リーアム、男児連れで麻薬組織から逃げる
2021年11月に日本公開された『アイス・ロード』で、トラック運転手の底力と兄弟の絆を体現してみせた名優リーアム・ニーソン。『96時間』(2008年)の「娘を助けるためならエッフェル塔でも壊してみせる」という名ゼリフが示すように、彼が演じるキャラクターは家族の身に危険が迫った時、驚異的な能力を発揮する。では、赤の他人のためならどこまでやるのか? そんな疑問にひとつの答えを示してくれるのが、2022年1月7日(金)公開の主演最新作『マークスマン』である。
本作でニーソンが演じるのは、元海兵隊の腕利き狙撃手という過去を持つ牧場主のジム・ハンソン。妻に先立たれ、借金のせいで牧場も競売にかけられようとしている中、アリゾナ州の田舎町で愛犬と共に細々と暮らしている。しかし、彼がメキシコ国境付近で麻薬カルテルに追われていた不法移民の母子と出会ったことで状況は一変。瀕死の母親に「息子をシカゴの親戚のもとに送り届けてほしい」と頼まれたことから、ジムはミゲルという少年(ジェイコブ・ペレス)を連れて、カルテルの殺し屋たちの追撃を振り切りながら、遠く離れたイリノイ州シカゴまで危険な逃避行に出ることになる。
生きる意味を見失った頑固オヤジの「心境の変化」に胸が熱くなる!
相手が赤の他人ということで、当初ジムはカルテルとの銃撃戦で少年の母親を死なせてしまった負い目から、義務感で依頼を引き受けたという印象が強い。しかし妻を亡くして以来、生きる意味を見失っていたジムが、ミゲルとの交流を通して「身寄りのない少年をカルテルの魔の手から守る」という使命に目覚め、元海兵隊としての矜恃と道義心で困難に立ち向かっていく姿に心を打たれる。亡き妻の連れ子で国境警備隊員のサラ(キャサリン・ウィニック)に対して「(自分は)託されたことをやり遂げる」と告げるシーンは、観る者の胸を熱くする名場面だ。
「逃避行」「元狙撃手の主人公」という物語の設定上、いわゆる“リーアム拳”が炸裂する豪快な立ち回りは抑え気味だが、狙撃に特化したガンアクションにはストイックな趣がある。全編に漂うロードムービー的な雰囲気も相まって、本作は現代を舞台にした老ガンマンと少年の西部劇のような、滋味あふれる作品に仕上がっている。
ドラマ『24』の作曲家が、主人公の実直さと愛国心を描き出す
ジムの昔気質なキャラクターや、前述の内面の変化は、本作の音楽にも影響を与えている。スコア作曲を手掛けたのは、ドラマシリーズ『24 TWENTY FOUR』(2001~2010年ほか)の音楽でエミー賞の作曲賞を3度受賞しているショーン・キャラリー。ジャック・バウアーも本作のジムも愛国者なので、そういう意味では適任者と言えるかもしれない。キャラリーは『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』(2012~2019年)や『Marvel ジェシカ・ジョーンズ』(2015~2019年)などテレビシリーズ中心の作曲活動を続けており、『マークスマン』は彼にとって久々の長編映画作品となる。
筆者は『24』の国内版サウンドトラックアルバム(シーズン1から3までの代表的な音楽を収録)が発売になった際、キャラリーに差込解説書用のコメントをもらった縁があるので、先日数年ぶりにコンタクトを取って、『マークスマン』が日本で劇場公開される旨を彼に伝えた。キャラリーもそのことを喜んでおり、話が弾んで本作のメインテーマ(ジムのテーマ)についても詳しく教えてくれたので、この場を借りて彼のコメントをご紹介したいと思う。
当初、ジムのテーマは映画のラストで一度だけ使うつもりだった。でもロブ(※ロバート・ロレンツ監督)がこのテーマ曲を気に入ったので、ジムがピックアップトラックで帰宅する映画の序盤のシーンでも使うことにしたんだ。
リーアムの演技は素晴らしかったね。僕らは最初、アリゾナ州の砂漠で暮らしている疲れ切った孤独な男としてのジムを目にすることになる。彼は元海兵隊員だが、妻の死から立ち直れず、家も差し押さえの危機に瀕している。そんなツキに見放された男であるにもかかわらず、彼の精神には人々を高揚させる何かがあった。それは彼が様々な困難に直面しながらも、誠実さを忘れずに生きてきたからだと思う。僕はその観点からジムのテーマを作曲したんだ。だから気に入ってもらえて嬉しかったよ。
『マークスマン』のスコアは、アコースティックとエレクトロニックの両方の要素を持ち合わせたハイブリッドなものとなっている。キャラリーは『24』のシーズン3でヒスパニック音楽の要素をうまく取り入れていたので、本作でもギターを用いた楽曲などでその経験が活かされているように思う。温かみのあるメロディの「ジムのテーマ」も含めて、キャラリーの“モダン・ウエスタン”音楽にも是非ご注目いただきたい。
ちなみにエンドクレジットで流れるボーカル曲は、米ナッシュヴィル出身のシンガーソングライター、アンドリュー・シンプルが歌う「In The End」。“俺は恐ろしい闇を見た / でも俺はそこへ身を投じる / 嵐がすぐそこに迫っている / 最後は誰もが報いを受けるのさ”という歌詞が、世の辛酸を嘗めたジムの心情を暗示しているようで、ほろ苦い余韻を残す曲である。
文:森本康治
『マークスマン』は2022年1月7日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
『マークスマン』
愛妻に先立たれ、メキシコ国境付近の町で牧場を営みながら愛犬と暮らす元海兵隊の腕利き狙撃兵、ジム・ハンソン。ある日、メキシコの麻薬カルテルの魔の手を逃れ、越境してきた母子を助けたことから、彼の運命は大きく変わり始める。カルテルに撃たれた母親は、ジムに11歳の息子ミゲルを託して絶命した。ミゲルをシカゴに住む親類のもとに送り届けてほしい――日々の生活に手いっぱいのジムだったが、仕方なくこれを引き受ける。一方、米国に侵入したカルテルは執拗に彼らを追撃。迫りくる危機に、ジムは必死に抵抗する。果たして彼は、ミゲルを守り、シカゴにたどり着くことができるのか? 命を懸けた戦いの火ぶたが、切って落とされた!
制作年: | 2021 |
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監督: | |
音楽: | |
出演: |
2022年1月7日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開