チェイスはチェイスだけど……
何作も映画に主演したり新婚ホヤホヤだったりと精力的なニコラス・ケイジだが、2022年1月7日で58歳を迎える。還暦目前とは思えない働きぶりだが、ローレンス・フィッシュバーンと共演した『ドラッグ・チェイサー』(2019年)は正月明けのボンヤリした頭で観ても楽しめる、意外な見どころが詰まっためっけもん映画だ。
本作はタイトル通りドラッグをチェイスすることには違いないのだが、緊張感あふれるカーチェイスや銃撃戦が……みたいな類の映画ではない。ある密売組織がさばくコカインの品質にケチがついたことから、コロンビアからカナダに運ばれる過程で「誰が混ぜものをしているのか」を洗い出すべく幹部クラスの売人たちがルートを監視する……という、なかなか地味なほうの“チェイス=追跡”である。
地味ニコケイ×クズいフィッシュバーンの妙味
ニコケイ演じる“ザ・クック”は組織からの信頼が厚い男で、今回の追跡ミッションを任される。この追跡、地味ではあるがストイックとも言えるし、誰が裏切り者か分からない緊張感、さらに随所で間の抜けた失笑も提供。もっさり極まる地味ニコケイと生き様がセコすぎるフィッシュバーンのキャラ設定は、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『バッド・ルーテナント 』(2009年)なんかが好きな人にもハマるだろう。
他キャストも『プライベート・ライアン』(1998年)のバリー・ペッパーとアダム・ゴールドバーグや、『アイアンマン』(2008年)のレスリー・ビブなど地味に豪華。中でもコカイン農家のクリフトン・コリンズ・Jrがチョイ役ながらいい味を出していて、映画の冒頭とラストをピリリと引き締めている。思わずズッコケるクライマックスは賛否あるかと思うが、麻薬カルテル映画が好きならば押さえておきたい変わりダネの一品だ。
コカイン=富裕層の嗜好品よりも恐ろしいのは……
コロンビアの山奥で、ごく普通の農夫家族によってDIY密造されたコカイン。最初はキロ当たり1600ドルだった売値が、危険を冒して海外に密輸出される過程でぐんぐん桁上がりしていく。観る側としてはNetflix『ナルコス』(2015年~)を経ていたりするから、警察内部にまで及ぶ腐敗やDEAとの攻防など、ある程度の下準備はできている。コカインなんて一部の人間の嗜好品なんだから麻薬系鎮痛剤の氾濫のほうが大問題だと思うのだが、レスリー・ビブ演じるDEA捜査官は“粗悪な混ぜものコカイン”で家族を亡くし、自分ごととして文字通り血眼で組織を追いかける。
犯罪に手を染めながら、なお搾取され続ける末端の売人たちの姿も描く本作。苦しい生活を強いられる人が増えれば増えるほど、ドラッグがつけ込む隙を与えることになる。だが、中毒性が高くあらゆる世代に蔓延していく合法的な鎮痛剤などは、どんどん貧しくなっていく我が国にとっても近い将来、他人ごとではなくなるはずだ。“疼痛”が労働者階級の心身を蝕む頃、麻薬戦争モノ映画に代わって製薬会社の不正を追求する映画こそがリアルになっているかもしれない。
特集:ニコラス・ケイジ誕生祭『ドラッグ・チェイサー』『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』『ザ・ビースト』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年1月放送
『ドラッグ・チェイサー』
南米コロンビアで生産された高純度コカインが、最大の消費地アメリカへ向け陸路で送り出された。カナダに拠点を置く麻薬組織のベテラン運び屋、ザ・クックも動き出す。そこは欲望にまみれた裏切りと騙し合い、DEA(アメリカ麻薬取締局)の追跡捜査が続く混沌とした世界だった。
制作年: | 2019 |
---|---|
監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:ニコラス・ケイジ誕生祭」で2022年1月放送