ジョン・ベルーシがいた時代
コメディ映画、あるいは音楽映画のオールタイム・ベスト1として『ブルース・ブラザース』(1980年)を挙げる人は多いんじゃないか。いや、「じゃないか」も何も筆者がそうなんだけれども。
相棒エルウッド(ダン・エイクロイド)と共に歌って踊ってカーチェイスと、大暴れするジェイク。演じるジョン・ベルーシは、クールであり愛嬌たっぷりでもあり可笑しくて狂っていて、その破天荒ぶりは他の映画やコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』(1975年~)のスケッチ(コント)でも見られる。
本人と役のイメージが限りなく近いタイプ。だからこそなのか、その人生は全力疾走だった。コメディに命をかけて、その代償は麻薬の過剰摂取による夭逝。1982年、彼はまだ33歳だった。
そんなベルーシの人生をドキュメンタリー映画にしたのは『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』(2021年)のR・J・カトラー。もちろん本人に取材するわけにはいかないが、ベルーシの妻ジュディスは自宅の地下室に音声テープや映像、写真、それに手紙を保管していた。
加えて出演した映画、『SNL』などの映像、関係者たちのインタビューも。アニメパートもあるが、そこもインタビュー音声がベースで抑制が効いており、作品全体の中によくなじんでいる。
レジェンド級の同期コメディアンたちが総出演
ベルーシはアルバニア移民の子として生まれた。父はダイナーを経営、後を継ぐことを期待されていたが、学生時代から演劇に夢中になる(と同時にアメフト選手でもあった)。映画は豊富な映像(写真)資料とインタビュー、ベルーシ本人の肉声から出世物語を描き出す。
シカゴのコメディ劇団「セカンド・シティ」での活躍。ニューヨークではコメディ雑誌「ナショナル・ランプーン」のラジオショー。そして伝説の番組、数々のコメディアンを輩出し、映画スターも生み出した『SNL』第1期メンバーへ。
映画はベルーシの軌跡をたどり、それは70年代から80年代にかけてのアメリカン・コメディ史にもつながってくる。インタビューで登場するのもエイクロイドにハロルド・ライミス、チェビー・チェイスといった同時代のコメディアンたちだ。
『SNL』のオーディションでベルーシが披露したネタ。有名な「チーズバーガー」スケッチの裏話。チェイスへのライバル心。そして常に変わらない、エイクロイドの献身と2人の友情。それは本当にジェイクとエルウッドのようだ。
一方でジュディスへの手紙からは繊細さも伝わり、またネガティブな面も遠慮なく映し出される。あらゆる要素がベルーシなのだということだろう。そのショッキングな死まで、映画は丁寧に追っていく。ハリウッドで闘い、疲弊するベルーシにエイクロイドがかけた電話の内容も明らかになる。
とても切ない。が、ベルーシがどれだけ激しく生きたか、それを周囲がどう支えたかもよく伝わってくる。よくある“ドラッグ残酷物語”ではなく、安易なトラウマ探しでもなく、そして何より、見終わった誰もがベルーシをそれまで以上に好きになっていることだろう。エンド・クレジットで流れる曲まで、たまらなく愛おしい。
文:橋本宗洋
『BELUSHI ベルーシ』は2021年12月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
『BELUSHI ベルーシ』
アルバニア移民の家庭に生まれ、よそ者と見られることに対しての処世術と成功への願望からか、幼少期から自然とユーモアを身につけたベルーシ。彼は、学生時代にはバンド活動や寸劇をするグループの中心人物として周りを笑わせる存在になる。その後、シカゴの即興コメディ劇団からキャリアをスタートし、その成功を機にニューヨークへ拠点を移す。舞台、ラジオ、TVや映画の他、ライブアルバムを発売すると大ヒット。話題が話題を呼び、あらゆるジャンルで大成功をおさめる。しかし、あまりにも早くアメリカン・コメディの象徴的存在になったことは、彼に大きなプレッシャーとなってのしかかっていき……。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2021年12月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開