
―白石監督作品には世の中がザワつくような、良い意味で“問題作”と言われる作品も多いと思います。作品を世に出す上で「世の中にこういう反響を生み出したい」といった意図はありますか?
白石:いやー、どうでしょうね……。基本的には面白い映画を作りたいという一念でしかないんですが、ただ世の中がコンプライアンスだ何だと言えば言うほど、そのギリギリを突いていきたくなるというか。それはどこかで少し意識してやっているのかもしれないです。とはいえ危険な橋を渡っているようなところもあるので、そのバランスはいつも考えながらやっている。でも、最終的には自分が楽しんで観られるものをどう撮るか、でしかないんだとは思うんですけど。
―『麻雀放浪記2020』も「ヤバい」「問題作」といった宣伝文句が使われていますが、そういった部分でお二人から見て感じるポイントはありますか?
白石:まずもちろん、日本が2020年にオリンピックを国を挙げてやろうとしている中で、中止になってるという、その設定ですよね。ついこの間も、詳しくは聞いてないんですが色々と怒られたみたいで(笑)。大丈夫かなという部分はあるんですけど……というかもう、全部ですよね?
斎藤:うーん、そうですね……。
白石:何から喋っていいか分からないくらい。
斎藤:そういう要素が凝縮してる映画ではあるので……どうなんだろう。でも、関係者に観せずに公開に運ぶということ自体が、もうヤバくないですか?
白石:(笑)
斎藤:何かを言われる前に公開するという、パワープレイですよね。“パワープレイ公開”ということ自体が、もうヤバい(笑)。ただ僕は、映画って本当に劇場で育っていくと思うので、お客さんがこの作品をどう捉えてくれるかということで育っていく、僕らが予想もしないところに転がっていくんじゃないかなという期待値は、めちゃくちゃありますね。
なんか「この映画はこうだから、こう捉えてください」というお膳立てがあまりにも多くて、それは観る人の自由だと思うんです。その“安全ネット”みたいなものなしで向き合える作品が少ないので、大勢に届いたらそれはそれで嬉しいんですけど、それよりも本当に“誰かの人生を変える一本”になってほしいなと思いますし、そうなる作品だと思います。
白石:盛大に叱られる可能性もあるんですけど、得も言えぬ中毒性もありますね。だから、試写をしないって言った宣伝部がバカなのか知らないですけど、本当に関係者にも見せないんですよ!(笑)。僕も「もう一回観たい」って言っても観せてくれないですからね。
斎藤:確かに(笑)。僕も一回しか観てないですね。
白石:一番観たい映画が自分の映画という、「そんなことある!?」みたいな(笑)。もう一回確認したいですよね、いろいろ。
斎藤:そうなんですよ、確認箇所が多すぎて。
(一同笑)
褒めるわけにもいかないだろうけど、娯楽作品として楽しんでくれたはず
―ちなみに国会議員向けの試写会を開催されたそうですが、皆さんの反応というのはどういったものでしたか……?
斎藤:もちろん、立場的に厳しい意見をくださったんですけど、単純に上映後の雰囲気としては、楽しんでくれていた、というのが大前提としてあるので、僕はとっても確証を得ましたよ。その上で、やはり設定上オリンピックに向かっていたり、麻雀を促進していこうという方たちなので、この描かれ方に対して「そこはどうなんだろう?」という意見は持っていらっしゃいましたけど、映画娯楽として楽しんでいたと思います。
白石:いま国会議員の議員連盟も、麻雀を健全な頭脳スポーツとして、昔あったようなギャンブル性のない麻雀にしようとしているんですよね。ただ、この映画はそこから逆をいっちゃってるから、褒めたくても褒めるわけにもいかないという風に僕は受け取ってますけど(笑)。
―撮影中、皆さんは麻雀されてましたか?
白石:しましたよ。
斎藤:しましたね~。
―どなたが強いんですか?
斎藤:大幅に誰かが一人勝ちしたという感じじゃなかった気がします。でも自然と卓を囲んでました。
白石:ベッキーが麻雀のマの字も知らなかったので、今回のためにものすごく練習したんですよ。僕らみたいに草麻雀じゃなくて、もうスタートからプロに教えてもらったので。プロと一緒に打っていて「スジがいいね!」って褒められてました。雀士ですよ、彼女は。
―最後に、これから映画をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
白石:『麻雀放浪記2020』は名作「麻雀放浪記」を大胆に変えて作り上げた、映画の中に“毒”しかない作品ですので、ぜひ覚悟を決めて観てください。
斎藤:早く観ないと、もしかしたら観られなくなっちゃう可能性のある映画ですので、“なる早”で観に行ってください(笑)。
『麻雀放浪記2020』は2019年4月5日(金)より全国公開