ドラッグとは無縁の人にも届く「あなたならどうする?」
もし身近な人が自分には理解できない言動を取ったら、あなたはどう反応するだろうか。僕なら、顔見知りくらいの人であればトラブルにならないように距離を置くかもしれないし、親しい友達なら衝突を覚悟で強く止めることもあると思う。理解できない言動といっても色々あるので、どの程度かによるという意見はもっともで、ほどほどに人生経験がある大人ならば大多数が「場合による」と答えるだろう。
この映画で題材とされているのは我が子がドラッグに溺れていくことであり、「あなたならどうする?」という問いかけの中でも最も過酷と言っていい類のものだ。この“肉親が抱えた問題”という切り口は、ドラッグとは無関係の人生を歩んでいる人々にも届くような形で、大きなクエスチョンを投げかけてくる。
本作品は2つのノンフィクション作品が基になっていて、映画『ムーンライト』(2016年)と同じくブラッド・ピットとジェレミー・クライナー率いる<PLAN B>が製作している。薬物依存という世界的な問題が普段の生活と地続きになっている様子を、ティモシー・シャラメ演じる息子ニック越しにリアルに描いており、社会への問いかけ方としては『ムーンライト』に通じるところがあるように感じた。
BGMの枠を超えて多用される名曲たちに耳を傾けよう
劇中、ニックの心の拠りどころとなる“音楽”は物語の大きなキーになっていて、BGMという枠を超えて多用される。音楽の歴史がドラッグと深い関わりがあることは多くのミュージシャンによって語られているし、ドラッグがモチーフとなった曲も数え切れないほど存在する。
音響的にハイになったときの音の聴こえ方を表現したものや、使用時の高揚感をさらに高めるために作られたもの、苦難に立ち向かうための決意や、禁断症状の絶望感、依存から抜け出せた喜びなどを歌ったものなど、その内容は様々だ。
この映画では文脈的にも聴覚的にも、物語の演出を強めるような役割としてそういった楽曲が配置されている。僕の大好きなデヴィッド・ボウイの「Sound And Vision」が流れるシーンがあるが、ボウイがアメリカでのコカイン漬けの生活から抜け出すために新天地で作り上げたというアルバム『Low』(1977年リリース)に収録されているこの曲は、劇中での息子の姿と重なる。
多くの名曲に飾られながら、すさまじい速さで変化していく息子と家族の関係は、映画を通して体験することで、すぐ身の回りで起きていることのように感じられた。改めて歌詞を読み返すことで、映画への理解が深まりつつ、もともと持っていた曲へのイメージまでもが立体的になるような、多層的に観ることができる作品なのかもしれない。
文:川辺素(ミツメ)
『ビューティフル・ボーイ』は2019年4月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『ビューティフル・ボーイ』
成績優秀でスポーツ万能、将来を期待されていた学生ニックは、ふとしたきっかけで手を出したドラッグに次第にのめり込んでいく。
更生施設を抜け出したり、再発を繰り返すニックを、大きな愛と献身で見守り包み込む父親デヴィッド。何度裏切られても、息子を信じ続けることができたのは、すべてをこえて愛している存在だから。
父と息子、それぞれの視点で書いた2冊のベストセラー回顧録を原作とした実話に基づく愛と再生の物語。
制作年: | 2018 |
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