サニーデイ・サービスとして新曲「TOKYO SUNSET」を配信リリースし、自らミュージックビデオを監督。さらに写真家・佐内正史とのユニット“擬態屋”を結成するなど、2021年も精力的なリリースを展開したミュージシャン・曽我部恵一。自身のレーベル<ROSE RECORDS>の運営だけでなく、カフェやカレー店、レコードショップの経営など、その活動は多岐にわたる。さらに近年は俳優として映画出演もする曽我部に、自身の半生と映画との関係、今後の展望、そして「曽我部恵一映画祭」の壮大な構想まで(!?)、たっぷり語ってもらった。
「自分の音楽は、もう一生懸命100%わがままで」
―曽我部さんは「ROSE RECORDS」というレーベルを自分の裁量で動かしながら、お店(カフェ[CITY COUNTRY CITY]のほか、[カレーの店・八月][PINK MOON RECORDS]など)もやられていたり。そうやって色んな世界を一から作れる人って、そんなにいないのかなと思っていて。
お店に関しては「やりたい」と思ったというよりは、流れで始めていて。最初は仲間とカフェをやっていたんですけど、それもたまたまでした。でも、やるならばお客さんも来るし、良い場所にしようって、それだけなんですよ。それで10年以上やったから、また一つ自分たちの場所があってもいいんじゃない? という話になりました。だから、自分が率先して「次はこれをやろう」みたいにはやってないんですよね。
―意外ですね。
周りにはそういう風に映るのかもしれないけど、流れでやってる方が多いです。仕事とかも全部そうだし。主体的に「じゃあ次これやるぞ」みたいなことは一切ないですね。
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— CITY COUNTRY CITY (@citycountrycity) November 26, 2021
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―あんなに手広くやっているのに。
そうなんですよね。ただ、お客さんが来てくれるのは、みんな(スタッフ)にとってすごくありがたいこと。僕らが作った場所にお客さんが来てくれて、お金まで頂けるというのが驚きで。音楽もそうなんですけど、なんか勝手にやってて、それで喜んでくれるとかお金を払ってくれるなんて、ただただありがたさしかないというか。だったらできる限りのことをしよう、という感じでやってますね。
だからこそ、お客さんに合わせられるんだと思います。例えば、このカレーじゃないと絶対ダメだ! とかは一切なくて、みんなで総合的にオッケーとなるものを作ってるという感じ。お店のやり方も、意見をもらってみんなで決めていく。みんながお客さんのために良くなる手助けができればいいなと思って、ミーティングとかも参加するんですけど、そもそも僕、お店から一銭も貰っていないんです。だからそんなに責任感も感じていない。あとは来てくれる人とか、応援してくれる人に委ねるだけ。音楽もそうだと思うんですけどね。
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— カレーの店・八月 (@8gatsu_curry) November 26, 2021
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―そうなんですね!
音楽は「こういうのやりたい」「すごく好きだ」っていうのが自分の中にはめっちゃあるんですけど、それはすごく個人的なこと。そこにお客さんが来てくれたり買ってくれたりするので、やっていけているという認識がすごくある。だからこそ一生懸命やろう、というのはありますね。一生懸命お客さんに合わせようというのは結局、無理だと思うので。だったら自分の音楽は、もう一生懸命100%わがままで、「これが俺だ」みたいなことをやればいいなって。飽きられたら飽きられたで仕方ない。
でも、そこを応援してくれているのかなとも思うんです。「こいつ、また好きなことやってるな」みたいな。なら思いっきりやろうと。思いっきりやる、一生懸命やるっていうのは、すごく大事ですね。
―割とそこはニュートラルというか、“こうじゃないと嫌だ”というわけではなく。
そうですね。そこにこだわりはそんなにないです。音楽も、実はこだわりは奥の部分だけで、サウンドがこっちの方が聞きやすいなとか、こっちの方がみんなノッてくれるんじゃないかっていうのがあれば、全然それでいいという感じ。
―こだわりはあるんでしょうけど、ニュートラルで自然体というか。
そうですね。“自分”というものがあれば、絶対それだけなので。何を着ようが自分は自分。
「映画も音楽も“自分にもできるんじゃないか”と思わせてくれることが全て」
―レーベルもお店もチームでやっているというのは、やっぱり曽我部さんがいるからで、外から見ると“曽我部組”だとは思うんですが。
中心に自分がいるというのは明らかなことで。だからこそ、みんなのために何ができるかな、というのはもちろんあります。今そういう仕事のやり方って多いと思うんですよ。でっかい会社で、社長とメシ食ったこともない、誰がいるかもよく分からないみたいなことよりは、この人と一緒に仕事をするとか、自分もスタッフさんみんなを愛してリスペクトしてるところから始まってるから、そういうことができればいいなって、いつも言ってます。
まずは働いている人や自分たちが、「この店が好きで働いてます」っていうのがないと、お客さんが来たときに居心地いいな、とはならないと思うんですよね。ただ時給のためにアルバイトやってるだけでは、絶対(大手に)負けちゃいますもん。レーベルもバンドも全部そうかなと思っていて、考え方は一緒。やりがいを感じて、一生懸命やれているかどうかが、お客さんに伝わっていくというか。理想はそういう感じですね。
―そこはすごく柔らかくというか。
結局、そういうものしか作れないので。時代を切り拓く天才であれば、そうでない作り方とか、「もっと行くぞ!」と言って戦争みたいにできるんだけど、そういうことでもないなと思って。
―戦争みたいなものって、瞬間的には良くても続かないですよね。
まあ、続ける人もいるんですよね、中には。そういう人は好きで続いてると思うんですけど、やっぱり自分はそういう人じゃないなって思ったり。そういう気持ちになった時もあるし、30代前半には「行くぞ!」って感じで頑張った時もあったけど、やっぱり落ち着いてきますね。自分の本質みたいなところに。
―それは曽我部さん自身の人間的な成長というか?
そうだと嬉しいなと思いますね。
―周りにいる人が幸せじゃないと、遠くにいる人まで幸せにできないですもんね。
ライブでも観に来てくれた人が、「今日は来て良かったな」とか「こういう良いことがあるなら頑張ろう」とか、少しでも良き方に動いてくれたらいいですよね。そういうところが音楽の力なんですよ。映画でも雑誌でも、なんでもそうなんですけど、自分にもできるんじゃないか、やってみようかな、みたいなものが全てだと思うんです。
―ジャームッシュとかは、まさにそうでしたよね。
僕はパンクで音楽を始めたから、パンクってそういう力がすごくあったんですよ。それはやっていることが単純とかっていうよりも、その作り手のエネルギーっていうものがあって。「俺はアーティストで、こういう表現をしたいんだ!」っていうよりも、「自分は生きてここにいる」っていうことを、ただ言いたいっていう感じだったのかなと思って。そういうものにやられて始めてるところがあるから、自分もそうでありたいなと思ってます。
―なるほど。人を鼓舞したり、勇気づけたりできるのはすごいエネルギーですよね。映画にもあるし、音楽にもあるし、カレーにも、写真にもあるだろうし。
表現は全部そう。なんか良い表現って、絶対そうなんですよね。自分がやらなきゃダメだなと思うというか。いまだに、かっこいい曲とか良い曲を聴いたら「負けてられねえな」ってなるし、映画もそうなんですよね。自分も、もっと良いものを作りたいなとか思うようになって。
ぼくのだいすきなライブ盤❽
— 曽我部恵一 (@sokabekeiichi) January 21, 2020
中学のとき聴いて、バンドとかやる前だったけど「ヘタだ」とわかった。間違ったりしてるし。これと映画DOAがぼくのロンドンパンクをイメージづけてる。
ヘタだということは気持ちが技術より前に行ってるということ。だからヘタなことはぼくにとっては大事なことなんだ。 pic.twitter.com/okXWu4JAYI
もし「曽我部恵一映画祭」を開催するなら上映作品は?
―最近そういう風な気持ちになった映画はありますか?
最近観たのが、エマ・ストーン主演の『クルエラ』(2021年)っていう映画。ディズニーアニメの『101匹わんちゃん』(1960年)の悪者の話なんだけど、音楽映画になっていて、パンクロック時代のロンドンみたいな。ザ・ストゥージズとかザ・クラッシュとか、ガンガンかかるんです。それ観て、やっぱパンクいいなって。
(物語は)ファッション業界に落とし込まれていて、クルエラっていうのはヴィヴィアン・ウエストウッド的な存在なんですよ。シャネルみたいなファッション業界のモードの権威みたいなのがあって、そこに立ち向かっていくというか、対決する物語。音楽も、60s’のアニマルズとかローリング・ストーンズとかから、ザ・ストゥージズが出てきて、(セックス・)ピストルズとかザ・クラッシュまでいくみたいな、その変わりようを映画の中で見せてくれるのが、すごくかっこよくて。「うわ、いいな」と思いました。やっぱり自分は改革していく音楽みたいなものに惹かれるんだなと。
―もし「曽我部恵一映画祭」があるとして、映画を3本選んでくださいとなったらどうしますか?
以前、大分の古い映画館でライブをやったときは、内田祐也さんの『コミック雑誌なんかいらない!』(1986年)を選んだんですけど、今だとなんだろうな。
ゴジラかゾンビか、すべてを通り越した善も悪もないエネルギーみたいなものが暴れてめちゃくちゃにする映画っていうのは、1つかけたいですね。そう考えたら、ルチオ・フルチ監督の『サンゲリア』(1979年)がいいかな。『悪魔のいけにえ』(1974年)も自分の中で究極の一本なんですけど……綺麗なものも入れたいな。あ、(フェデリコ・)フェリーニの『道』(1954年)も良いですね。
―『サンゲリア』と『道』ですか。メリハリがすごいですね。
あともう1本は日本映画かな?
―堀禎一さんも観たいですね。
『夏の娘たち ~ひめごと~』は素晴らしいですよ。それでいきましょうか。そこで僕がライブをやるという、お客さん的にはすごく難しい気持ちですよね。めっちゃ揺さぶられますね。
―その映画に対してどういう音楽を奏でられるのか、すごく楽しみですね。
本当に、その3本は自分のルーツですね。
―映画観て、ライブ観て、また映画観て。すごく良いですね。
そういうのどこかやってくれないかな、朝まで!
―ぜひBANGER!!!で企画を考えたいですね。
昔、文芸坐で泉谷(しげる)さんとかライブやってましたよ。オールナイトライブっていって。
―どこか演りたい会場はありますか?
どこでも大丈夫ですよ。ただフィルムでかけられたら最高ですけどね。やっぱり昔の映画はフィルムで観ると奥行きとか全然違いますね。ひょっとしたら画質が悪いのかもしれないですけど、フィルムでかけてるなって感じがいいですよね。
取材・文:稲田浩
撮影:大場潤也