天衣無縫なスターの誕生
ウィル・スミスの魅力といえば、人なつこさと底抜けに明るい笑顔だろう。彼には、アフリカ系の先人たちが背負っていたコンプレックスの陰がまったく見えない。たとえば彼の14歳年長のデンゼル・ワシントンには大先輩シドニー・ポワチエを超えるという期待が、7歳年長のエディ・マーフィーには白人コメディアンを超えるという期待が陰となっていた。二人の先輩が黒人社会からの目に見えない期待を背負ってキャリアを築いてきたのに対して、ウィル・スミスはただウィル・スミスでありさえすればよかった。そのままで楽々とスターになってしまった(ように見える)ところが、彼の非凡さであり、持って生まれた天分だろう。
ウィル・スミスことウィラード・クリストファー・スミス・ジュニアは1968年9月25日生まれで、2021年現在53歳。父親は冷凍会社のオーナーで、フィラデルフィアの裕福な家庭で育った。幼い頃から才気煥発で、学校時代にすでに“プリンス”というあだ名をつけられていたが、1986年にジェフリー・A・タウンズとラップ・デュオ、DJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンスを結成し、たちまち人気者になってグラミー賞最優秀パフォーマンス賞を受賞。
1990年には、彼が彼自身を演じるテレビ・コメディ「ザ・フレッシュ・プリンス・オブ・ベルエアー」が放送開始。これが6年続くヒットシリーズとなって、お茶の間の人気者となった。
名作『私に近い6人の他人』を経て超人気シリーズの立役者に
映画に進出したのは1992年から。翌1993年に、ジョン・グエアの舞台劇をフレッド・スケピシが映画化した『私に近い6人の他人』で、上流階級の画商夫妻の家に、夫妻の娘の友人で、シドニー・ポワチエの息子だと名乗って入り込む謎の青年を好演。ストッカード・チャニング、ドナルド・サザーランド、イアン・マッケランといった蒼々たる名優を相手に、一歩もひけをとらない演技を披露し、一躍批評家の注目を集めた。
初主演は1995年の『バッドボーイズ』。ドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマー製作のアクション映画で、兄貴分のマーティン・ローレンスと組んでマイアミ警察の破天荒な刑事を演じて映画が大ヒット。このときは、先輩のマーティン・ローレンスにトップ・ビリングを譲ったが、2003年の続編『バッドボーイズ2バッド』では名前が併記されるまでに出世する。それもそのはず、その間に『インデペンデンス・デイ』(1996年)や『メン・イン・ブラック』(1997年)といった数々のヒット作に主演。押しも押されもしないハリウッドのトップスターとなったのだから当然だ。
彼のキャラクターがよく現れた映画をあげるとすれば、出世作の『バッドボーイズ』と『メン・イン・ブラック』だろう。2本ともバディ・ムービーだが、ウィル・スミスが演じるのは基本的には同じ、『バッドボーイズ』ではマーティン・ローレンスの、『メン・イン・ブラック』ではトミー・リー・ジョーンズの弟分である。それも、こわもての兄貴の懐にするっと入り込んで、いつのまにか心を掴んでしまう憎めなさと、やるときゃやるぜ的な頼もしさも備えている理想の弟である。
『バッドボーイズ』は、ジェリー・ブラッカイマー印ともいうべきカーチェースと火薬をふんだんに使ったド派手なアクション映画で、マイアミという派手な土地柄とぴったり。マーカスとマイクのテンポのいい掛け合いが笑わせるし、『メン・イン・ブラック』は、スピルバーグの製作総指揮で、地球に侵入した異星人を取り締まる秘密組織MIBの活躍を描く奇想天外なファンタジー。苦虫をかみつぶしたようなトミー・リー・ジョーンズと、ウィルのお気楽エージェントとのコンビが出色だ。
この2作は続編が作られただけでなく、2012年には『メン・イン・ブラック3』が、2020年には17年ぶりの続編『バッドボーイズ フォー・ライフ』も公開。さらに人気ドラマ『コブラ会』(2018年~)の製作総指揮を手掛け、最新作はあのビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育て上げた実父、リチャードを演じる『ドリームプラン』(2022年2月23日[水・祝]公開)である。
いまやすっかりハリウッドの大御所となったが、SNSやYouTubeコンテンツなどにも貪欲に挑んでいるウィル・スミス。ファンだけでなくスタッフにも愛される彼の快進撃は、まだしばらく止まりそうもない。
文:齋藤敦子
『バッドボーイズ』『バッドボーイズ2バッド』『バッドボーイズ フォー・ライフ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「バッドボーイズ イッキ観!」で12月放送
『メン・イン・ブラック』1~3はCS映画専門チャンネル ムービープラス「メン・イン・ブラック イッキ観!」で2022年1月放送
主演最新作『ドリームプラン』は2022年2月23日(水・祝)公開