映画界を揺るがした世界的快挙
2020年2月9日、全世界に衝撃が走った。マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、サム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』、ジェームズ・マンゴールド監督の『フォードvsフェラーリ』といった史上稀にみる超強力なライバルたちをおさえて、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が第92回アカデミー賞で作品賞を受賞したからだ(※すべて2019年製作)。
アカデミー賞史上初めて作品賞を受賞した外国語映画という栄誉を得た『パラサイト』は、さらに監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の合計4部門を制覇。また、同年の第72回カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを同時に受賞するという快挙を成し遂げた。
舞台化の構想から始まった社会派サスペンス(・コメディ)
『パラサイト 半地下の家族』では、薄汚れた半地下住宅に住む4人家族が、高級住宅地に住むパク一家に寄生(パラサイト)する中で、想定外の事態が続くことで巻き起こる凄惨な事件が描かれる。
本作はポン・ジュノ監督が20代前半に、大都会ソウルの裕福な家庭の子息の家庭教師をしていた経験をもとに、超格差社会の韓国において上流階級と下層階級の交わる数少ない機会として、家庭教師という職業を描くことが面白いのではないか? という発想から、まず舞台化の構想が始まった。結果、舞台ではなく映画化されることになるのだが、下層階級のファムファタルによって上流階級一家が崩壊していく様を描いた韓国の伝説的映画監督キム・ギヨンの代表作『下女』(1960年)や、ポン・ジュノ監督が敬愛する黒澤明監督の『天国と地獄』(1963年)といった名作からインスピレーションを得ながら、韓国の社会問題である格差社会を描く脚本を仕上げていった。
また、脚本の段階で下層階級一家の父ソン・ガンホと息子のチェ・ウシクはアテ書きとなっており、特にガンホ兄貴がオファーを断っていたら本作の製作は中止されていたという。
階層(昇降)が物語のトリガーとなる「階段(ゲダン)シネマ」
本作には、半地下住宅という韓国特有の事情(1968年に起こった青瓦台襲撃未遂事件の結果、ソウル市の住宅は戦時にトーチカや防空壕になるように半地下を作ることが命ぜられた)によって誕生した、低所得者層が住む階段状の特殊な住宅環境、そしてパク一家の住む高台の高級住宅地に続く階段、高級住宅内の秘密の階段などが登場する。
ポン・ジュノ監督は、本作を“階段(ゲダン)シネマ”と名付けており、階層と階層、登場人物と登場人物、物語と物語、秘密と秘密を繋ぐ、あらゆるポイントに階段が配置されている。登場人物たちが階段を上ったり下ったりしたとき、物語が大きく動き出すので是非チェックしてみてほしい。
💁♂️イ・ハジュン⚒🎨
— 映画『パラサイト 半地下の家族』 (@Parasite_JP) October 31, 2019
プロダクション・デザイナー
ポン・ジュノ監督とは「オクジャ/okja」に続く2度目のタッグ。
“あらゆる空間にリアリティを求めました。多くの時間を費やし、再開発が予定されているソウルの古い町並みを歩き回りました。”
道以外すべてがセット…🥶⚒#パラサイト半地下の家族 pic.twitter.com/5KEdno8FeO
このような映画のウンチクや裏事情が満載で、一緒に笑ったり怖がったり泣いたりしながら映画を楽しむ新スタイルの番組『副音声でムービー・トーク!』。新年一発目は今回ご紹介した『パラサイト 半地下の家族』を放映します! 一緒に映画を楽しみましょう!!
文:高橋ターヤン
『パラサイト 半地下の家族』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「副音声でムービー・トーク!」で2021年1月放送
https://www.youtube.com/watch?v=xq531RJo9GE