強い人と“強くなっていく”人
最近気づいたのだけど、女性が戦う映画が好きだ。僕の亡き妻が空手でめちゃくちゃ強かったのも、その“好き”につながっているのかもしれない。とにかく、芯が強い女性が背筋を伸ばし凛とした立ち振る舞いでスクリーンに現れると、もう一撃でやられてしまう。
バッチの四十九日終わりました!コロナで北海道へは行けないから家で写真を並べてお線香焚いてました。天国でゆっくり休んでて欲しいけど優香の事だから絶対向こうで空手やってるな!笑
— ゾニー (@zozozozozony) May 23, 2021
優香の幸せは俺の幸せだから俺が幸せなら優香も幸せだな!繋がりをとても感じます!晴れ女だから今日は晴天だ! pic.twitter.com/c5oQvVvA1U
たとえば『エイリアン』(1979年)や『キル・ビル』(2003年)、最近ではNetflixの『オールド・ガード』(2020年)、DC映画の『ワンダーウーマン』(2017年)などがあった。そのすべてに共通しているのが、肉体的に強いだけではない“芯が強い女性”ということだ。ちょっと説明が難しいんだけど、『ニキータ』(1990年)はここに入らない。
先日観たNetflixオリジナル映画『ブルーズド ~打ちのめされても~』は、主人公が弱かった過去を乗り越えていく物語だった。すなわち芯が“強くなっていく”映画だと思う。ハル・ベリーの主演兼、初監督作品で、屈辱的な敗北を喫した総合格闘家ジャッキー・ジャスティスが、かつて手放してしまった幼い息子と再会し、ファイターとして母親として再起を図る。
傷ついた主人公が最後のチャンスをつかむべく立ち上がる、いわゆる『ロッキー』(1976年)的な映画? いや違う。女性ボクサーを描いた『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)とも違う。主演・監督・製作を務めたハル・ベリー自身の生い立ちや私生活に密接に関係していて、その心の内に在るものを映画として表現していると僕は思った。
物語の中で肉体改造していくハル・ベリーの凄み
ハル・ベリーといえば、アフリカ系アメリカ人として初めてアカデミー主演女優賞を受賞した『チョコレート』(2001年)や、ボンドウーマンを演じた『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)の登場シーンを思い出す人が少なくないと思うが、僕は『キャットウーマン』(2004年)でゴールデンラズベリー賞の授賞式に登壇したことが一番印象的だ。彼女は同作でラジー賞最低女優賞を受賞してしまったのだが、『チョコレート』のオスカー像を片手に、3年前のアカデミー賞のスピーチをセルフパロディする姿に感動したし、とても笑った。彼女がそのステージで喝采を浴びたのは言うまでもない。
そのユーモアと器の大きさを知り、ハル・ベリーのことが好きになった。つい最近も『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年)で、華麗な銃さばきや犬を従えての過激なアクションを披露していたが、YouTube等で見られる彼女のトレーニング風景からも相当な努力家であることが伺える。映画などでアクション指導をしている知り合いから聞いたのだが、彼女はドッグトレーニングやガントレーニングを積んでいたそうだ。もちろん『ブルーズド』でも撮影に向けて約2年半もトレーニングしたらしく、少したるんだお腹を見せる冒頭から、後半に向けて徐々に仕上がっていく体を見ても、そのトレーニングのすさまじさが見て取れる。この人、いま55歳だからね!?
自分が自分に“勝つ”ためにできること
話は逸れるが、先日通っているボクシングジムで軽いスパーリングがあった。相手はジムの会長で、もちろんかなり手加減してもらったのだが、最終ラウンド残り15秒というところで、すでに僕はヘロヘロ。しかし、他のジム会員さんからの声援が力になり、スパーリングを終えることができた。初めての体験だった。ライブのときに受ける歓声とは違う「頑張れ!」という声援が、本当に力になるんだと実感できた瞬間だった。
スポーツ全般に言えることだが、特に1対1の格闘技において、周囲の声援がどれだけ自分に力を与えてくれるか。逆に考えると、『ブルーズド』の主人公ジャスティスのように周囲からバッシングを受けたら、どれだけ心身にマイナスの影響を与えるのかも少し理解できた気がした。だからこそ、最後の試合を終えたジャスティスが受ける観客の声と、そのときの表情に注目してほしい。
よく言われる“自分に勝つ”ための手段は、自分自身にしか見出せない。物語のクライマックス直前、トレーナーのブッダカンに対する“ある言動”は、あのときの彼女にとって必要なことだった。それが自分に勝つための、様々な問題を解決するための第一歩だったと僕は思う。
この映画に奇跡的なことは起こらない。人を愛することができず、愛され方もわからず怒ってばかりのジャスティス。その怒りを格闘技に向けて、守るべき人と自分の居場所を勝ち取るために、彼女の“芯”がどのように強くなっていくのか。一番信用すべき自分に対し、彼女はどう成長していくのか。
演技は言うまでもなく、とても55歳とは思えない素晴らしい格闘シーン、トレーニングシーンと併せて、ぜひ観てもらいたい映画です。
文:ゾニー(KING BROTHERS)
『ブルーズド ~打ちのめされても~』はNetflixで独占配信中
『ブルーズド ~打ちのめされても~』
不名誉な引退をした総合格闘家のジャッキー・ジャスティス。現役最後の試合以来、運に見放され、煮えたぎる怒りと後悔にさいなまれ続ける中、マネージャーであり恋人でもあるデシに言いくるめられ、危険な闇格闘技への参加を強いられる。そこでジャッキーは、格闘技リーグのプロモーターの目に留まり、再びリングに立つことを約束される。ところが、再起への道を歩み始めたところ、かつて幼いまま手放した息子のマニーが突如現れ、リングの世界だけでなく、人生の再起をかけて立ち上がることに―。
制作年: | 2021 |
---|---|
監督: | |
出演: |